第142話 地下世界へ

 とは言え、地上侵略を狙っているという魔王を放置しておく訳にはいかない。


 地上を戦場にしないためにも、俺はこっちから地下世界へと乗り込んでやることにした。


 メンバーは、俺、ファン、ルノア、アンジュ、ディアナ、刀華、スラぽん、スラいち、スラじ、スラさん、レヴィ、ルファ、そして勇者テツオ。

 さらに奈落を突破する上での道案内にもなり、戦力にもなるS級冒険者のサルードを加えて、全部で十五人(九人と六匹)である。


「……マジでこっちから攻め込む気かよ? しかもこの人数で」


 豪胆なサルードもさすがに無謀だと思っているのか、ちょっと不安そうだ。

 前に男爵級悪魔に手も足も出なかったことも尾を引いているのかもしれない。


「あのクラスの悪魔ともなると、そんなに多くはいませんよ」

「いやいや、少なくとも魔王はあれ以上の力を持ってんだろ? オレも今まで色んな修羅場を潜ってきたけどよ、考えただけでちびっちまいそうだぜ」


 まぁ実際のところ、爵位持ちの悪魔とまともにやり合えるのは、この中でも俺を除けばレヴィとルファくらいだろうな。

 ちなみにこのメンバーの現在のレベルはそれぞれ以下の通りだ。



レイジ

 レベル:122


ファン

 レベル:76


ルノア

 レベル:75


アンジュ

 レベル:77


ディアナ

 レベル:72


刀華

 レベル:78


スラぽん

 レベル:72


スラいち

 レベル:74


スラじ

 レベル:70


スラさん

 レベル:73


レヴィ(リヴァイアサン)

 レベル:99


ルファ(ファフニール)

 レベル:99


テツオ

 レベル:76


サルード

 レベル:90



 地下世界には地上とは比べ物にならないレベルの魔物も多数棲息しているらしいし、魔王城に突入する前に、そこで幾らかレベル上げを行ってもいいだろう。

 あとは一応、奥の手もあるしな。


 ちなみに全員、オリハルコンの武具で身を固めている。

 オリハルコンは加工が難しいため時間がかかったが、出発までにニーナが頑張って用意してくれたのだ。


「オレも地下世界までの道のりを知っている訳じゃねぇ。だが大よその方向は分かる。魔界に近ければ近いほど瘴気が濃くなるせいか、異形の魔物が多くなってくるようだからな。要は、悍ましい外見の魔物の数が増えてくる方へ進めばいいって訳だ」


 やはり何年も奈落に潜っていただけあって、サルードはこのダンジョンのことに詳しかった。


「あまりにもヤバい魔物ばかりだったから、途中で諦めたルートが幾つかあるんだよ。オレ一人じゃ無理だったが、このメンバーなら先に進めるかもしれねぇ」


 もしかしたらその先が、地下世界に繋がっている可能性もあるということだ。


 やがてサルードが言っていた道へと辿り着いた。

 そこそこ幅の広い通路がずっと奥まで続いている。

 っと、早速、魔物が出て来たぞ。


「……き、気持ち悪いわねっ」


 アンジュが頬を引き攣らせて後ずさる。

 そいつは巨大な目玉に、無数の触手を有した不気味な魔物だった。



ダークゲイザー

 レベル:72

 スキル:〈触手攻撃+10〉〈邪眼+10〉〈魔力吸収+8〉〈魔力探知+8〉〈気配察知+5〉〈魔法耐性+8〉〈空中浮遊+2〉



 なかなかの強敵だ。

 そして今まで見たことのないスキルを有している。


 Q:〈邪眼〉スキルって?

 A:その目に見られてしまうと、石化、猛毒、恐慌、洗脳、麻痺などの様々な状態異常を与える。


 って、すでに見られてるぞ?

