第89話 謎の幼女来襲!

 ジェパールの皇都に開いたギルドの建物は、やはりジェパールらしい木造建築にした。

 元々は商店として使われていたらしいが、廃業になって放置されていたものを買い取り、軽く改装したのである。

 新しくはないが、とりあえずそこそこ広さがあるのはありがたい。


 さらに俺は皇都の北方にあるジェパール第二の都市、センダへと赴くと、そこにもギルドを立ち上げた。ジェパールの第二号店というわけだ。

 元海賊たちは全部で二百人以上もいる。さすがにその全員を、皇都のギルドだけで働かせては人員過剰だからな。


 ギルド長は俺が兼任することにした。

 そして――


「まさか、セルカさんがジェパールに来てくれるとは思いませんでしたよ」

「私も新しい場所で挑戦してみたいと思ったんです」


 俺の呼びかけに応じ、ファースの街で受付嬢をしていた彼女が、ジェパールのギルドに行きたいと手を上げてくれたのだ。



セルカ 46歳

 種族:ハーフエルフ

 レベル:35

 スキル:〈剣技+2〉〈弓技+5〉〈風魔法+4〉〈望遠+3〉〈隠密+2〉〈洞察力〉〈会話+1〉〈笑顔+2〉〈事務作業〉

 称号:第一級冒険者(Bランク)

 状態:信仰度85%



 彼女は受付嬢でありながら、Bランクの冒険者でもあった。


 当然、最初は受付嬢を希望していたのだが、受付嬢にしておくなんて勿体ない! と思い、ぜひとも冒険者に復帰してほしいとお願いしたのだ。最初は少し迷っていたが、説得に応じて最後は首を縦に振ってくれた。


 そしてファースのギルドと言えば、リザ、ミルフィ、メアリの女子三人組や、バルドック、ククリア、ロッキの凸凹三人組であるが、彼女たちもまたジェパールで冒険者をやりたいと申し出てくれたので、セルカと一緒にここセンダへと来ていた。


「ジェパールは魚が美味しいんだって!」

「リザはどこに行っても食べることばかりね」

「……女体盛りなる食べ方があると聞いた……」


「ついに新天地だぜ! ここで俺たちの新たな冒険が幕を開ける!」

「リーダー、これを機に心機一転、地に足の着いた冒険に努めましょう」

「ファースでは何度危険な目に遭ったことか……」


 相変わらず騒がしい。


 しかしこれだけ一度に冒険者が減って、ファースのギルドの方は大丈夫なのだろうか。


「心配要りません。レイジさんの活躍のお陰で、ファースの冒険者たちが以前よりずっと強くなっていますから」


 クラン・レイジに所属したパーティには、無償でニーナ作の武具を進呈した。それによって魔物を狩りやすくなり、レベルアップしたのだろう。


「それに最近は冒険者たちの素行が随分と改善されてきていました」


 以前は犯罪まがいのことに手を染めている者もいたのだが、ほとんどいなくなったという。

 ……裏で秘密裏に処罰していた効果があったらしい。


 実はここだけの話だが、俺が脅して辞めさせた冒険者が結構いたりする。〈神眼〉を持つ俺には犯罪歴なんて丸わかりだからな。

 今後、ジェパールのギルドでも、もし犯罪行為に手を染めるような冒険者がいたとしたら、俺に簡単にバレてしまう訳だ。怖いね。




 さらに皇都の西、内陸部に位置するジェパール第三の都市・トウにも、三番目となるギルドを立ち上げた。

 内陸部と言っても、近くを大河が走っているため、ここもまた水の都として栄えてきた都市である。


 ここのギルド長も俺が兼任しようと思っていたのだが、適任がいたため彼に任せることにした。

 以前、シルステルのダンジョン『九竜の潜窟』で、倒れているところを助けてあげた男女二人組の一人、ルークである。



ルーク 25歳

 種族:人間族

 レベル:33

 スキル:〈槍技+6〉〈体技+1〉〈回避+3〉〈動体視力+3〉〈度胸〉

 称号:上級冒険者(Bランク)

 信仰度:55%



 そのときはまだCランクの冒険者だったが、現在はBランクへと昇格していた。

 貴族の生まれだが、使用人だった女性と駆け落ちして家を飛び出し、冒険者になったという異色の経歴を持っている。

 誠実な人柄の好青年であり、ギルド長に相応しい人材だと判断した。


 ちなみにその元使用人の女性こそが、彼と一緒に助けたヤルナだ。



ヤルナ 22歳

 種族:人間族

 レベル:30

 スキル:〈弓技+4〉〈望遠+2〉〈気配察知+4〉〈罠探知+1〉〈冷静+1〉

 称号:上級冒険者(Cランク)

