第100話 VS毒竜
ファフニール
レベル:99
スキル:〈毒の息+10〉〈噛み付き+10〉〈鉤爪攻撃+10〉〈突進+10〉〈物攻耐性+10〉〈魔力探知+10〉〈人化+3〉
称号:神世の毒竜
ファフニールは地を這う蜥蜴のようなタイプのドラゴンだ。
しかしその巨大さはリヴァイアサンに匹敵し、後足で立ち上がれば、ティガの城壁すら乗り越えてしまいそうなほど。
全身は漆黒の鱗に覆われていて、大きく裂けた唇から毒々しい色合いの長い舌が伸びている。
『レヴィアタァァァァァン!!! 人化して人間どもに交じっていても、お前の匂いは丸分かりだッ! 出て来いッ!』
ファフニールが怒鳴り声を上げた。
人間の言葉ではないが、〈魔物調教〉スキルを持っている俺には何となく意味が分かった。
人化して幼女の姿をしたレヴィが前に出る。
『くくく、久しぶりぢゃのう、ファフニール』
『ッ!? 何だよ、その姿は! ガキじゃないか!』
『ガキって言うでない! ……そんなことより、よく盗んだのがわれだと分かったのう?』
『お前の磯臭い匂いが巣に残っていたんだよッ! 早く返せッ!』
『断るのぢゃ!』
俺はレヴィの頭をこついた。
「お前、何やってんだよ」
「なあに心配は要らぬ。あやつの相手はわれがする。貴様はそこで見ておればよいのぢゃ」
『へぇ、随分と人間と仲がいいじゃないか、リヴァイアサン。くふふっ、いいさ、もし君が大人しくボクの宝を返してくれないというのなら、その人間ごと……いや、この都市ごとボクの毒の息で殲滅してあげるよ』
ファフニールが鋭い牙を剥いて笑う。
そしてその長い喉首がもごもごと蠢き出す。
毒の息を吐き出そうとしているのだ。
『くくくっ、そんな息、人間どもには効いてもわれには効かぬわ!』
「おいこら、お前らの戦いに人間を巻き込むなよ」
「安心せい、人間など少々減ったところですぐにまた増えるのぢゃ」
ダメだろ。
しかもあのファフニールの〈毒の息〉スキルは+10だ。〈毒耐性〉スキルを持っている俺たちはともかく、もし毒息を撒き散らされでもしたら本当にこの都市ごと壊滅しかねない。
『勝負ぢゃ、ファフニ――』
「テレポート」
俺は戦う気満々だったレヴィを、転移魔法で強制的に遥か遠くへと飛ばしてやった。
この場をあいつに任せてられるか。
それに俺が戦って街を救った方が、信者を増やせられそうだしな。
『いでっ!?』
俺は転移魔法でファフニールの頭上に飛ぶと、その頭に全力の斬撃を叩き込んだ。
ファフニールの巨大な頭部が地面に激突する。
しかしその衝撃で毒息の一部が口部から漏れ、それに触れただけで大地がじゅわりと溶解した。
「ルノア! 風魔法で毒息が都市に行かないようにしてくれ!」
「はいなの!」
『な、何だい、今のは!?』
俺に斬り付けられたことにも気づいてないようで、ファフニールが驚きながら左右を見渡す。
上だよ、上。
「お前の相手は俺だ。ヴォルトスパーク!」
『ぎゃっ!? っ……このおっ!』
俺の雷魔法を喰らったファフニールが、憤りを露わに躍り掛かってくる。
『伝説のドラゴンって聞いていたが、思っていたより大したことなさそうだな』
『なんだって!? ボクを舐めるなよ、人間風情が!』
どうやらかなり単純な奴のようだ。
念話を使って挑発すると、何の疑いも無く付いてくる。
だがめちゃくちゃ速い。俺は転移魔法も駆使しつつ、都市から離れていく方向へと毒竜を誘導した。
『逃げるなよッ!』
やがて都市の城壁から二キロほど離れた。
そろそろいいか。
俺は逃げるのを止め、ファフニールと向かい合った。
『ようやくボクからは逃げられないって気づいたかい。くふふっ、安心しなよ! 君には最高に苦しんで死ねる毒を浴びせてあげるからさぁっ!』
ファフニールが毒の息を吐き出してくる。
息というより、ほとんど液体だ。
「コールドウェイブ」
だが俺は氷魔法を放ち、それを一瞬で氷結させる。
塊と化した毒液は俺に届かず、地面に落下していった。
