第91話 レベル上げ
ここのところ、日中をジェパールの皇都とセンダ、トウの三つのギルドを行ったり来たりしながら過ごし、夜になるとシルステルのクラン本部へと戻るという生活を続けている。
かつてジェパールで立ち上げたギルドが、なぜ一度は失敗に終わってしまったのか。
その大きな理由は、ここが剣術が盛んな国だからである。
冒険者の一番の強みは戦闘能力を有していることだ。
それゆえに、戦う力を持たない一般の人たちが、例えば魔物の討伐や護衛など、自分にはできない仕事を冒険者ギルドに依頼してくるのである。
だがその事情はジェパールだと少々違ってくる。
なぜならこの国には、戦う力を持つ者が大勢いるからだ。
そのため「戦える」という冒険者にとって最大の強みが、この国ではなかなか活かし辛いのである。
ならば一体どうすればいいのか。
解決方法は主に次の三つだろう。
一つ目は、多様なニーズに答えること。
この国には町の至るところに道場があり、魔物が出たり、護衛が必要だったりした場合、彼らに依頼することが多いという。
しかし道場にとって、あくまでそれは副業のようなもの。そんなに多くの依頼に応じることはできないし、基本的にはただ「戦う」ことだけしかできない。
だが冒険者ギルドでは、例えば薬草の採取や、特定の魔物の素材の入手など、そういった仕事も引き受けることができる。冒険者の中には、専門的な知識を持ってこうした依頼をこなせる者がいるのだ。
そんな風に、ただの剣士ではできないような様々なニーズに対応していくことが、この国でギルドを発展させていくためには不可欠だろう。
もちろん宣伝も重要だ。
冒険者ギルドであれば、もっと色んなことができますよ。
そうしっかりと喧伝して顧客を増やしていくのである。
二つ目は、海賊として培った技術を生かすこと。
元海賊であるということは大きなデメリットではあるが、しかし同時にメリットにもなる。
〝海蛇〟が壊滅したとはいえ、他にも海賊団が存在しているし、海には魔物も出る。
海洋国家として栄えるこの国にとって、漁船や商船の護衛は非常にニーズの高い任務だ。
商会や漁師の中には自前の護衛を有しているところもあるそうだが、海の状況次第では外部から新たに護衛を雇うことも多い。時に剣士を雇うこともあるようだが、彼らの多くは船の上での戦いはあまり得意ではないという。
しかし元海賊であれば、海での戦いはお手のものだ。
加えて海賊のことを熟知している。
目には目を、歯には歯を、海賊には元海賊を、という訳だ。
操船の技術を持っている者が多いことも、宣伝ポイントだろう。
そして最後の三つ目は、より上位の戦闘能力を身に付けること。
当たり前だが、Bランクの冒険者では対処できない魔物が現れたとき、必要とされるのはAランク以上の冒険者だ。
強くなるということはすなわち、替えが効かない、貴重な人材になるということである。
そうした冒険者を可能な限り増やすのである。
そうすれば、そこらの剣士たちではどうしようもない魔物の討伐依頼が、ギルドに持ち込まれることになるだろう。
結果、「ギルドに頼めば確実だ」という、信頼を勝ち取っていくことにも繋がるはずだ。
という訳で、元海賊の冒険者たち二十名に対して、パワーレベリングを行うことにした。
それで俺は今、パーティメンバーたちと、その元海賊の冒険者たち二十名、そしてセルカ、ついでに勇者テツオを連れて、とあるダンジョンへとやってきている。
・蜥蜴人の洞窟
その名の通り、蜥蜴人(リザードマン)が多数棲息しているダンジョンである。
通常のリザードマンであれば、せいぜい危険度はC。オークと同程度だ。
だがここでは、奥へと進めば進むほど、上位種へと進化したリザードマンが出没するようになるという。そのため、かなり難易度の高いダンジョンとして知られていた。
