第145話 魔王城
セルゲリスは唖然としていた。
彼の予測を大きく覆す事態が起こっていた。
『邪竜の渓谷』の真の恐ろしさは、ここに棲息する邪竜が引っ切り無しに襲い掛かってくることだ。
同種ですら食い殺す彼らは、異種族にはさらに容赦がない。
もっとも、仮にも自分たちを圧倒した人間たち。
しばらくは持つだろうとは思っていた。
だが数体程度なら倒すことができたとしても、何十体もの邪竜に群がられ続ければ、いずれ必ず体力が尽きる。
そうなればもはや連中の餌食になるのも時間の問題だ。
セルゲリスはそう考えていたのだが……
なぜだ!?
なぜ未だに余力を持って戦い続けている!?
しかも渓谷に入った当初より、明らかに強くなっているとは!?
渓谷に立ち入ってすでに十時間が経とうとしているというのに、未だに疲労で衰える気配が見えない。
それどころか、次々と襲いくる邪竜たちを、むしろ最初の頃より圧倒しているようにすら見えるのだ。
いや、体力が続いているのはまだ理解できる。
あのリーダー格の男が、適度に休息を取らせることで、仲間たちの疲労度を上手くコントロールしているのだ。
だがそれを成すには、戦力的な余裕が必要なはずだ。
渓谷に立ち入った頃はそんな余裕などなかった。
なぜかこの短時間の間に彼らが強くなったからこそ、余裕が生まれるようになったのだ。
今も、従魔と思しき一体のスライムが、単独で邪竜と戦っている。
あえて口から体内へと侵入すると、内側から身体を突き破って絶命させてしまった。
邪竜の死体はすべて四体いるスライムたちが吸収しているので、本来なら凄惨な死骸で埋め尽くされているはずの渓谷は綺麗だ。
「こ、こんな連中が、もし魔王城に辿り着いたら……」
すでにあり得るかも知れなくなってきたその可能性に、セルゲリスは戦慄を覚える。
だがすぐに冷静になって思い直す。
魔王城には現在、魔王は元より爵位持ちの恐るべき力を有した悪魔たちがごろごろいる。
その戦力を総動員すれば、この『邪竜の渓谷』など簡単に支配することが可能だろう。
たとえここを抜けられたとしても、結局、彼らを待っているのは「死」の一文字。
そうとも知らずに邪竜と戦い続ける人間たちを傍観しながら、セルゲリスは口端を歪めるのだった。
◇ ◇ ◇
邪竜はどいつも高レベルだけあって、かなりの経験値が入ってくる。
渓谷に立ち入ってから、俺たちのレベルはどんどん上がっていた。
すでに全員がレベル80を超えている。
邪竜の中で多いのはレベル80台、90台なので、一対一でも負けないようになってきた。
お陰で随分と戦いが楽になってきたぞ。
順番に亜空間内で休息を取らせつつ、複雑に入り組んだ渓谷を進んでいく。
やがて渓谷の終わりが見えてきた。
「ようやく抜けたわね!」
「ふぅ。なかなか大変でしたね」
「ん」
そして邪竜の巣窟を突破したときには、俺たちのレベルは大幅に上昇していた。
レイジ
レベル:128
ファン
レベル:87
ルノア
レベル:85
アンジュ
レベル:88
ディアナ
レベル:84
刀華
レベル:88
スラぽん
レベル:83
スラいち
レベル:84
スラじ
レベル:81
スラさん
レベル:84
レヴィ(リヴァイアサン)
レベル:104
ルファ(ファフニール)
レベル:107
テツオ
レベル:85
サルード
レベル:92
〈限界突破〉スキルの熟練値も大量に手に入っていた。
俺はすでに〈限界突破+8〉だ。
これで一応、レベル190までは上がる計算である。
渓谷地帯を抜けた先に広がっていたのは、赤茶けた荒野。
例のごとくセルゲリスを案内役に使いながら、俺たちは魔王城目指して前進するのだった。
「……あれだ。あの崖の頂上に立つのが、魔王マーラ様のおわす居城だ」
