第92話 獣人の国
五チームに分けてのダンジョン攻略を始めてから、一週間が経った。
思っていた以上にその成果が出ている。
セルカ
レベルアップ:35 → 39
スキルアップ:〈風魔法+4〉→〈風魔法+5〉
特にセルカはこの短期間で4つもレベルアップしており、もうすぐで40の大台に到達しそうだ。〈献物頂戴+3〉の効果のお陰もあるだろう。彼女は信仰度が高いからな。
「これだけ長い時間ダンジョンに潜ったのは久しぶりです。しかもこれほど高難度の」
「Aランクへの昇格も夢じゃないと思いますよ」
「ふふ、さすがにそれはまだ早いですよ。……それにしても。ルノアさんが強いとは聞いていましたが、ちょっと想像を軽く超えていました……末恐ろしい子ですね」
悪魔だからなぁ。
元海賊の冒険者たちも順調にレベルアップしているようだ。
「やっぱファンさんすげぇわ。強くて無口でクールなところに惚れる」
「バカ言え! あの性格でドジっ娘属性のあるアンジュちゃん一択だろ!」
「おいおい、お前ら刀華様のことを忘れてんじゃねぇぞ」
「ルノアちゃんラブ」
……何を張り合ってんだよ、お前ら。
一方で、シルステルへと連れてきた海賊の元幹部たちも、冒険者として徐々に成果を上げ始めていた。
「見ろよ、Cランクに昇格したぜ!」
クラン本部の執務室にいると、元女海賊のシーナがドヤ顔で入ってきてギルド証を見せてくる。
Cランクというのは上級に分類されている。中には一生かかってもなれない冒険者もいるくらいで、冒険者になって一か月も経たずに昇格するというのは異例の速さだろう。俺でも確か、一か月ちょっとかかったっけ。
まぁ彼女の場合、元からAランク相当の実力があったもんな。
シーナ 24歳
種族:人間族
レベル:47
スキル:〈剣技+5〉〈風魔法+4〉〈動体視力+3〉〈操船+4〉〈水泳+4〉〈俊敏+3〉〈魔物調教+4〉〈統率+3〉
称号:上級冒険者(Cランク)
今は他の元幹部たちとパーティを組んで、『九竜の潜窟』に挑んでいるらしい。
すでに三階層まで踏破したとか。
意気揚々と立ち上げたジェパールの冒険者ギルドだったが、やはり当初はまったくと言っていいほど仕事の依頼が無かった。
高レベルダンジョンに挑んでいるA~Eまでのチームが、ダンジョンから素材を持ち帰ってくれるお陰でどうにか回っているというような状況だった。
それでも皆の努力の甲斐もあって、最近は少しずつ依頼が増えつつある。船の護衛依頼などもちょくちょく入ってきていた。
そうしてジェパールの冒険者ギルドが徐々に軌道に乗り始めてきた頃、俺の下にフロアールから手紙が届いた。
ギルド本部の評議会からだった。
「昇格試験の開催が決まったみたいだ」
どうやら現役のSランク冒険者だという獣人の国・バランの王様が、試験の相手を引き受けてくれたらしい。
「という訳で、今度はバランに行くぞ」
「わたくしも行きたいです!」
「ディアナはだめだ。今は仕事が溜まっている時期だから色々と自重させるようにと、大臣から直々に頼まれている」
「くっ……大臣、余計なことを……」
悔しがっているディアナは放置して、俺はパーティメンバーたちを見渡す。
「せっかくだし、また全員で行くか」
最近はずっと働き詰めだったし、たまには皆で息抜きといこう。
「バラン、久しぶり」
「そう言えば、ファンの生まれ故郷なんだったっけ」
「ん」
バランは犬人族であるファンの生まれ故郷でもあるらしい。
奴隷だったため何度か転売され、シルステルに辿り着いたそうなのだ。
「兄貴! 僕も行きたいです!」
と、そこへ割り込んでくる声があった。
勇者テツオだ。
「何でまた?」
「そろそろ人間の女の子を抱くのにも飽きてきたんで! 色んな獣人の子を試してみたいんですよ!」
「お前はもう少し建前を使え」
テツオのその発言に、女性陣から一斉に生ゴミでも見るかのような視線が集まる。
幾ら魅了を解くためとは言え、ちょっとやり過ぎたかもな……。
数日後、毎度お馴染みのスラさんに乗って、俺たちはバランへと出発した。
同行しているのは、ファン、アンジュ、ルノア、刀華、そしてレヴィを含む従魔たちだ。
え? 勇者テツオ?