『ボクの毒液を防いだ!? じゃあ、これならどうだい!』
ファフニールが怖ろしい速さで噛み付いてきた。
迫りくる牙を咄嗟に剣で防ぐ。
口腔に並んだ牙には猛毒の唾液で覆われていた。これを傷口から体内に流されると、さすがに俺もただでは済まないだろう。
さらにファフニールは毒で濡れた爪を振るって攻めてくる。
『人間ごときがボクに逆らおうなんて、一千年早いんだよッ!』
いや、千年経ったら人間死ぬから。
俺は内心でツッコみつつファフニールの猛攻を凌いでいく。
伝説のドラゴンであるが、直情的な性格のせいか攻撃は単調で読みやすい。毒にさえ気を付けていれば、リヴァイアサンを相手にするよりも幾らか楽だ。
しかし隙を見つけてはその黒い鱗を斬り付けているのだが、やはりなかなかダメージが与えられないな。
リヴァイアサンと同じで、ただでさえ竜種は鱗のせいで耐久値が高いというのに、〈物攻耐性+10〉なんてスキルまで持ってやがるせいだ。
もっと威力の高い一撃をぶち込んでやるしかない。
というわけで、俺は神獣化したレオ王を相手にもぶっ放したあの必殺技を使った。てか、元々はこれリヴァイアサンと模擬戦的なことをしていた際に編み出したものなんだけどな。
「〝炎氷十字斬〟ッ!」
『っ!?』
十字の剣閃はファフニールの超硬度を誇る鱗を粉砕した。
それは内部の肉をも裂き、赤い飛沫が吹き出す。高熱により一部はすぐさま蒸発し、一部は冷気で瞬時に凝固し落下していく。
『ぎゃああああああああああああッ!!!』
背中に巨大な十字の傷痕を刻まれて、ファフニールが大きな悲鳴を轟かせた。
『うぁっ……ま、まさか、このボクが……人間ごときに……』
よろめきながら後ずさるファフニール。
これほどの傷を受けたことなど、恐らく何百年ぶりといったレベルだろう。久しく経験していない痛みに、ファフニールは戦意を喪失したようだった。
『さてと、これで落ち着いて話せそうだな』
『ぼ、ボクを殺すつもりかい?』
『そんな気はない。だからそう怯えるなよ』
『……』
ファフニールは疑り深い目で俺を見てくる。
きっと過去には、宝を狙う多くの人間と戦ってきたのだろう。そして金に目の眩んだ人間なんて大抵ロクな奴らじゃない。
『悪かったな、王冠はちゃんと返すから』
『返すだって?』
驚いたように訊き返してくるファフニール。
俺はルノアを呼んだ。
『あっ! ボクの王冠!』
「ルノア。それはこのドラゴンの王冠で、レヴィが勝手に盗んできたものらしいんだ」
「そうなの?」
「だから返してあげてくれ」
「……はいなの」
しょんぼりと頷くルノア。
「後で代わりのものを上げるから」
「ほんとなの!?」
だがすぐに目が輝く。単純でよかった。
俺は王冠をファフニールの頭に乗せてやった。
デカすぎて本当に乗っかってるだけだが……こんなのドラゴンが持っていたところで、宝の持ち腐れだろうに。
『傷も治してやるよ』
俺とルノアの二人掛かりで回復魔法をかけてやる。
傷が大きいせいで、一度の魔法だけでは治せないのだ。
『……変わった人間もいるもんだね……』
治療を受けながらファフニールがぼそりと呟いていた。
『じゃあ、元気でな』
『う、うん……』
来たときとは打って変わって大人しくなったファフニールが、ゆっくりと自分の棲家へと帰っていく。
それを見送ってから城壁まで戻ると、兵士たちが大歓声で出迎えてくれた。
「あのファフニールを追い払ったぞ!?」
「すげぇ! さすがレオ王を倒した男!」
「この街の救世主だ!」
「ああああっ! レイジさんありがとうございますぅぅぅっ!」
ていうか、ファフニールが来たのって、ぶっちゃけ俺のせいなんだけどね?
俺っていうか、俺の従魔のせいだが。
だがそのお陰でまた信者が増えるな。
ふふふ、レヴィよ、いい仕事するじゃないか。
後で何か褒美をやらないとな。
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