不気味な格好をした木々が疎らに乱立する一帯の向こう。
セルゲリスの視線の先を追うと、確かにそれらしき巨大な城が断崖絶壁の上に存在していた。
「どうやって城まで行くんだ?」
「……翼を持つ悪魔は飛行することが多い。だが空を飛べない者でも、断崖の中に彫られた洞窟から魔王城に入ることは可能だ」
なるほど。
見たところ、それほど周囲を警戒している様子はない。
魔界最強の城主がいる城に、わざわざ攻め込んでくる輩などまずいないからだろう。
いたとしても、それは通常、大軍に違いない。
幾ら警戒が薄くても、あれだけ見晴らしのいい場所に位置しているのだし、早い段階で察知され、準備を整えられてしまうだろう。
一方、少数精鋭の俺たちは、スカイスライムのスラさんに乗っかって、真っ直ぐ崖の頂上を目指すことにした。
なお、もう道案内は不要なので、セルゲリスは黒魔法で眠らせてから拘束し、とりあえず亜空間の中に放り込んでおいた。
「む、我らにようやく気づいたようだな」
兵士クラスと思われる悪魔たちが翼をはためかせてこちらに向かってきたのは、魔王城がもう間近に迫った頃だった。
「どいつも中級の悪魔たちだ。油断するなよ」
「ん、了解」
「てか、マジで正面から乗り込むんすね……」
この中で唯一の勇者であるはずのテツオがビビっている。
「勇者と言ったら、正面から魔王城に乗り込むと相場が決まってるだろ?」
「ゲームと一緒にしないでくださいよっ!」
そんなことを言い合っている内に、中級悪魔の群れと激突した。
飛行能力を持つ俺、ルノア、ファン、ディアナは、スラさんの負担を減らすためにも、自力で飛んで敵陣へと突っ込んでいった。
ディアナは〈風脚〉スキルが+8まで上がり、飛行できるようになったのだ。
中級悪魔の大半は邪竜よりも弱い。
あれだけの数の邪竜を倒し、レベルアップした今の俺たちからしてみれば、赤子の手を捻るような容易さだった。
群れを突破したときには、二十体以上いた悪魔が三分の一以下にまで減っていた。
追い駆けてくる連中にルノアが超級魔法を放って、それで全滅した。
魔王城の庭へと着陸する。
あちこちが毒の沼地になっていて、辺りには酷い臭気と瘴気が漂っていた。
城まで真っ直ぐ石畳の道が伸びており、俺たちはその上を進んでいく。
「気を付けろ。何か出て来るぞ」
〈気配察知〉のスキルが反応した直後、道の左右に広がる沼地や泥の中から何かが姿を現した。
アンデッドデビル
レベル:72
スキル:〈黒魔法+8〉〈闇魔法+10〉〈風魔法+6〉〈腐蝕攻撃+8〉〈腐蝕の息+8〉
「アンデッド化した悪魔か」
一体だけでない。
侵入者の存在に反応して、次々と起き出してきたのだ。
格闘主体のものもいれば、魔法主体のものもいるなど、スキル構成が個体によって大きく異なっている。
そいつらを蹴散らしながら俺たちは前進した。
なお、アンデッドが苦手なアンジュは一時的に亜空間の中に避難している。
やがて門の前まで辿り着く。
ズゴゴゴゴゴ――
巨大な扉が独りでに開いた。
「どうやら歓迎してくれているようだな」
中に入ると、荘厳なエントランスが広がっていた。
悪趣味なオブジェが置かれているなど、外観だけでなく、内部もいかにも魔王城といった雰囲気である。
ズゴゴゴゴゴ――
俺たちが全員通り抜けると、今度は扉が独りでに閉まった。
後戻りはできないということだ。
……まぁ転移魔法を使うか、あるいは、どうにかして扉を破壊すれば脱出できるだろうが。
どんな罠があるか分からないし、魔王はもちろん、上級の悪魔もごろごろいるに違いない。
探知系のスキルを全開にしつつ、ここからはより慎重に進んで行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます