第105話 リッチ
「ぜひ君たちを僕のコレクションに加えたいなぁ」
「コレクション……?」
自らリッチであると明かす青年の言葉に、セルカの背筋を嫌な汗が流れる。
「こういうことだよ。おいで、僕の眷属たち」
青年がワザとらしく両腕を広げて宣言した直後、その周囲に次々と姿を現す影があった。
宙に浮かぶ妖艶なエルフの魔女。
子供ほどの大きさしかないが、不敵な笑みを浮かべる小人族(ハーフリンク)。
頭部に鋭い角の生えた鬼族の男。
圧倒的な気配を漂わせる人間族の老人。
身の丈四メートルを超す筋骨隆々の巨人族。
他にも人間、亜人、あるいは魔族といった様々な種族がずらりと青年の前に並んだ。年齢性別も老若男女様々だ。
全部で十五人ほど。その全員に当てはまるのが、リッチの青年と同じく生気が感じられないことだ。
「まさか……」
「そう。全員が僕と同じ不死者(アンデッド)で、僕の忠実な眷属たちだよ。無理やり魂を召喚して支配した子もいれば、僕が殺して眷属にした子もいるけれどね」
この青年は、自分が不死者化するだけでは飽き足らず、気に入った者を不死者にしているというのだ。
その神をも恐れぬ所業に、セルカは寒気を覚えた。
「そっちのハーフエルフちゃんもいいけれど――」
青年の舐めるような視線に晒され、セルカは身体を震わせる。しかしすぐに青年の目は傍にいたルノアへと向けられた。
「一番はその子かなぁ? まだ
悪魔……?
セルカは眉をひそめる。
「おことわりなの」
はっきりと拒絶するルノア。セルカと違って、この状況でもあまり動じていない。相変わらず凄い子ですね……とセルカは感心してしまう。
「残念だけれど君に拒否権はないさ。ふふふふ、まずはどうやって殺そうかなぁ? 前回の子は生きたまま解剖してあげたけれど……そうだ。今回は身体じゃなくて、頭の方を解剖してみようかな!」
何とも楽しげに、悍ましいことを口にするリッチ。
「だけど、まずはあの不要な男たちを排除しなくちゃね」
どうやら元海賊の男たちについてはコレクションする気はないらしい。
その命令に応じて、眷属たちが一斉に臨戦態勢に入った。
「そ、そう簡単にやられてたまっかよ!」
「おうよ!」
男たちは互いを鼓舞し合いながら身構える。
「言っておくけれど、僕の眷属たちは例外なく強力だよ? よく使われる冒険者のランクで言うと、この五人はAに相当するだろうね」
Aランク冒険者クラスが五人……。
一方、こちらの最高はセルカのBランク。
ルノアやスラいちは冒険者ではないが、間違いなくAランク相当の実力を持っている。けれど、それでもAランク五人が相手では分が悪い。しかもそんな実力者たちを不死者化したのあのリッチ自体が、Sランクに匹敵する可能性だってあるのだ。
どう考えてもこちらの方が不利。
――もっとも、もし戦えば、の話だが。
「……ルノアさん」
「りょうかいなの。テレポート」
ルノアは転移魔法を使った。
全員まとめてその場から姿を消す。
「……は?」
そして思わず頓狂な声を漏らしてしまったのはリッチである。
「ちょ、逃げた!? まさか転移魔法を使えたってのかい!?」
獲物を逃して項垂れる彼の周囲では、呼び出されただけに終わった眷属たちが虚しく臨戦態勢を解除していた。
◇ ◇ ◇
「なるほど。そんな奴がいたなんてな」
セルカから報告を受けた俺は、即撤退を選んだ彼女たちの判断を褒めた。
「ルノアが転移魔法を使えてよかったよ」
俺が頭を撫でてやると、ルノアはえへへと嬉しそうに破顔した。そもそも俺が転移魔法を使えるのも彼女のお陰だしな。一応、今は彼女以外の信者からも〈時空魔法〉の熟練値が入って来てはいるが。
「危険な奴っぽいし、全員で行って倒してくるか」
という訳で、俺は実力のあるメンバーを選抜してリッチが現れたというダンジョンの奥へと向かった。
ルノアが一度訪れたことがあるため、転移魔法で一瞬だ。
