第90話 新たな従魔

リヴァイアサン

 レベル:99

 スキル:〈水魔法+10〉〈無詠唱+10〉〈噛み付き+10〉〈水泳+10〉〈物攻耐性+10〉〈魔力探知+10〉〈人化+3〉

称号:大海の竜王



 見知らぬ幼女かと思った彼女は、先日、海で激戦を繰り広げたリヴァイアサンだった。

 アンジュや刀華が敵わない訳だ。


「この間の戦いは楽しかったのぢゃ! ぜひともまた勝負したいと思って来てやったぞ!」


 明緑色の髪の幼女は偉そうにそんなことを言ってくる。

 見た目の年齢はルノアと大差ないが、実年齢はたぶん千歳を軽く超えているもんな。


「レイジ殿、この少女と知り合いなのか? まさかこんな強い子供がいるなど、思いもよらなかったぞ」

「いや、こいつは見た目こそ子供だが、中身はババアだぞ」

「誰がババアぢゃ!」


 いわゆるロリババアというやつだな。


「何……? どういうことなのだ?」

「彼女はリヴァイアサンだ」

「「「リヴァイアサン!?」」」


 この場にいた誰もが目を丸くした。

 半信半疑の表情で、まじまじと幼女を見る。


「何で人間の姿なんだ?」

「人里にあの姿で現れては都市を破壊してしまうぢゃろうが! わざわざ人化の術を練習したのぢゃぞ!」


 それで〈人化〉スキルの熟練値が以前より上がっているのか。しかもこの短期間の間に、二回も。


「これまでは人の姿にはなれても、サイズを変化させることはできんかったのぢゃ」


 幼女の姿をしたリヴァイアサンが、胸を張って自慢げに言う。

 確かにあの大きさのままの人間じゃあ、軽く家が踏み潰されてしまうよな。


「にしても、なんでまた幼女に?」

「知らぬ! われが人化の術を使うとなぜかこうなるのぢゃ!」


 不思議な話だな。まぁそれを言うなら、あれだけでかい生物が人間サイズになれること自体がおかしいんだが。


「しかしよくここが分かったな?」

「うむ、大変だったのぢゃ。貴様の名前も知らんかったからのう。ジェパールで道行く者たちに聞き回って、ようやくこの国にいることを突き止めたのぢゃ。この都市に来てからも方々を訪ね回ったぞ」


