第101話 チームA
「くそっ、数が多いぞ!」
「一分耐えてくれ! 魔法をぶっ放す!」
「任せた!」
洞窟に男たちの怒号が響いていた。
彼らがやり合っているのは、二足歩行の巨大な蜥蜴たち。
リザードマンだ。
だが、ただのリザードマンではなく、その上位種。
エルダーリザードマンと呼ばれる魔物だった。
発達した手には剣や槍などの武器も備えており、ある程度の知能を有していることが窺える。
それでも十体近い蜥蜴人たちの猛攻に、魔法を詠唱している後衛を除いた三人でどうにか耐えていた。やがて一分が経過する。
「よし、避けてくれ! エクスプロージョン!」
凄まじい爆発が密集した蜥蜴たちを襲った。
上級の火魔法だ。
耳を弄する轟音が洞窟を駆け抜け、熱風が男たちの頬を炙る。
「はははっ、見たか!」
魔法を発動した男が勝ち誇る。
他の男たちもホッと安堵の息を吐き出した。
だがそのとき、砂煙の中から一体の蜥蜴人が飛び出してくる。大火傷を負ってはいるものの、直撃を避けたお陰でまだ生きていたのだ。
蜥蜴人の槍が、最も近くにいた男の喉首を狙う。
咄嗟のことで彼は致命的に反応が遅れてしまった。
しかし喉を貫かれる寸前、槍の先端がすっぱりと切り裂かれた。
猛スピードで割り込んできた少女が剣を一閃して槍を切断したのだ。
さらに少女は返す刀で蜥蜴人の胴部をあっさりと両断する。
「す、すいません、親分!」
「ん、最後まで油断してはだめ」
「分かりました!」
頭を下げて礼を言ってくる元海賊の冒険者に、ファンは相変わらずの無表情で応えた。
「あと、親分はスラぽん」
「はい!」
彼女の中では未だにスラぽんの方が序列が上なのだ。
その傍で、ぷるぷるっ! と、スラぽんが威厳たっぷりに震えていた。
〝チームA〟は今、ダンジョン『蜥蜴人の洞窟』攻略の真っ最中だった。
バランから戻って来るや、再び元海賊たちのレベルアップに励んでいるのである。
「でも、力は確実に付いてきてる」
「「「ありがとうございますっ!」」」
ぷるぷる!
「ん。スラぽんも褒めてる」
「「「スラぽん親分、ありがとうございますっ!」」」
すでに彼らのレベルは全員が30台中盤にまで上がっていた。
まだCランクではあるが、昇格試験を受けさえすれば間違いなくBランク冒険者になることができるだろう。
並のリザードマンのレベルは20前後だが、その上位種であるエルダーリザードマンは30強である。
先ほどは十体近いエルダーリザードマンに襲われたため苦戦したが、同数であればまず後れを取ることはない。
「次は深層にチャレンジ」
「は、はい!」
ファンは男たちを率いて、さらにダンジョンの奥へと進んでいく。
このダンジョン『蜥蜴人の洞窟』は、大きく上層、中層、そして深層に分かれていた。そしてこれまでのところ、まだ中層までしか足を踏み入れたことはない。
「っ! 見たことのないリザードマンがっ……」
深層に到達するや否や、茶色い鱗のリザードマンとも緑茶色のエルダーリザードマンとも違う、赤い鱗のリザードマンに遭遇した。
「赤い」
「恐らくあれはアークリザードマンです!」
エルダーリザードマンのさらに上位種だった。
鑑定能力を持っていない彼らでは知ることができないが、そのレベルは40に近い。
「強さ確かめる」
そう呟いた直後、ファンは地面を蹴って疾走した。
「相変わらずすげぇ」
「動きを目で追うだけで精一杯だぜ……」
アークリザードマンの間を獣のごとき速さで駆け抜ける小柄な少女に、男たちは見慣れた光景でありながら未だに驚きを隠せない。
やがて四体いた赤い鱗のリザードマンたちは、一体残らず斬り伏せられて絶命した。
汗一つ掻いてないファンは、男たちの方を振り返って、
「ん。それほど強くないから大丈夫」
「わ、分かりました!」
以降はアークリザードマンが出現すると、男たちが相手取った。
一対一だと、ややアークリザードマンが優勢。だが男たちは連携することによって、同数であれば何とか撃破できるようになる。もっと数が多い場合は、ファンやスラぽんが加勢した。
それから一時間ほど深層で探索を続けていると、
「……この先、危険な気配がする」
不意にファンが呟いた。
その先に広がるのは、洞窟とは思えない広々とした空間だった。
「もしかしてボスですか?」
「可能性は高い」
ダンジョンには、ほぼ必ずと言っていいくらいボスと呼ばれているモンスターが存在している。
通常のモンスターとは比較にならない強さを誇り、ダンジョンコアを護っているのだ。
