第158話 討伐依頼
「評議会から?」
「はい。それも、所長を指名されての依頼だそうです」
クラン本部にある俺の執務室。
秘書のキエラから受けた報告に、俺は少し驚く。
フロアールにある冒険者ギルド本部。
そのトップにいるのが、元Sランク冒険者のジールアという爺さんを筆頭とする、元・現役の高位ランク冒険者たちからなる七人の評議員たちで構成された評議会だ。
そんな連中からの指名依頼など、滅多にあるものではない。
しかも冒険者ギルド発祥の地であるフロアールには、優秀な冒険者が数多くいるのだ。
「わざわざ俺に討伐依頼を出してくるなんて、よっぽどのことのようだな」
というわけで、俺はフロアールの帝都ロアナへとやってきた。
もちろん転移魔法で一瞬だ。
「失礼します」
「おお、レイジか。よく来てくれたのう」
会長室へ入ると、立派な白いアゴヒゲを蓄えた爺さんが出迎えてくれた。
弱い百歳を超えているため皺くちゃではあるが、その見た目に騙されてはいけない。
現役の冒険者を退いた今でも、Sランク冒険者に相当する実力を有しているのだ。
「何があったんですか?」
「実はの、帝都と北の大都市を結ぶ重要な街道沿いに魔物が現れてしまって、ほとほと困り果てておるのじゃ」
「魔物くらい、この国の戦力があればどうとでもなる気がしますが?」
「それが、恐らくは伝説級クラスの魔物でのう」
ジールアがいうには、それは全身が炎に包まれた巨鳥らしい。
「幾度も討伐隊を派遣したのじゃが、その度に返り討ちに遭ってしまってのう」
この国でも最高レベルの冒険者たちで構成された集団を送り込んだが、追い払うことすらできなかったという。
「実を言うと、この儂も同行したのじゃがの」
この爺さんでも敵わなかったとなると、よっぽどの相手ということになる。
もちろん国家の大事ということで軍も出動したらしいが、冒険者ギルドが強い力を持つこの国において、軍人の強さは上級冒険者にも劣る。
今こそ軍の力を見せるべきと意気揚々と出陣したものの、無残な敗走を喫することになったとか。
「いいでしょう。俺が何とかしてきましょう」
「おお、やってくれるか? しかしさすがのお主とて、一人では……」
クランの主要メンバーたちはそれぞれ別の任務やら事情やらがあったので、今回フロアールに来たのは俺だけだ。
冒険者ではないマーラには黙ってきた。
あいつは地下世界のことはプルゾフにすべて任せて暇そうにしてるし、無理やりついてきそうだったしな。
さすがに悪魔の元首領をここに連れてくるわけにはいかない。
まぁ今は俺がその魔王なのだが。
「いえ、心配には及びませんよ」
「一応お前もいるしな」
『ぷるぷる!』
同行者はいないが、スラぽんが一緒だった。
俺の肩の上で「任せておけ!」とばかりに力強く身体を揺らしている。
転移魔法は行ったことのある場所にしか使えないので、目的地まではラプトルと呼ばれる小型の亜竜に乗っていくことに。
二足歩行で走るラプトルは、魔物だけあって気性が荒く、人を襲うこともあるため扱いは難しいが、馬よりもずっと速い。
かなり振動も激しいため、上級者向けの乗り物である。
「爺さんの話だと、この辺りのはずだが……ん? あそこに人がいるぞ」
三人組だ。
旅人や商人といった雰囲気ではないな。
武装しているし、恐らくは冒険者だろう。
休憩中なのか、動く様子はなく、何かを待っているのか、その場に留まっている。
ラプトルから降りて、近づいていく。
向こうもこちらに気づいたようだ。
アッシュ 24歳
種族:人間族
レベル:47
スキル:〈剣技+5〉〈動体視力+3〉〈俊敏+2〉〈勇敢+4〉〈闘気+2〉〈痛覚軽減〉
称号:Aランク冒険者
ディオル 23歳
種族:人間族
レベル:43
スキル:〈杖技+1〉〈氷魔法+5〉〈風魔法+3〉〈高速詠唱+4〉〈冷静+2〉〈魔法耐性+3〉
称号:Bランク冒険者
ナナ 21歳
種族:人狼族
レベル:42
スキル:〈狼化+1〉〈爪技+3〉〈威嚇+1〉〈聴覚+2〉〈嗅覚+3〉〈気配察知〉〈回復魔法+4〉
称号:Bランク冒険者
男二人に女一人。
男の一人は剣士で、もう一人は魔法使いのようだ。
女は人狼族らしい。
身体能力に優れた獣人には珍しく、ヒーラーなのだろう。
「ここで何をしている? 現在この街道に警戒令が出されているのを知らないのか?」
そう忠告してきたのはアッシュという名の男だ。
金髪碧眼の長身で、いかにも自尊心が強そうな顔つきをしている。
悪い奴ではなさそうだが。
「いや、その格好……もしかして君もヤツの討伐に来た冒険者なのか?」
君〝も〟?