連れてきた元海賊たちは、二百人近くいる中でも最も才能のある者たちだった。
すでにCランク程度の実力はあるので、彼らにはぜひともBランク相当の強さ、レベルでいうと30以上を目指してほしかった。
ダンジョンでのレベル上げに加えて〈賜物授与〉でちょくちょく経験値を与えていくつもりだし、十分実現可能だろう。
俺は連れてきたメンバーたちを、以下の五つのチームに分けた。
チームA……ファン、元海賊四人、スラぽん
チームB……アンジュ、元海賊四人、スラじ
チームC……刀華、元海賊四人、スラさん
チームD……セルカ、元海賊四人、ルノア、スラいち
チームE……テツオ、元海賊四人、レヴィ
この戦力であれば、どのチームも無理なくこのダンジョンでレベル上げができるはずだ。
「じゃあ、ファン。五時間後くらいに迎えに来るから、あとはよろしくな」
「ん。任された。……出発」
ファンは冒険者四人とスラぽんを連れて、洞窟の奥へと出発していった。
「さて、次に行くぞ」
俺は転移魔法を使い、全員を次のダンジョンへと運ぶ。
全チームを同じダンジョンに挑ませると魔物が激減してしまう可能性があるため、それぞれ違うところに連れていくつもりだった。
・怨念の古城
二か所目はアンデッド系のモンスターが出没するダンジョンである。
「アンジュ、任せたぞ」
「って、ここ怖いところじゃない!?」
樹海の奥に忽然と現れた廃墟然としたダンジョンを前に、アンジュが悲鳴を上げた。
「あ、そうか。こういうの苦手なんだったか」
「べべ、別に苦手な訳じゃないけど!?」
こいつ、お化けといい船といい、意外と苦手なこと多いんだよなぁ。
仕方がないので、ここは刀華のチームにしようか。
「じゃあ刀華。頼む」
「わわ、分かった! ……こ、これも修行……修行だ……」
唇を青くさせて、ぶつぶつと何かを自分に言い聞かせている刀華。
こいつもか……。
結局、セルカのチームになった。
「私は平気ですが、ルノアさんは大丈夫ですか?」
「だいじょうぶなの」
ルノアはお化けとかまったく怖がらない子だからな。
・牛頭迷宮
結局アンジュのチームは、ミノタウロスが多数出現するという、複雑な迷路状のダンジョンに。
・氷晶の洞穴
そして刀華のチームは、氷でできた世界で最も美しいと言われているダンジョンへ。
・湖上の墳墓
最後のテツオのチームが挑むダンジョンは、大きな湖の上に浮かぶ島の中にあった。
その名の通り墳墓型のダンジョンである。ここもアンデッドモンスターが出るそうだが、テツオとレヴィなら大丈夫だろう。
それよりも別の心配があった。
「兄貴! 何でうちのチームには女性がいないんですか!?」
「一人いるじゃないか」
「子供じゃないですか! 僕はロリコンじゃないんです!」
「少しの間くらい我慢しろよ。ほら、お前が以前から気になっているっていう子、俺の方から声かけておいてやるから」
「マジっすか!? 頑張ります!」
とんだエロ勇者であるが、チョロい奴でもあった。
「レヴィも頼むぞ」
「うむ、任せておくのぢゃ。われの手に掛かれば、この程度のダンジョンで現れる魔物などすべて瞬殺ぢゃ」
「いや、メインは彼らのレベルアップだからな。お前は彼らがピンチになったときに助けるくらいでちょうどいい」
「なんぢゃ、つまらんのう」
レヴィは実力的には俺に匹敵するのだが、そもそもが魔物だからな。ずっと自由に生きてきたこともあり、誰かから命令を受けることを嫌う。
なのでこっちも褒美で釣るしかない。
「また戦ってやるから」
「本当か!? よし任せるがいい!」
こいつもチョロかった。
今日の俺はただの運び屋だ。
後のことは各チームのリーダーたちに任せて、仕事を片付けるためジェパール皇都のギルドへと戻った。
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