「ボス攻略、できそう?」
「た、戦うんですか!?」
ファンの提案に、男たちは思わず声を裏返させてしまう。
「ん。でも、私とスラぽんも手伝う」
まだ彼らだけではこのダンジョンのボスを倒すことは難しいだろう。だが、自分たちが手伝うならば問題なく討伐できるはず、というのがファンの見込みだった。
モンスターが強ければ強いほど、倒したときの成長が早くなるのだと、ファンはレイジから教えられていた。
強い者が加勢するとその分だけ経験は少なくなるが、それでも雑魚ばかりを倒しているよりは遥かに効率がいいそうだ。
となれば、ダンジョン最強のボスを利用しない手はない。
ファンたちが加勢すると聞いて、男たちは少し安堵した様子で、
「わ、分かりました!」
「頑張ります!」
そして彼らはボス部屋へと足を踏み入れた。
慎重に進み、部屋の中央までやってくる。
「出て来ませんね……?」
「! 上! 気を付けて」
ファンの言葉でハッと頭上を見上げた男たちが見たのは、天井に張り付く巨大な蜥蜴――いや、リザードマンだった。
これまで遭遇してきたリザードマンたちとは段違いに大きい。全長はゆうに四、五メートルを越えるだろう。それが岩肌に張り付き、こちらを窺っていたのだ。
直後、その巨体が落下してくる。
ファンたちは一斉に散開した。
ずぅぅぅんっ! と凄まじい地響きを轟かせながらリザードマンが着地。砂埃が舞い上がる。
「うおおおいっ!? デカ過ぎだろ!? ほとんどドラゴンじゃねぇか!」
男の一人が悲鳴を上げた。
間近で見ると、その大きさに圧倒されてしまう。しかもドラゴンと違って二本脚で立ち上がることが可能なため、一際巨大に見えた。
その強さも規格外。
もし鑑定することができる者がこの場にいれば、そのレベルは50に達していることが分かっただろう。
キングリザードマン
レベル:50
スキル:〈爪技+5〉〈突進+5〉〈噛み付き+5〉〈闘気+2〉〈怪力+3〉〈頑丈+5〉〈統率+2〉
称号:リザードマンの王
「スラぽん、いける?」
ファンが訊ねると、了解! とばかりに、ぷるぷるっとスラぽんが身体を揺れさせる。
一人と一匹はほぼ同時に地面を蹴った。
ファンが先行し、巨大な蜥蜴に立ち向かう。
キングリザードマンが剛腕を振るい、鋭い爪でファンを切り裂こうとする。ファンは瞬間的に加速することであっさり躱すと、巨体の懐に斬撃を見舞った。
「オアアアアアッ!」
悲鳴を上げるキングリザードマン。
憤ってファンを必死に追い回すが、そのせいで隙だらけだった。
突然その足を取ったのはスラぽんだ。
蜥蜴の王はバランスを崩し、その場に引っくり返った。
「ん、さすがスラぽん」
スラぽんは異空間から次々と身体を出していき、キングリザードマンの全身に絡み付く。
「ちょっ、何だあれ!?」
「本当にスライムなのか!?」
初めてスラぽんの本当の大きさを知った男たちが目を見開いている。
「ん、今の内に攻撃」
「「「は、はいっ!」」」
ファンから注意され、男たちはすぐに我に返った。
「おりゃあああっ!」
「今だあああっ!」
「って、硬ぇっ!?」
「なんだこの鱗っ!」
キングリザードマンの鱗は金属並の硬さを誇っていた。それでもニーナ作の武器のお陰で、何とかダメージが通る。
「シャアアアアアッ!」
スラぽんに下半身を封じられながらも、蜥蜴の王は身を捻って牙を剥く。もし噛み付かれでもしたら、まだレベルが30台中盤でしかない男たちでは一発でお陀仏だろう。
だがファンが上手くヘイトを稼ぎ、引きつけていた。
そんな緊張感のある攻防が数分続き――――やがてボスモンスターの生命値が全損する。
蜥蜴の王は動かなくなった。
「おおおっ! 倒せた!」
「ボス討伐に成功したぞ!」
ファンとスラぽんのお陰でイージーモードでの勝利だったが、男たちは初のボス討伐の喜びを爆発させる。
「ん。いずれ四人だけで倒せるようになるのが目標」
ぷるぷるっ!
「スラぽんもそう言ってる」
「「「了解です、スラぽん親分!」」」
チームAはスラぽんを頭(かしら)に据え、狼の群れのような一体感を有していた。
◇ ◇ ◇
「……なんだこれ……」
俺はチームAを迎えに来たんだが……なぜかスライムに敬礼している男たちを発見してしまう。
一体彼らはどこに向かっているのかと、本気で心配になってしまった。
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