「そうだが……」
内心で首を傾げつつ頷くと、
「悪いことは言わないから、すぐに帰るんだ。相手はジールア会長すら退けたという強敵だ。僕たちに任せておきたまえ」
それはこっちの台詞なんだけどな……。
どうやら彼らも魔物の討伐に赴いたらしい。
もしかしてあの爺さん、俺以外の他にも依頼を出していたのか?
って、そんなはずはない。
幾ら何でも弱すぎる。
いやもちろんAランクやBランクは実力者なのだが、あの爺さんすら倒せなかったような魔物の相手ができるとはとても思えない。
そんな俺の内心が伝わったのか知らないが、
「確かに、ジールア会長は伝説的な冒険者かもしれない。けれど、すでに百歳を超え、その実力はもはや全盛期と比べるべくもないはずだ」
うーん……普通にあの爺さん、現役のトップ冒険者たちより強いけどなぁ。
「討伐に来たにしても、たった一人ってどういうことだ? お前、舐めてるのか? つーか、あんま見かけない顔だけどよ? もしかして新人か?」
ディオルという男が、どこか喧嘩腰に訊ねてくる。
魔法使いなのにアッシュよりも体格が良く、厳つい顔をしていた。
見た目的には完全に戦士タイプだな。
「まぁまぁ。そんなに睨まなくても。たぶん、うちらのことも知らないんじゃない? しばらく王都にいなかったからねー」
と、横からディオルを窘めたのは、人狼ヒーラーのナナだ。
「なるほど、そういうことか。申し遅れた。僕はアッシュ。Aランクの冒険者だ」
「うちはナナ。Bランク冒険者だよっ。で、こっちのいつも怒ってるのがディオルね。彼もBランク」
「……近いうちに昇格するがな」
それぞれ自己紹介してくれるが、もちろんすでに知っている情報だ。
「つまり、お前みたいな奴の出番はねぇってこと」
だからそんな言い方しなくても、とナナは指摘してから、
「でも実際、早く立ち去ってくれるとありがたいかもー。さすがに誰かを護りながらってなると、うちらでもしんどいしねー」
爺さんが何も言わなかったということは、恐らく彼らは自主的に討伐しにきたのだろう。
一応、その点を確認してみる。
「ギルドの許可は貰っているのか?」
「いいや。討伐を申し出たのに断られてしまったからね。ギルドは僕らの実力を下方評価し過ぎなんだ」
予想した通りのようだ。
この年齢で――といっても俺と同年代だが――AランクやBランクにまで到達したとなれば、自分たちの力を過信し、天狗になっていてもおかしくない。
彼らにこそ、とっとと帰ってもらおう。
足手まといでしかないしな。
俺のことを完全に格下と見ているようだが、こんなときこそギルド証を見せて――
「キェェェェェェェェェェッ!!」
そのとき頭上から甲高い鳴き声が聞こえてきた。
「……来てしまったか」
見上げてみると、巨大な鳥がこちら目がけて猛スピードで滑空してきていた。
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