誰ですかね、そいつ?
と言うのは冗談で、後から転移魔法で連れていってやる予定だった。あの状況で頷いてしまったら、女性陣から俺まで非難の目で見られそうだったしな。
バランがあるのは南ユーラ大陸だ。
途中、海峡を越えなければならないものの、シルステルからバランまで距離はジェパールのそれと大差ない。
ギルドのことは職員たちに任せてある。
数日くらいなら俺が居なくても問題ないだろう。一応、転移魔法でちょくちょく帰って様子を見るつもりだ。
やがてバランの首都、ティガへと到着した。
ティガはシルステルの王都にも匹敵する大きな都市だ。
「さすが獣人の国ね。ほとんどが獣人だわ」
道行く獣人たちを眺め見ながら、アンジュが当たり前のことを呟く。
実際、犬人族や猫人族といった有名な種族はもちろんのこと、巨人めいた体格の象人族や鋭い角を有する犀人族など、かなり珍しい獣人種の姿もあった。
獣人の大半は、人間をベースにして身体の一部が獣となっている。
しかし中には、ケンタウロスのように身体の半分が獣である獣人もいるらしい。また、人虎族(ワータイガー)や人狼族(ウェアウルフ)のように、変身することで完全な獣と化すような獣人もいるそうだ。
ちなみにファンは獣化できないタイプの獣人である。
「王宮に行くのは明日だし、今日は適当にこの国を満喫するか」
Sランク冒険者だという国王に謁見することになっているのは明日だ。試験の日時や場所はまだ聞いていない。
「ファン、どこか見ごたえのある観光スポットとか知らないか?」
「ん、あまり詳しくない。けど……」
ファンの視線は、どこか懐かしそうに、今俺たちがいる大通りの東の方へと向けられていた。
「この辺りに想い出でもあるのか?」
「近くに養成所がある」
ファンはこのバランにいる頃は、剣奴――すなわち、剣闘士奴隷だったそうだ。
剣闘士を育成するための施設があり、幼い頃からそこで剣の指導を受けながら育ったらしい。
「行ってみるか」
それが嫌な記憶だというのなら別だが、見た感じそういう印象は受けない。彼女の場合いつも無表情なのだが、最近は何となく感情が掴めるようになってきた気がする。
「ん。行ってみたい」
ファンはどことなく嬉しそうに頷いた。
それから十分ほど歩いて、その建物へと辿り着いた。
宿泊施設や訓練場のようなものがあり、そこにグラウンドが隣接している。そのグラウンドには、剣を振って訓練をしている獣人たちの姿があった。
「懐かしい……。変わってない」
ファンは物心がついた三歳の頃から、三年ほど前までずっとここにいたらしい。
剣闘士としてデビューしてすぐ、とある貴族に買われて出て行ったそうだ。十年間も育てた奴隷を稼ぎを得る前に手放したのだから、それだけ大金を積まれたのだろう。
「ふざけんじゃないわよッ!」
そのときグラウンドの方から大きな怒鳴り声が響いてきた。
何事かと視線を向けると、二人の獣人が険悪な雰囲気で対峙していた。
「ようやく彼の努力が実り始めた時だったのよ!? それをこんなことにして……ッ!」
「ははっ、何を言っているんだい? 剣闘士たる者、試合に出るからには覚悟しているはずだろう?」
「当然よ! だけど、だからと言ってワザと剣闘士生命を絶つような真似が許されると思ってるのッ!?」
何か揉めごとらしい。
大変そうだなー、などと思っていると、
「……お母さん?」
ファンがそう呟いた。
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