第140話 悪魔公爵の娘 3
十を超える超級魔法が一斉に俺目がけて放たれようとしている。
「おおおおおおおおおっ!!!」
その寸前、俺は咆哮を轟かせた。
「「「っ!?」」」
〈威圧+10〉に〈威嚇+10〉、さらには〈王威+5〉を持つ俺が、本気で殺気をぶつけたのだ。ハーフデーモンの少女たちの身体が硬直し、収束させていた魔力が霧散する。
「なっ……」
驚愕する悪魔もまた、俺の殺気を前に一瞬ではあるが動きを停止させていた。
その隙を見逃さない。
俺は二本の剣に闘気を集束させた。
さらに〈魔法剣〉スキルを使い、それぞれの剣に魔法を纏わせる。
右手の刹竜剣レッドキールは闘気と炎を、左手の刹竜剣ヴィーブルは闘気と氷を。
そして十字を描くように、二本の剣で同時に斬撃を繰り出す。
「があああああああああっ!?」
巨大な十字の剣閃が悪魔を呑み込んだ。
「「「パパ!?」」」
ハーフデーモンの少女たちが一斉に悲鳴を上げる。
すでに硬直は解けており、すぐさま俺を倒そうと再び魔法を発動しようとした。
だが、
「ん、こんなところにいた」
「まさかこれほど沢山いたとは!」
「ルノアにそっくりじゃないの!?」
クラン本部の上空で行われていたこの攻防に気づいて、街の各所にいた強力なメンバーたちが戻って来たのだ。
建物を蹴って飛び上がったり、〈天翔〉を使ったり、あるいはスカイスライムのスラさんで飛行したりしながら、ハーフデーモンの少女たちに襲いかかる。
ルノアに似て、どうやら彼女たちは接近戦には弱いようだ。
しかもルノアの場合は〈物攻耐性+10〉によって防御力を高めているが、彼女たちはそれがない。一撃でも喰らえばあっさりと意識を刈り取られてしまう。
「くっ……使えない娘たちだねぇっ」
俺の必殺技をまともに受けながらも、悪魔はまだ生きていた。寸前で結界を張ったお陰だろう。だがダメージは大きい。
悪魔は転移魔法を使い、逃げようとしていた。
「させないの!」
「っ!?」
それを阻止したのはルノアだった。
先ほど俺がされたのと同じ方法。
魔力をぶつけることにより、強制的にキャンセルさせたのだ。
悪魔は目を見開く。
「洗脳が解けただと……っ!?」
「ルノアのパパはひとりだけなの!」
翼をはためかせて宙を舞うルノアは、小型化したスラいちを悪魔目がけて放り投げた。
直後、スラいちが巨大化する。
さらにはミミックスライムの本領を発揮して、〈擬態〉スキルで巨大な竜へと姿を変えた。
咢を開き、そのままぱくりと悪魔を呑み込んだ。
「ば、馬鹿なっ……この僕がっ……」
悪魔は必死に暴れているが、スラいちの体内から逃れることはできない。
スラいちによって魔力を吸収されているため、魔法を発動することも不可能だ。
「パパ!」
「パパを離せ!」
「パ――――ぎゃっ」
ハーフデーモンの少女たちが慌てて救出しようとするが、ファンたちがそれを防ぐ。
もはや悪魔は身体の大半をスラいちに消化され、辛うじて生きている状態だ。
スラいちが体内で移動させ、身体の表面まで持ってきてくれた。
「っ……」
言葉を発することもできないが、凄まじい怨念に満ちた目でこちらを睨みつけてくるその悪魔へ、俺は言った。
「お前の娘たちのことは俺に任せておけ」
そして悪魔の心臓へと剣を突き入れる。
レイジ
レベル:114 → 122
公爵級悪魔が絶命したという証拠に、俺のレベルが大きく上がった。
「それにしても一体、何人産んでんだよ……」
ハーフデーモンの少女たちを捕え、クランの地下にある訓練場に集めていた。
全部で十六人もいる。
年齢は十二歳くらいから、二十歳くらいまで。
ルノアは八歳なので、一番年下の少女と比べても少し離れている。
