短編 犬人族は上下関係に厳しい

 私の名前はファン。

 犬人族の15歳。


 少し前まで奴隷だったけど、今は解放されて冒険者をしている。

 私を助けてくれたレイジのパーティに所属し、最近、Dランクに昇格したばかり。


「あっという間に追い付かれたのです!」


 そう言って悔しそうにしているのは、同じパーティのニーナ。

 私と同じ歳らしいけれど、ドワーフなのでずっと子供に見える。

 なので私は妹として扱っている。


「ん。妹は姉に勝てない」

「ニーナの方がむしろ先輩なのです!」

「関係ない。上下関係は強さで決まる」

「だ、だったら勝負なのです!」


 前にも一度戦って私が勝ったのだけれど、性懲りもなくニーナはまた挑んできた。

 二分ほどであっさり返り討ちにした。


「ぎゅう……」

「私の勝ち。姉の座は私のもの」

「つ、次は負けないのです!」

「無理」

「ぐぬぬぬっ……お、覚えてやがれなのです!」


 ニーナは悔しげに唸ってから、捨て台詞とともに逃げていった。


 しかし後日、ニーナは再び私に挑んできた。


「今度こそニーナが勝つのです!」


 自信満々に宣言しているけど、たとえ強くなったとしても、この短期間ではたかが知れている。以前の力の差を考えると、到底、逆転されているとは思えない。


「ん。やれるものなら、やってみたらいい」

「ふっふっふ! そう言っていられるのも今のうちなのです!」


 ニーナは不敵に笑い、そして懐からボールのようなものを取り出した。

 そしてそれを思いきり投げ付けてくる。


 私は剣で叩き斬ろうとして――――突然、それが巨大化した。


「スラぽん?」


 それはボールではなく、レイジの従魔であるスライムだった。

 私の目の前で見る見るうちに巨大化して……気付くと私はスラぽんの下敷きになっていた。


「必殺、スラぽんボールなのです!」


 スラぽんの下から這い出してきた私に、ニーナがドヤ顔で近づいてくる。


「……卑怯」


 どう考えても今のはズルい。

 スラぽんとの共闘で、二対一だ。

 しかもほとんどスラぽんにやられたようなもの。


 スラぽんは私にとっては天敵だ。物理攻撃への耐性が高過ぎるせいで、剣がまったく通らないせい。魔法が使えない私では成す術も無かった。


「協力したらダメなんてルールはないのです!」

「暗黙の了解というやつ」

「了解した覚えがないのです!」


 ニーナが屁理屈を並べ立ててくる。


 ちょっとイラっとした。

 妹のくせに。


 姉として、少しお仕置きをしてやらないといけないみたい。

 私は殺気を漲らせてニーナに襲い掛かった。


「覚悟」

「っ!」


 ニーナの背後に回り、後ろから羽交い絞めにする。

 暴れるニーナ。ドワーフだけあって力が強いが、その前に私は彼女の急所を攻撃した。


「こちょこちょ」

「ひゃう!?」

「こちょこちょこちょ」

「ちょっ、や、やめっ……ひゃぁ!?」


 ニーナの脇や腹、首回りといった部分を徹底的に擽っていく。

 彼女は擽り攻撃に弱い。

 軽くこちょこちょするだけで、ビクッと反応し、身を捩じらせながら苦しむ。


「こちょこちょこちょこちょ」

「あふぁっ!? な、何するですっ!? そ、それはさすがに――にゅあ!? や、やめてなのですぅ……っ!」

「やめない」

「どうしてなのです!? いひゃ!?」

「これは躾け。序列を分からせる」

「ふゃう!?」

「私は姉。ニーナは妹。あんだすたん?」

「のーなのですッ!」

「まだお仕置きが足りない? こちょこちょこちょこちょ」

「あふんっ!? くっ……でも、こんなことではニーナは屈しないのです!」


 なかなか頑張る。

 だけど、これならどうだろうか。


「ぺろぺろ」

「ひゃああああっ!?」


 私が舌で耳の裏辺りを舐めると、ニーナは一際大きな声を上げた。

 さらに耳の内側まで舌でぺろぺろしていく。

 もちろん、擽り攻撃も同時進行だ。


 ぺろぺろぺろ。

 こちょこちょ。


「ん……ニーナの肌、美味しい」

「ふぇぇぇぇ……」


 ぺろぺろぺろ。

 こちょこちょ。


「そろそろ限界?」

「……に、ニーナはっ……絶対に、屈しない……のです……っ!」

「強情。なら、本気でいく」

「っ!?」


 ぺろぺろぺろこちょこちょぺろぺろこちょこちょぺろぺろこちょこちょぺろぺろこちょこちょぺろぺろこちょこちょぺろぺろこちょこちょ――


「だ、だめっ……ひゃ、ふぁ……あああああああああああっ!」


 やがて五分後が経った。


「……へりはら……ろらろ……れろろぁ……」


 汗と私の唾液でびしょびしょになったニーナは、地面に倒れて何やら意味不明な言葉を呻いている。

 ちょっとだけやり過ぎたかもしれない。

 でも、これできっと理解したことだろう。


「妹は妹らしくすべき」


 白目を剥いているニーナへ、私はそう念を押すのだった。


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