 まさかのドブ板的手法だった。


「むっちゃくちゃ強い人間ぢゃと言えば、大半の者が貴様の名を上げたがのう!」


 俺の知名度に助けられたようだ。確かにジェパールとシルステルであれば、今や俺の名前はかなり知れ渡っている。


「という訳で、早速前回の続きぢゃ! あのときはちと所用を思い出して泣く泣く中断したが、今度こそ心置きなく戦えるぞ!」

「何で俺が応じること前提なんだ……。生憎だが、お断りだ。お前とやり合うと疲れるし」

「なっ。なぜぢゃ!? あんなに楽しい戦い、数百年に一度しかできぬのぢゃぞ!?」


 それはお前の基準だろ。普通そんなに長生きできない。


「この間だって勝手に襲いかかってきたくせに」

「海の上にある強力な魔力を察知して、居ても立ってもいられなくなったのぢゃ!」


 迷惑な話だ。


「とにかく、俺はお前と違って暇じゃないんだよ」

「ちょっとくらいええぢゃないか!」


 俺が踵を返そうとすると、リヴァイアサンは服の袖を掴んできて、


「われとたーたーかーえー、たーたーかーえー」


 そんなふうに駄々をこねてくる。子供か。

 もしかして、人化の際には精神レベルが反映されるんじゃなかろうか。


「はぁ……仕方ないな。少しだけだぞ」

「おおっ! ほんとうか!?」


 俺は転移魔法を使い、誰もいない荒野へと移動した。


「って、ここは海ではないぞ!?」


 だって海だとお前に有利すぎるだろうが。こっちは陸上生物なんだ。


「むぅ……仕方ない。われ自ら水を作り出すしかないの」


 しかしリヴァイアサンは口を尖らせつつ、何でもないことのようにそう呟いた。

 直後どこからともなく大量の水が現れ、辺り一帯が湖へと変わってしまった。

 リヴァイアサンは幼女から海竜の姿へ。


『では始めるぞ!』


 何とも楽しそうに、リヴァイアサンは戦いの開始を宣言したのだった。







 それから荒野にて三時間以上にも及ぶ戦闘が行われたが、結局また決着が付かなかった。

 だがリヴァイアサンとしては満足してくれたようで、


「楽しかったのぢゃ! ここ数百年で一番ぢゃったぞ!」

「そうか。それはよかった」


 俺は疲れた。もうとっくに陽が暮れている。早く家に帰ってご飯を食べたい。


「これは褒美をやらねばならぬの!」

「褒美?」


 何だろうか。もしかしてお金? 何千年も生きているなら、莫大な財産を持っているかもしれない。資金不足は一気に解決だ。


「残念ぢゃが、われはお金など銅貨一枚も持っておらぬ!」


 偉そうに無一文であると明らかにするリヴァイアサン。期待して損した。だが続いて意外な言葉が飛び出してくる。


「われも貴様の従魔になってやるのぢゃ!」

「従魔に?」

「そうぢゃ! 貴様には他にもスライムの従魔がおるぢゃろう?」

「いるけど……いいのか?」

「うむ! 海の底で深海魚を追い駆けて遊ぶのにも飽きてきたところぢゃったし、ちょうどいいのぢゃ! そうすればまた好きなときに貴様と戦えるしの!」


 えー……またやる気かよ……。


リヴァイアサン

 状態:テイム

 信仰度 0% → 20%


 おお、テイム状態になった。

 しかも俺の信者になったっぽい。


レイジ

 レベル:96 → 99


 リヴァイアサンから入ってきた膨大な経験値のお陰で、俺のレベルもカンストしてしまった。


 Q:レベルは99以上には上がらない?

 A:上がらない。ただし、〈限界突破〉スキルがあればその限りではない。


 どうやらリミットブレイクする方法はあるらしい。〈限界突破〉スキルなんて、今まで一度も見たことないが……。


「われも名前がほしいのぢゃ!」

「え? リヴァイアサンが名前じゃないのか?」

「それは種族名なのぢゃ!」


 リヴァイアサンは種族なのか。

 ということは、他にもリヴァイアサンがいるのかもしれない。


 Q:リヴァイアサンって?

 A:1000年以上を生きる太古の海竜。海の王者。伝説級の魔物。深海を寝床としており、海上に現れることはほぼない。最後に目撃されたのは百年以上前。海竜の最上位種であり、レベル80以上でごく稀に進化する可能性がある。


 なるほどな。生まれながらのリヴァイアサンは存在せず、進化することでリヴァイアサンになるのか。


 名前……うーん、名前かぁ……。

 俺、名前付けるの苦手なんだよなぁ。


「ヴァーサンはどうだ?」

「絶対に嫌ぢゃ!」

「リヴァイ」

「一部を削っただけの安直な名前ぢゃの……。しかも何となく男っぽいぞ」


 というか、どこかで聞いたことのある名前だな。


「じゃあ、レヴィはどうだ?」

「おっ、悪くないの」

「決定な。レヴィ、これからよろしく」

「うむ! こちらこそよろしくなのぢゃ!」


 こうしてリヴァイアサン――レヴィが俺の従魔になったのだった。







 クラン本部に戻ると、リビングにパーティメンバーたちを集めた。なぜかディアナもいたが、そのままレヴィを従魔にしたことを伝えた。

 ディアナが、ガタン、と椅子を倒して立ち上がる。


「幼女を従魔に!? まさか、レイジさんはそういう趣味を……」

「違うから! こいつは魔物……リヴァイアサンだ」


 俺はここまでの経緯を慌てて説明する。


「そ、そうでしたか……安心しました。てっきり、レイジさんがロリコンだったのかと……」


 ホッとしたように息を吐くディアナ。

 近くにルノアがいるし、下には孤児院もあるしで、その勘違いは洒落になってねーよ。


「ルノアなの。なかよくするの」

「よろしくぢゃ!」


 見た目は同い年くらいに見える二人が握手を交わす。


「あたしはアンジュよ。……リヴァイアサンだからって、次は負けないんだから」

「ん。ファン。右に同じ」

「私は刀華だ。またぜひ手合わせ願いたい」


 レヴィに敗北を喫したアンジュ、ファン、刀華の三人が、リベンジを誓う。


「ニーナなのです! 今度こそ妹ができたのです!?」

「われは二千歳ぢゃぞ?」

「がーん……なのです……」


 ルノアからも姉として扱われていないニーナは、がっくりと項垂れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る