もしかしたら今回は召集されなかっただけで、他にもいるのかもしれない。
実際、ダンジョンの奥で出会った少女の例もあるしな。
「……わたしたちをどうする気? って、訊かなくても予想は付くけれど」
彼女たちの中の一人、少し気の強そうなタイプの少女が俺を睨み付けてくる。
〈神眼〉で見てみると、ノアナという名前らしい。
悪魔の洗脳こそ解けたものの、彼女たちの大半が、多かれ少なかれ人間に対する恨みの感情を有している。
ハーフデーモンとして生まれた以上、そうなるのは当然と言えた。
ほとんどの国や地域で悪魔は忌むべき存在とされている訳で、周囲の人間たちから迫害を受けて育ったのだろう。
……というか、とりわけそうした考えの強い地域に産み落とした可能性だってあるな。
今ここにいる少女たちはそれでもこの歳まで生き延びてこれたが、中には殺された者もいたはずだ。
ルノアだって俺たちが助けなければどうなっていたか分からない。
だからこそあの公爵級悪魔の洗脳にもかかり易かったのだろう。
そしてたとえ洗脳が解けても、人間への怨みや不信はそう簡単には解消されない。
姉妹と言えど性格はそれぞれらしく、先ほどのように敵対的な感情を露わにしている子もいれば、怯えて震えている子もいた。
「何もしないさ。君らはあの悪魔に操られていただけだろう? だから今回の件で罰するつもりはまったくない」
俺の言葉でホッとした表情を見せた子も何人かいたが、先ほどの少女・ノアナが素直に納得することはなかった。
「う、嘘よ! 私たちが悪魔の子であることは見れば分かるでしょ!? それに、私たちはあんたを殺そうとしたのよ!?」
「ああ。けど、俺はあの程度じゃ死なないけどな」
「っ……」
危なかったように見えたかもしれないが、それは気のせいだ。
実は威圧系のスキルを使う以外にも、あの状況を打破する方法は幾つもあったしな。
ほんとだぞ?
「そ、そもそも、あんたに私たちの処遇を決める権限があるっていうの!?」
「あります」
と、横から割り込んできて断言したのはディアナだ。
「わたくしの名はディアナ=シルステル。この国の女王です」
「じょ、女王っ……あんたが……?」
「そしてレイジさんはわたくしの未来の夫! 司法なんて思いのままです!」
「勝手に決めるな」
あと、俺が法律だ! みたいなこと言うな。
「一応、君らにはしばらくここで生活してもらうつもりだ。けど、安心してくれ。ここにいる連中はハーフデーモンだろうと差別しないし、監視付きだが好きなときに外にも出られる。ただし念のため、角や翼は闇魔法を使って隠させてもらうけどな」
俺はそう告げるが、不信や不安の表情をしている子も多い。
それだけ過去に、何度も人間から迫害を受けたり、騙されたりしてきたのだろう。
「しんぱいいらないの」
「っ……あんた……」
「パパはとてもやさしいの」
ルノアの言葉に、またノアナが噛み付く。
「何でそいつがパパなのよっ。あんたも私たちと同じでしょうが」
「わかってるの。でも、ルノアのパパはパパなの」
ルノアは言いながら俺にぎゅっと抱き付いてくる。
よしよし、と頭を撫でてやると、嬉しそうに、えへへ、と笑った。
ここにいる少女たちはルノアよりも年上だし、ずっと多く辛い目に遭ってきたはず。
根強い人間不信を解くのは簡単ではないだろうが、根気強くやっていこう。
何せルノアに匹敵する強力な人材だ。
ぜひとも懐柔して信者にしたいところである。……くくく。
あと、まだ各地にいるはずだからその子たちも探し出して保護しないとな。
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