ちなみにメンバーは、俺、ファン、アンジュ、ルノア、セルカ、そしてレヴィとスライムの従魔たちである。
「っ? 戻ってきた……?」
幸いなことにまだその場所にリッチの姿があった。
見た目は二十代の青年だが、
グリオール 643歳
種族:リッチ
レベル:83
スキル:〈死霊術+10〉〈黒魔法+10〉〈風魔法+10〉〈水魔法+10〉〈氷魔法+10〉〈自己修復+10〉〈召喚魔法+8〉〈無詠唱+5〉〈高速詠唱+6〉〈魔法耐性+5〉
称号:死を超越せし者
643歳か。
さすがに伝説の怪物であるレヴィほどではないが、アンデッドだけあって物凄い年齢だな。
「……へえ、これはこれは。随分と素敵な仲間をたくさん連れて来てくれたねぇ」
リッチは舌舐めずりするように俺たちを眺め回してくる。
「僕のコレクションも一層充実しそうだ!」
眷属たちを呼び出すリッチ。
聞いていた通り、全体的にハイレベルな連中だった。
特にこの五人はAランク冒険者に相当する強さだ。
アルア 343歳
種族:エルフ族|(アンデッド)
レベル:63
スキル:〈火魔法+8〉〈風魔法+9〉〈土魔法+7〉〈無詠唱+3〉〈高速詠唱+6〉〈魔法耐性+6〉〈自己修復+7〉〈痛覚軽減+10〉
称号:死霊術師の眷属
レオーサ 139歳
種族:小人族|(アンデッド)
レベル:61
スキル:〈剣技+5〉〈体技+3〉〈投擲+6〉〈隠密+10〉〈壁面走行+4〉〈俊敏+8〉〈柔軟+4〉〈動体視力+4〉〈自己修復+7〉〈痛覚軽減+10〉
称号:死霊術師の眷属
ラグア 93歳
種族:鬼族|(アンデッド)
レベル:66
スキル:〈剣技+9〉〈怪力+4〉〈俊敏+2〉〈動体視力+4〉〈自己修復+7〉〈痛覚軽減+10〉〈武運+7〉〈第六感+6〉
称号:死霊術師の眷属
シュンファ 172歳
種族:人間族|(アンデッド)
レベル:71
スキル:〈体技+10〉〈拳技+4〉〈蹴技+4〉〈動体視力+6〉〈柔軟+8〉〈闘気+8〉〈自己修復+7〉〈痛覚軽減+10〉
称号:死霊術師の眷属
ガガグラ 216歳
種族:巨人族|(アンデッド)
レベル:57
スキル:〈体技+6〉〈怪力+10〉〈自己修復+7〉〈物攻耐性+8〉〈痛覚軽減+10〉〈闘気+3〉
称号:死霊術師の眷属
強さもさることながら、アンデッドと化した効果なのか、〈自己修復〉スキルが高いのが厄介だろう。
他の奴らもいずれもBランクレベルだ。
「ファン、あの一番小さい奴を」
「ん、わかった」
あの小人族は敏捷値が高く、また隠密能力に長けている。だが速度ならファンも負けてはいないし、獣人特有の鋭い嗅覚で対処できるだろう。
「アンジュはあの爺さんだ」
「任せて!」
互いに体技を得意としているので、徒手空拳対決になる。五人の中でもあの爺さんが最も強そうだが、ここはアンジュを信じて任せよう。……相手は死者なのだが、見た目が生きた人間に近いと大丈夫らしい。
「刀華は鬼族の男を」
「了解した!」
こっちは剣士同士の戦いだ。〈武運〉や〈第六感〉といったスキルがどう影響するか未知数なところもあるが、刀華ならそう簡単に負けはしないだろう。
「ルノアはあのエルフを頼めるか?」
「わかったの」
魔法に長けた相手に、こちらも魔法を得意とするルノアをぶつける。
「レヴィはあのデカい奴だ」
「巨人族か。ぢゃが所詮、われからすれば赤子の大きさよ」
巨人族はでかいが、本来のレヴィはもっと巨大だからな。
「セルカ、スラぽんたちの援護を頼む」
「は、はい!」
そして残る連中には従魔たちで対処し、それをセルカに矢で遠距離からサポートしてもらう。
「さて、あとは俺だな」
あのリッチは俺が相手取ることにした。
最悪、他のメンバーたちは時間を稼げればいい。恐らくリッチを倒してしまえば、眷属にされた死体たちも動きを止めるだろう。
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