第149話 お前の妃にしてほしいのだわ

「これからは俺が魔王だ」


 気を失っていた悪魔たちが目を覚ますと、俺は改めてそう宣言した。


「なっ……」

「に、人間が魔王にだと……?」


 好意的に受け入れる者はいなかった。

 当然だろう。

 なにせ、今まで取るに足らない存在だと軽視していた人間が、自分たちの頂点に君臨すると言い出したのだ。

 彼ら悪魔にとっては相当な屈辱に違いない。


 中には刺し違えてでも俺を殺そうと、凄まじい殺気を放ってくる者もいた。


「何だ? 俺の仲間たちに簡単にやられたくせに、まだ力の差が理解できていないのか? だったら直接、俺が相手をしてやるぞ?」

「「「~~~~~~~~っ!?」」」


 お返しとばかりに放ってやった俺の殺気を浴びて、何人かは再び気を失ってしまった。

 戦意を喪失して呆然となる者も多い。


 相手は悪魔だからな。

 悪魔方式で――恐怖で支配する方向でやっていこうじゃないか。


「ふふ、本当にお前たちの中にレイジに勝てる者がいるというのなら、名乗り出てくるがいいのだわ。もちろん、あたくしよりも強いことが最低条件だわ?」


 マーラがそう煽るものの、挑んでくる悪魔は一体もいなかった。

 とりあえず異論はないということだろう。


 しかし大変なのはこれからだな。

 魔界中が騒ぎになるだろうし、各地で暴動が起こるに違いない。


 ……果たしてそんな状態から、ちゃんと信者が生まれてくれるだろうか?

 まぁ何事も挑戦だ。

 やれるだけやってみよう。


「レイジ。あたくしをお前の妃にしてほしいのだわ」


 そのときマーラがとんでもないことを言いながら、いきなり俺に抱き付いてきた。


「ちょっ……?」

「ふふ、ぜひお前の子供を産みたいのだわ」


 やたらと直裁的なことを言いながら、妖艶な笑みを浮かべて密着してくるマーラ。

 今は本来の姿なので、その誘惑的な胸部が思いきり押し付けられている。


 って、何だこれは……?

 もしかしてアマゾネスと一緒で、悪魔の女にも自分より強い男に自然と惹かれるようになる性質でもあるのか?


 あまりに急に懐いてこられたので、そんな仮説が頭に浮かんだ。

 マーラの様子にはその場にいた悪魔たちも驚いている。


「だ、ダメですっ!」


 そこに大声で割り込んできたのはディアナだ。


「何でいきなり求婚されてるんですかっ! ついさっきまで敵だった相手に!」

「いや、俺に言われても困るんだが……」


 マーラは俺に抱きついたまま面倒そうに首だけで振り返ると、ディアナに向かって言った。


「それの何が問題なのだわ? レイジの強さにあたくしは惚れた。その気持ちの前には、敵味方も人間も悪魔も関係ないのだわ」

「ぐ……」


 反論できず、ディアナが悔しげに口を噤む。

 そこにアンジュが加勢する。


「そんなの、きっと一時の気の迷いみたいなものよ! そんなに簡単に人を……す、好きになったりするわけないじゃない!」


 アンジュ、それをお前が言うか。


「そうですよ! そもそもレイジさんはすでにシルステルの王になって、わたくしを妃に迎えて下さることになっているんですから!」


 いやいや、なってねぇだろ!?

 勝手に予定を決めるな。


「別にそれはそうすればいいのだわ?」

「えっ?」


 マーラの予想外の発言に、ディアナが呆気にとられる。


「そう決まっているというのなら、そのシルステルとやらの王にでも、お前がその妃にでも、なればいいのだわ。けれど同時にレイジは魔王として、あたくしを娶る。それでいいのだわ?」


 いやいやいや、よくねぇから。

 どっちも決まってないから。


「……」


 ディアナは少し考えるように押し黙ったかと思うと、


「なるほど……その方法は考えてませんでしたね……」


 って、何で納得しているんだよ!?


「ちょっと! 何であんたたちだけで話を進めているのよ!?」


 再び声を荒らげたのはアンジュだ。


「お前もレイジを好いているのかしら? だとすればあたくしたちと同じようにすればいいのだわ。これほどの男、むしろ妻が複数人いるのが当たり前なのだわ」

「べべべ、別にあたしはこいつのことなんて好きでも何でもないんだけど!?」


 アンジュは慌てて反論してから、


「……ま、まぁでも、あんたのその意見は一理あると思わないこともないわね……っ!」


 おい!?


「こらあっ! そんなの絶対に許さないんだから! レイジ君はボクだけの――」

「雄は黙っていてください」

「雄は黙ってなさいよ」

「あら、このドラゴン、雄なのだわ?」

「雄って言うなぁぁぁぁぁっ!」


「がっはっは! モテモテだな!」

「あ、兄貴! こんな美女美少女達から一斉に求愛されているからって、ぜんぜん羨ましくなんかないっすからね! 僕には愛する彼女がいるっすから!」

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