第132話 ニーナとオリハルコン 2
「さすがご主人様なのです!」
というのが、話を聞き終わったニーナの第一声だった。
「ご主人様は神様だったのですね! すごいのです!」
え? 何その反応?
そんなにあっさり信じるものなのか?
半信半疑だが、しかしニーナは嘘をついたりできるようなタイプではない。
・ニーナ:信仰度95% → 100%
実際、信仰度は100%になっていた。
……と、とにかく、これで経験値と熟練値を好きなだけ譲渡できるようになったぞ。
ニーナ
レベル:34 → 125
「っ! すごいのです! 力が溢れてきたのです!」
俺の全能力を丸々上乗せさせられて、ニーナがその感覚に目を丸くする。
「これなら絶対大丈夫なのです! ご主人様! 行ってくるのです!」
そしてニーナは神級鍛冶師しか入ることができない、その門の向こうへと消えていった。
◇ ◇ ◇
「ふわあああっ、まるで自分の身体じゃないみたいなのです!」
ニーナは軽く地面を蹴っただけで、ゆうに二十メートル以上も飛び上がってしまった。
着地すると、今度はナイフを全力で投げてみる。
「ほい!」
それを追い駆け、一瞬で追い抜く。
そして人差し指と中指で摘まむようにしてあっさりキャッチ。
「すごいのです! こんなに速く動いたの初めてなのです!」
圧倒的なステータスに、ニーナは驚愕していた。
「さすが、ご主人様なのです!」
先ほどレイジから話を聞いたニーナは、素直にその内容を信じることができた。
ニーナは生まれながらにして鉱山奴隷だった。
採掘作業そのものは嫌いではなかったものの、監督官から怒鳴られ、扱き使われる日々。
鉱山が廃鉱になったときはようやく解放されたと安堵していたら、今度は病に罹って処分されそうになった。
神様なんていない。
もしいるとしても、自分のことを助けてはくれない。
そんな絶望に沈んでいたときに彼と出会った。
そして救ってくれた。
そのときにニーナは思ったのだ。
彼こそが、自分にとっての「神様」だと。
だからすんなりと受け入れることができたのである。
この力の制限時間はおよそ二十分だという。
それまでに目的のものを入手し、戻らなければならない。
「だけど、これならやれるのです!」
ニーナは地面を蹴って走った。
当然ながら初めて立ち入った場所ではあるが、何となく進むべきルートが分かった。これもきっとご主人様から授かったスキルのお陰だろう。
途中、何度か魔物が立ちはだかってきたが、今のニーナの敵ではなかった。
やがてその場所へと辿り着く。
「……あれが、ボスモンスターなのです……っ?」
〈神眼〉スキルを持つ今のニーナならば、そのステータスを見ることが可能だった。
オリハルコンゴーレム
レベル:90
神の金属とまで言われるオリハルコンでできたゴーレムだ。
特別なスキルは何一つ持ってはいないが、耐久値が異常なほど高い。
それにレベル90だけあって、その他のステータスも決して侮ることはできなかった。
「でも、負けないのです!」
ニーナは地面を蹴った。
ゴーレムの高度な感知センサーが見失うほどの速さで、一瞬にして足元に肉薄。
「はぁっ!」
そして二本の剣――いずれも自作のニーナソード弐式――を右足へと叩きつける。
「……硬いのですっ」
アダマンタイト製の剣を持ってしても、与えられたのは小さな傷だけ。
さすがはオリハルコンだ。
普通の攻撃ではほとんどダメージにはならない。
ゴーレムの拳を俊敏な動きで躱しつつ、ニーナは力を溜めた。
〈闘気+10〉スキルのお陰で、刀身に凄まじい量の闘気が収束していく。
さらにニーナは〈魔法剣+10〉スキルをも併用する。神の金属と言えど、金属であることには変わりがない。そして金属には、必ず融点というものが存在する。すなわち超高熱によって溶かすことが可能なのだ。
闘気に混じる形で劫火が刀身を覆い尽くしていく。
「まだ……なのです!」
アダマンタイトゴーレムであれば、すでに一撃で仕留められるだけの威力が溜まっているだろう。