 あんなにデカい目をしているのだから、視界に入らないはずがない。


 直後、俺たちは一斉に状態異常に襲われた。

 石化だ。

 手足の末端から徐々に身体が石へと変えられていく。


「アンチストーンなの」


 だがルノアがすぐに石化解除の魔法をかけてくれる。

 と同時に、俺は土魔法で壁を作って、奴の視界を遮った。


「あいつに姿を見られたらダメだ。それだけで状態異常にかかるようだからな」

「ん、分かった」

「了解だ」


 石化が解けるとともに、ファンと刀華が同時に地面を蹴った。

 迂回する形で、ダークゲイザーの背後を取る。

 だが〈気配察知〉スキルのお陰だろう、後ろから迫る二人に気づいたように、無数の触手を蠢かせた。


 二人は襲いくる触手を躱し、あるいは斬り捨てながら肉薄する。

 そして奴の急所と思われるその目玉へと、左右の側面から斬撃を見舞った。

 ダークゲイザーは悍ましい悲鳴とともに絶命する。


「っ! 兄貴! 一匹だけじゃなくて、わんさかいますよ!? って、やばい、また状態異常に……っ! こ、これは麻痺……?」

「アンチパラライズ」


 勇者テツオがまた状態異常にかかったようだったので、今度は俺が治してやった。

 しかし彼の言う通り、闇の中にダークゲイザーの目玉が次から次へと浮かび上がってくる。


「……確かに、こんなのが大勢いるとなれば、S級冒険者でも一人での探索を断念する訳ですね」

「そもそも一人だと状態異常にかかった時点でほぼアウトだからな、がっはっは!」


 ディアナが苦笑し、サルードは大声で笑う。


 これだけ沢山いると、その視界に入らないなどということは不可能だ。

 とりあえず時間稼ぎとして、土魔法で四方に壁を作って姿を隠してはみたが、あの触手ですぐに破壊されるだろう。


「魔法で一気に殲滅するか。ルノア、転移魔法で背後を取って、挟み込むようにデカいのをぶっ放すぞ」

「はいなの」

「スラじ、〈亜空間〉に皆を入れてやれ」

『……!』


 メタルスライムであり、高い魔法耐性力を持つスラじの〈亜空間〉の中に皆を保護。

 その上で、俺とルノアが前後から超級魔法をぶっ放した。


「「雷神鉄槌(トールハンマー)」」

「「「ァァァァァァァァァッ!!!」」」


 ダークゲイザーの群れが一掃される。


『!』


 スラじも強烈な雷撃を浴びたはずだが、ピンピンしていた。

 さすがメタルスライムである。


「がはははは! 本当に出鱈目だな!」


〈亜空間〉から出てきたサルードは、焼け焦げたダークゲイザーの骸を見渡しながら大声で笑った。


「このメンバーなら、魔王すら倒せるかもしれねぇな!」


 その後も、地上ではまずお目にかかれないような不気味な外見の魔物に幾度も遭遇した。

 しかもどいつも高レベル。


 このダンジョンの最大の難点は、地上に帰還してしまうと、転移魔法を使って再び同じ場所に戻って来るのが難しいという点だろう。

 というのも、このダンジョン、似たような光景ばかり続いているからだ。

 転移魔法は、転移先のことを頭にイメージしなければならないのだが、そのせいでなかなかイメージするのが難しいのである。


 洞窟型のダンジョン全般に当てはまる問題ではあるが、それでも特徴的な場所は幾つかある。

 だがここ奈落には、そうした地点が非常に見つかりにくいのである。


 サルードはよくルートを把握してるよな……。


 今回の探索で一気に地下世界まで行ってしまいたい。

〈亜空間〉内には食糧をたっぷり用意してきた。

 中にはベッドもあるので、疲れたら仮眠を取ることも可能だ。


 そうして奈落に入って、五日が経とうとしていた頃だった。


「ん、光」

「ほんとだわ! もしかしてついに出口!?」


 完全に真っ暗闇の奈落だが、不意に通路の先に光が見えたのだ。


 そして、俺たちは地下世界へと辿り着いた。


 奈落と比べれば明るいだけマシだが、それでもかなり薄暗い。

 空が分厚い雲に覆われているから、というだけではない。

 そもそもここには太陽が存在していないらしいからな。


 さらに見渡す限り荒野が広がっていて、何とも鬱々とした世界だった。

 予想通りと言えば予想通りだが。


 しかし今は、そんなことより、


「気を付けろ。何かいるぞ」


 察知系のスキルが、近くにいるであろう強敵の存在を示していた。

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