第154話 別棟
現在、クラン本部で保護しているルノアシスターズは、ルノアを除いて全部で十六人いる。
大分ここでの生活に慣れてきたようで、最近は孤児院の子供たちやレベカ、あるいはクランの職員や冒険者たちと普通に会話をしている姿もよく見られるようになった。
彼女たちがハーフデーモンであることは、本部に所属している冒険者たちにはすでに明かしていた。
どのみちマーラが純潔の悪魔で、しかも魔王であることはバレてしまったしな。
それに比べればインパクトが薄かったからか、意外とすんなり受け入れられたようだ。
『そもそも伝説級のドラゴンがいるんですし、今さら悪魔くらいでは驚かないですよ。せめて神様ぐらい連れてきていただかないと。なんて、さすがの所長でもそれは難しいですよね、ははははっ』
と笑っていた職員がいたのだが、神ならここにいるぞ。
邪神だが。
ところで当初は最も反抗的だったノアナが、なぜか随分と大人しくなったのだが、何かあったのだろうか?
マーラを見てめちゃくちゃビビってたし、そのせいかもしれない。
まぁそれはともかく。
俺はもちろん、彼女たち以外にも世界各地にいるであろう、他のルノアシスターズのことを忘れてはいない。
そこで地下世界に行っている間、俺は今や世界中にいるクランメンバーたちに、彼女たちのことを調べさせておいたのだ。
その結果、幾つか有力な情報が上がってきている。
これからその情報を元に、彼女たちを保護していく予定だった。
「というわけで何人かついてきてほしい」
俺はルノアシスターズの中から助っ人を募集した。
相手に警戒されないためには、やはり彼女たちに協力してもらうのが一番だろう。
「は~い、やりたいで~す」
と、真っ先に手を上げてくれたのは、リリアーナだ。
年齢は十八。ルノアシスターズの中では二番目に年長の彼女は、おっとりとした優しげな面立ちをしているので、確かに適任かもしれない。
「私も参加していいだろうか?」
控えめに訊いてきたのはビアンサである。
髪が短めで、シスターズの中では珍しくボーイッシュなタイプの少女だ。
のんびりしているリリアーナとは違い、しっかり者という印象でハキハキしゃべるので、居てくれれば助かるかもしれない。
あまり大勢でぞろぞろ押しかけても良くなさそうなので、二人いれば十分だろう。
とりあえず真っ先に行こうと思っているのは、以前、俺がシルステルの北部にある洞窟型のダンジョンで出会ったミアという少女のところだった。
あのときも一緒に来ないかと誘ったのだが、断られてしまったのである。
まぁこっちは男一人だったし、警戒して当然だろう。
よく似た容姿の二人がいる今回なら上手く誘えそうだ。
「…………めちゃくちゃ増えたな」
ルノアシスターズ、いっぱいいました。
前述の通り、元々の人数が十六人。
一方、新たに世界各地から保護してきた人数が、なんと二十五人。
ルノアも含めると、合計四十二人だ。
しかも他にもまだ何件か新たな目撃情報が入っていたりする。
あの悪魔、どんだけの女性を孕ませてんだよ……。
「す、すいません、レイジさん……さすがにこれ以上は住めないかと……」
レベカが申し訳なさそうに謝ってきたが、そりゃそうだ。
クラン本部の三階を丸々孤児院としていたわけだが、子供だけでも三十人いたのだ。
収容限界をすでに大きく越えてしまっていた。
「心配は要らない。こういうこともあろうかと、手は打っておいたからな」
もちろんこのケースをまったく想定していなかったわけじゃない。
実を言うと、俺は本部のすぐ隣の土地に、すでに別棟を建設させる計画を進めていたのだ。
「あ、それで最近、住人の皆さんが立ち退きされてたんですね」
以前は貧民街だったこの一帯だが、最近は大分開発が進んできていて、新しい建物もできはじめていた。
だがクラン本部に隣接する土地には、随分と年季の入ったアパートが残っていた。
そこの住人たちと交渉して、立ち退いてもらったのである。
もちろん脅したわけじゃないぞ?
土魔法を使って建築するこの世界では、あっという間に家が建つ。
以前も依頼した土木会社に今回も頼んだのだが、建設を開始してたったの数日で完成させてくれた。
「この期間、他の仕事を一切ストップして全作業員を投入しましたので!」
とはその社長の言葉だ。
随分と無茶をさせてしまったようだが、別にこっちから頼んだわけではない。
もちろん脅したわけでもないぞ?
忖度というやつだな。
この別棟も四階建ての建物だ。
一階から四階まで、すべて同じレイアウトの部屋がずらりと並ぶ形になっている。
というのも、この建物を丸々寮として使用するつもりだからだ。
各部屋は二人部屋になっていて、各階には二十部屋ずつある。
つまり全部で百六十人まで住むことができるわけだ。
ルノアシスターズたちの中で、十三歳以上からはここに住んでもらう予定だった。
それ以下は孤児院である。
それからクランに所属する冒険者や職員も、希望すればここに住むことが可能だ。
家賃は格安。
特に若い冒険者たちの中にはロクに稼ぐことができなくて、宿に泊まる金もアパートを借りる金も無く、ホームレス状態で生活している者も多いしな。
早速、ルノアシスターズの面々にはこの別棟へと移動してもらった。
「……こんな良い部屋に住んでいいの?」
驚いているのは、リリアーナとビアンサの協力もあって、無事にダンジョンから連れてくることができたミアだ。
部屋には左右にベッドが置かれ、クローゼットや机も一人一つずつある。
各部屋にはトイレとシャワールームまで備え付けられていた。
「ああ。二人部屋だから、基本的には誰かと一緒に住むことになるけどな」
「……」
ミア
信仰度:0% → 10%
まだここに来たばかりで警戒していた彼女だが、どうやら少しは俺のことを信用してくれる気になったらしい。
「皆さんと別々の部屋になっちゃうのは少し寂しいですぅ」
「何を言ってるんだ。すぐ隣の部屋だろうに」
「そうですけどぉ」
リリアーナとビアンサがそんなやり取りをしている。
他にも最初の十六人の少女たちは、誰々と同じ部屋がいいとか、どの部屋がいいとか、楽しそうに話していて、この短期間で随分と互いに仲良くなったことが窺えた。
ハーフデーモンとして不遇の人生を送ってきた彼女たちにとって、これが初めてできた友達であることも珍しくないだろう。
まぁ友達の前に姉妹なわけだが。
……さて、どうやら大よそ誰がどこの部屋に移るのか決まったようだな。
とりあえずこれで住居の問題は片付いた。
あとはスタッフの問題だ。
子供たちが積極的にお手伝いをしてくれているとは言っても、さすがにこの数ともなればレベカ一人ではどう考えても手が回らない。
しばらくの間、シーナを初めとするクランメンバーも協力してくれてはいたが……彼女たちはあくまで冒険者だからなぁ。
そっちに集中してもらいたかった。
余っているといえば、元ギャングの連中か。
しかしさすがに少女たちの世話を、あの厳つい連中に任せるわけにはいかない。
よし、だったらルノアシスターズにも働いてもらおう。
交代制で、彼女たち自身に家事や掃除をさせるのだ。
年齢を考えるとそれくらいはできるだろう。
彼女たちには魔法の才能があるし、いずれはぜひ冒険者として戦力になってもらいたいが、その辺はゆくゆくといったところだな。
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