だがこのゴーレム相手ではまだ足りないと、ニーナはさらに力を込めていく。
こちらの攻撃の脅威度を理解したのか、オリハルコンゴーレムは怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
転移魔法も駆使しつつ、ニーナはそのすべてを避けていき、そして――
「〝劫火十字斬〟なのですッ!」
オリハルコンゴーレムの胸部を十字の斬撃が切り裂いた。
神の金属すら溶解する超高熱の剣閃。
四等分された巨体が地面に崩れ落ちた。
「た、倒せたのです……?」
ゴーレムには人間の心臓に当たる〝核〟と呼ばれる部位が存在しており、これを破壊しない限り、何度でも復活してしまう。
だが壊れたオリハルコンゴーレムにそのような気配はない。
〈神眼〉によって予め〝核〟の位置を特定し、そこを狙ったのだが、どうやらしっかりと破壊することができたようだ。
◇ ◇ ◇
程なくしてニーナが戻ってきた。
「オリハルコンゲットなのです!」
小さな身体で自分の三倍以上はあろうかという大きな塊を抱えながら、嬉しそうに駆け寄ってくる。
オリハルコン――正確にはその原料となる神金鉱――だ。
純度の高いオリハルコンを抽出しようとすれば、幾らか総量は少なくなってしまうが、それでも十分すぎる量だろう。
「よくやった」
「ご主人様の力のお陰なのです! あ、力が……」
どうやらちょうど制限時間がきてしまったらしい。
次に使用するためにはインターバルが存在するようで、数日間は使えなくなってしまう。
「だけど凄い力だったのです!」
「今のところ皆には内緒だぞ」
「はいなのです!」
この方法は実は、自分の首を絞める危険性を孕んでいる。
神の力を手に入れた人間が、それを悪用して逆に神を滅ぼしてしまうなんて話は、よく聞くもんな。神話とかで。
まぁそうした心配はほとんどないだろうが。
なぜなら信仰度100%というのは、そういうものだからだ。そもそも反逆する気持ちなんて起きないからこそ100%なのである。
無事にオリハルコンの原料を手に入れて、俺たちはクラン本部へと帰還した。
「早速、ご主人様の武具を〝錬成〟するのです!」
と、ニーナはすぐに意気込んで工房へと消えていく。
オリハルコンの加工は非常に難しいが、神級鍛冶師の彼女ならどうにかやってくれるだろう。
・神竜剣レッドキール:両手剣。最上大業物。ありとあらゆるモノを斬り裂くことができる剣。火属性。稀少度レジェンダリー
・神竜剣ヴィーブル:両手剣。最上大業物。ありとあらゆるモノを斬り裂くことができる剣。ドラゴンへのダメージ増大。氷属性。稀少度レジェンダリー
そうして新たに出来上がったのが、この二本の剣だった。
元々俺が使っていた剣からできていることもあって、持ってみると非常に手に馴染む。
名剣の類いは、戦いの歴史を記憶すると言われている。
そのため新たな剣を打つとき、古い剣の一部を素材として再利用するというやり方を取ったりするそうだ。それが〝錬成〟という手法である。
さらにニーナは鎧も作ってくれていた。
・ニーナアーマー参式(軽鎧):神級鍛冶師ニーナ作。オリハルコンを基本素材としており、アダマンタイト製の弐式と比べて、さらに防御力、強度が大幅に上昇。稀少度レジェンダリー
ディアナの持つ伝説の剣や、テツオの勇者装備に勝るとも劣らない。
ただ、さすがにこのレベルの武具となると、作るのに時間がかかってしまうようだ。
できれば主要メンバー分ほしいが、それにはもう少し待つ必要があるだろう。
「あまり無理しなくていいから、ゆっくり作ってくれ」
「頑張るのです!」
すでに戦闘要員としてはほとんど活躍できなくなってしまったニーナだが、今や鍛冶でそれ以上の貢献をしてくれていた。
さすがは俺の信者第一号。
あのとき彼女を助けた俺の神眼に狂いは無かったということだ。
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