 信仰度:45%



 彼らはちょうど結婚を考えていたところらしい。

 もしルークがギルド長になれば、ヤルナはすぐにでも冒険者を引退することができる。そんな理由もあって、快く俺の申し出に頷いてくれた。


 同じくダンジョンでピンチのところを助けてやったことで、クラン加入第一号となったクルスのパーティもまた、このトウへと来てくれていた。きっとルークをサポートしてくれることだろう。


「この国やったら、うちの運命の人に出会えるかもしれへん!」


 ついでに、氷竜に追われているところを救ってやったBランク冒険者のラミアスもいる。ちなみに絶賛恋人募集中らしい。


 元海賊の冒険者たちは、皇都とセンダ、トウで、大よそ5:3:2くらいの割合で分けた。

 と言っても、さすがに全員を冒険者にさせるわけにはいかない。

 俺は例のごとく〈神眼〉を使い、彼らの才能を見極めた上で、事務方に回したり、営業をさせたりと、人員を適所へと配置していった。


 また、海賊によって保護されていた難民女性たちの中から、容姿の優れた者を選んで受付嬢にした。女王の温情もあって、女子供の中には普通の仕事に就くことができた者もいる。




「しかし、ギルドを立ち上げたり、賠償金を立替えしたり、彼らの当面の生活費を工面してやったり、今回の件でこれまで貯めてきた金が完全に底をついてしまったな……。これで事業が失敗に終わったら大赤字だ」


 いったんシルステルのクラン本部に戻った俺は、執務室で思わず呻く。

 何かギャンブルでもやって稼ごうかな?

〈幸運+4〉スキルがあるし、大勝ちすると思うんだけどな。

 フロアールの帝都には巨大なカジノがあるらしい。今度、そこで一攫千金を狙ってみようか。


 そんなことを半ば冗談、半分くらいは本気で思案していると、急に部屋に刀華が飛び込んできた。

 いつも身に付けている道着がビリビリに破けていて、なぜか息を荒らげている。


「おお、レイジ殿! ちょうどいいところに!」

「どうしたんだ? そんなに慌てて」

「大変なのだ! 道場破りがやってきたぞ!」

「道場破り? ここ、ギルドなんだが……」

「似たようなものだ! いきなり訓練場に現れたかと思うと、腕に覚えのある冒険者たちがあっという間に敗北を喫していったのだ! ファン殿や私も負けてしまった!」


 え? ファンや刀華が破れるとか、マジかよ。

 一体、相手は何者だろうか。


「とにかくここで一番強い奴を出せとの一点張りなのだ! 今はアンジュ殿が戦っているが……」

「分かった。すぐ行こう」


 同じ建物内だが、面倒なので転移魔法で飛んだ。

 一瞬で周囲の光景が地下の訓練場へと変化する。


「あああああっ」

「おっと」


 いきなりアンジュがこちらへと吹っ飛んできて、俺は咄嗟に受け止める。


「いたた……」

「大丈夫か?」

「ひゃっ!? ななな、何でお姫様抱っこしてんのよ!?」


 顔を瞬間的に真っ赤にさせたアンジュが、慌てて俺から降りた。

 しかし見たところボロボロだ。どうやらアンジュまでもが、その道場破り(?)とやらにこっぴどくやられてしまったらしい。


「おお! ようやく現れよったか! ここで暴れておれば、きっとまた貴様と会えると思っておったぞ!」


 刀華やアンジュたちを倒したと思われるその人物が、そんなことを言いながらこちらへと駆け寄ってくる。口振りから俺とは初対面ではないらしいが、聞いたことない声だ。


 視線を向けた俺は思わず、「って、幼女?」と呟いてしまう。


 明緑色の髪をした可愛らしい幼女だった。

 しかし今まで見たことのない顔である。ルノアの友達だろうか? いや、ルノアに同年代の友達なんていないし……



リヴァイアサン

 レベル:99

 スキル:〈水魔法+10〉〈無詠唱+10〉〈噛み付き+10〉〈水泳+10〉〈物攻耐性+10〉〈魔力探知+10〉〈人化+3〉

称号:大海の竜王



 って、こいつ、リヴァイアサンじゃないか。

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