第155話 スライムブラザーズ
各地から保護したことでルノアシスターズがかなり増えたが、実はもう一つ、絶賛増加中の集団があった。
スライムブラザーズ(?)だ。
グラトニースライムのスラぽんから無性生殖によって誕生したのが、ミミックスライムのスラいち、メタルスライムのスラじ、スカイスライムのスラさん。
しかし実を言うと、この三体以外にも新たに沢山の子供が生まれていた。
正確にはすべてがスラぽんから生まれたわけではなく、スラいちたち子スライムから生まれた言わば孫スライムもいるらしいのだが、どれがそうなのかまでは把握できていない。
子とか孫とはいっても、実際には分裂に近く、彼らには親子の概念や感情などないため、見た感じでは分からないのだ。
そのうちの何体か、珍しいスライム種を紹介したい。
ちなみにスライム種の稀少度をSからEまでで現すと、グラトニースライムがA、ミミックスライムがB、メタルスライムがB、スカイスライムがAといったところ。通常のスライムはもちろんEである。
まずはアサシンスライム。
稀少度はB。
暗殺能力に特化したスライムで、〈隠密〉や〈擬態〉といったスキルを持っている。
五番目に生まれたので〝スラご〟と安直に名付けた。
それからブラックスライム。
稀少度はB。
その名の通り真っ黒いスライムで、スキルは特筆したものを持っていないが、ステータスがかなり高い。攻撃性が強く、手懐けるのに苦労した。
六番目に生まれたので〝スラろく〟だ。
ドラゴンスライム。
稀少度はA。
〈偽竜化〉のスキルを持ったスライムで、見た目はいかにも強そうなのだが、実はスキルもステータスも弱い。弱さを外見で補う方向で進化したのかもしれない。
八番目に生まれたので〝スラはち〟だ。
バーストスライム。
稀少度はA。
〈自爆〉スキルを持ち、自爆攻撃をするスライム。ただしスキルレベルが低いうちは威力が非常に弱いため、敵を道ずれにすることはほぼ不可能。ただし、〈自己修復〉スキルのお陰で、身体がバラバラになっても、そのうち集合して元の身体を取り戻すことができる。
十番目に生まれたので〝スラじゅ〟。
アバタースライム。
稀少度はなんとS。もっとも稀少なスライムと言っても過言ではないだろう。
〈分身作成〉スキルを持ち、自身の分身(アバター)を生み出せるスライムだ。
本体は一つしかなく、この本体を倒さなければ分身を幾ら倒しても意味はないというよくあるパターン。
俺は〈神眼〉があるため見分けるのは楽勝だが。
十二番目に生まれたので〝スラじーに〟。
クイーンスライム。
稀少度はA。キングスライムは稀少度Cぐらいで、どうやらクイーンの方が珍しいようだ。
〈統率〉スキルの他に、〈多産〉というスキルを持っていて、大量に子供を生み出すことができた。ちなみに子供はすべてソルジャースライムである。彼女の兵隊らしい。
十四番目に生まれたので……なんて名付けよう……そろそろ今までの付け方では難しくなってきたぞ……。
このクイーンスライムが生まれて以降、ソルジャースライムが凄まじい勢いで繁殖しつつあった。
お陰でクラン本部四階に設けられたスライム部屋はこんな感じになっている。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
……ゲシュタルト崩壊しそうだ。
「いやいやいや、さすがに増え過ぎだろ。溢れてるじゃねーか」
俺は廊下を徘徊していたソルジャースライムを捕まえ、スライム部屋へと放り込む。
どこから脱出しているのか、最近はクラン本部のあちこちで見かけるようになっていた。
「こいつら大丈夫なんだろうな? 人を襲ったりしないか?」
『ぷるぷる!』
クイーンスライムに訊いてみると、自信ありそうに身体を震わせた。
どうやら大丈夫らしい。
本当だろうか……?
「わーい、スラちゃん、待てーっ!」
『ぷるぷる!』
まぁ孤児院の子供たちと楽しそうに遊んでいるところを見る限りでは、心配はなさそうだが。
◇ ◇ ◇
私の名前はミフィ。
シルステル王国の王都にある冒険者ギルドで、受付嬢をしている人間族です。
自分で言うのもなんですが、それなりに容姿端麗で、今までに幾度も冒険者から求婚をされてきました。
あまり好みに合致する方がいなかったので、すべて断ってきましたが。
第一、冒険者なんていつ死ぬか分からない危険な稼業です。
受付嬢として何人もの冒険者が帰らぬ人になるのを見てきたからこそ、できれば結婚相手に冒険者を選びたくありません。
結婚してすぐに未亡人だなんて、そんな悲しい未来は嫌ですからね。
もちろんよっぽど素敵な男性なら話は別ですが。
時には何度も断ったにもかかわらず、しつこく言い寄られ続けることもあります。
そうしたときは上司に報告し、ギルドから警告を出してもらいます。
ギルド証の剥奪をチラつかせれば、大抵はそこで大人しくなるものです。
ですが場合によっては、その結果、強硬手段に出るようなヤバイ冒険者もいて……
「は、はははは……君が悪いんだぞ……? 僕がこんなにも愛してるってのにっ……ギルドを使って僕を遠ざけようとするなんて……っ!」
私、絶賛大ピンチです。
人気のない路地裏で、男に羽交い絞めにされています……。
つい先日、まさに私への求愛が過剰過ぎたせいで、ギルド追放という警告を出された男です。
名前はノイル。
中堅であるDランクの中でもやや下の方の冒険者ですが、戦闘能力を持たない私がこの状態から逃げるのは不可能です。
助けを呼ばないと……!
「た――――ひっ?」
「こ、声を出すんじゃないっ!」
ナイフを頬に突きつけられてしまいました。
ギラギラとした目が語っています。
本気だぞ、と。
私は必死に頭をかくかくと上下させました。
もう恐怖で声なんて出ません。
ああ、私の馬鹿馬鹿馬鹿。
最近かなり王都の治安がよくなったからと言って、こんな夜遅い時間に、人の少ない裏道を通って帰宅しようとするなんて。
ずりずりずり……
私はノイルに無理やり引き摺られていきます。
どうやらさらに人気のない場所へと連れていくつもりのようです。
怖い。
怖いです。
誰か……誰か助けてください……。
どうか、お願いです……。
私は心の中で必死に祈ります。
神様、女神様…………もはやこの際、助けていただけるなら邪神でも構いません……!
と、そのときでした。
「ぶごっ!?」
私の上に乗っかり、今まさに衣服を剥ぎ取ろうとしていたノイルが、そんな悲鳴を上げて吹っ飛んでいったのです。
一瞬ですが、何かが彼の顔面を強打するのが見えました。
まさか本当に祈りが通じて、誰かが助けに来てくれたのでしょうか。
だとすれば、これはまさに英雄によってピンチを救われるヒロインの図です。
調子の良いもので、私はつい期待してしまいました。
もしかしたらこれは運命の方との出会いかもしれ――
ぷるぷるぷる!
――って、スライムじゃないですかぁぁぁぁぁっ!?
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