第85話 フロアール帝国
「も、もう着いたのか……?」
「あの距離を一瞬で……」
転移魔法を使い、元海賊団幹部たちをシルステルの王都へと連れてきた。
アクアナを含めて全部で五人。一度死んだ彼らには、この国で一から人生をやり直してもらう予定だった。
「ここがシルステルなのか……」
そんな彼らに交じって、シルステルの街並みを珍しそうに見渡しているのは、黒髪の美少女。
ジェパールの王女である刀華だった。
なぜ彼女もいるのか。
実は俺のパーティに新たに加わることになったからだ。
それについてはジェパール女王との謁見に遡る。
◇ ◇ ◇
「では早速、私はギルド本部があるフロアールへ行ってまいります」
「うむ。だがその前に、わらわからもおんしに一つお願いしたいことがある」
「……?」
何だろうか。
訝しんでいると、女王は娘の刀華を呼んだ。
刀華は神妙な面持ちでやってくると、俺の前に跪いて頭を下げたのだった。
「私を貴殿の弟子にしていただきたい!」
弟子……?
「わらわからもお願いする。娘はおんしの強さにいたく感動し、ぜひとも直接教えを乞いたいそうなのだ」
女王のお願いというのは、どうやら娘のことらしかった。
刀華は御前試合のとき以上の真剣な眼差しで、俺に懸命に訴えてくる。
「貴殿の弟子になるためならば何でもする!」
「何でもって……」
「た、たとえそれが……か、か、身体への要求であっても……っ!」
いやいや、母親の前で何を言っているんですかね、この子は?
しかも恥ずかしかったのか、めちゃくちゃ顔を赤くしている。
こっちも恥ずかしいわ。
女王を見ると、口端を吊り上げてニヤニヤと笑っていた。
今の台詞、女王の入れ知恵かもしれない。
「どうだ、レイジよ? 母親のわらわが言うのもなんだが、娘は見ての通り器量がよい。加えて、身体の方もなかなか女らしく成長しておるぞ。今まで男性経験もなく、心も身体も清いまま」
今、弟子にしてほしいっていう話をしてるんですよね?
この女王、娘を俺に売り込もうとしてやがるな……。
まぁ彼女が言う通り、刀華は紛うことなき和風美人だし、着物ごしでもはっきり分かるほど胸が大きい。アンジュといい勝負ではなかろうか。
「だ、だ、ダメに決まってるでしょ!」
と、これまで謁見の様子を後ろで傍観していたまさにそのアンジュが、いきなり大声で割り込んできた。
「ほう、もしかしてレイジの恋人か?」
「こここ、恋人!? あああ、あたしは別にそんなんじゃないんだからっ!?」
アンジュが慌てて否定する。
「では、レイジには恋人はおらぬのか?」
「もちろん、いないわよ!」
おい、何でお前が勝手に答えるんだよ?
ていうか、何でこんな話になってんだ……。
「私は弟子を取るつもりはありません」
「ふむ、そうか。ではせめて恋人として傍に置いてやってはくれぬか?」
弟子が無理なら恋人とか訳分かんねぇ。
「ですがパーティメンバーとしてであれば歓迎しますよ」
「ほ、本当か!?」
刀華が瞳を輝かせた。
「まずはお友達からということかの。刀華よ、あそこのアマゾネスに負けるでないぞ」
アンジュが背後で「ぐるるる」と唸っているし、やめてくれませんかね、女王様。
◇ ◇ ◇
シルステルに帰ってきたはいいが、すぐにまた出発し、ギルド本部に行かなければならない。できるだけ早く話を付けておきたかった。
「俺はこれからすぐにフロアールに飛ぶ。アンジュ、ファン、ニーナ、後のことは任せた」
「了解なのです!」
ルノアもお留守番だ。
俺はスラぽんとスラさんだけを連れて、その日の内にフロアールへと出発した。
例のごとく、スラさん飛行機に乗っての空の旅路である。
フロアールは北ユーラ大陸の西部にある国で、大陸最大の領土と人口を誇る大国だ。
その帝都ロアナは、世界で最も栄えていると言われている大都市である。
「すげぇな、ここがフロアールの帝都か」
帝都の巨大な城門を潜り抜けた俺は、思わず感嘆の吐息を漏らした。
シルステルの王都も大きな都市だったが、ここは聞いていた通りそれ以上だった。
立ち並ぶ高層の建築物。高架橋や魔法技術を応用させた空に浮かぶ建物などによって、都市全体が立体的に見える。道々には幾つも露店が出ていて、活気に満ち溢れていた。
道を行き交う人の数も多いが、何より驚くのは亜人の多さだ。
シルステルでは数が少なかった亜人だが、ここでは人間族に負けないくらいあちこちで見かけることができた。
エルフ族やドワーフ族はもちろん、一際小柄なハーフリンクに、ケンタウロスまで。
そして獣人の種類も多彩だ。
「まさに人種の坩堝だな」
「フロアールには世界中から人材が集まってきますから」
「へぇ」
「とりわけ、ここ帝都ロアナは毎年のように人口が増え続けているそうです。確かにわたくしが以前訪れたときよりも、さらに発展しているように思います」
「なるほど」
「わたくしたちの国も、ぜひこの国に負けないくらい豊かな国にしたいですね」
「そうだな。……ところで、何でまたお前がここにいるんだよ、ディアナ?」
いつの間にか、シルステルの女王様が俺のすぐ横にいた。
俺はジト目で彼女を見つつ、
「テレポ……」
「ま、待ってください! 今回はちゃんと大臣の許可を取りましたから! 当面の仕事をしっかりと終えてから来ましたから!」
「本当だな?」
「本当です! わたくし、こう見えてやればできる女王なんです」
えへん、と胸を張るディアナ。
自慢げにしているが、それは女王として必要最低限な資質だと思う。
「そんなことより、どういうことですか!」
「え?」
何かいきなり怒られた。俺が何かしただろうか?
「ジェパールの王女様のことです!」
「刀華のこと?」
「パーティメンバーを増やすのはいいとしても、何でまた女性なんですか!?」
いや、そんなこと言われてもな……。
確かに俺のパーティメンバーは女性ばかりだ。クランのメンバーには男も多いが……。しかし別に選んでいる訳ではないし、たまたまそうなったとしか言いようがない。
「女王様にも頼まれたんだから、仕方ないだろ」
「やっぱり! これだから女王フェチは……」
だから俺はそんなマイナーなフェチじゃねぇ。
「しかもまた胸が大きい女性! ……くっ、やはり男は胸が大きい方が好みなんですねっ……わ、わたくしだって毎日ミルクを飲んで、バストアップ体操をして頑張ってるんですよ!?」
「知るか!」
ディアナが涙目で詰め寄ってくる。
「これまではパーティ内の貧乳と巨乳の比率は四対一でしたが、今や二対一と着実に忌まわしき巨乳勢が勢力を広げつつある……っ!」
まだ子供のルノアを貧乳に加えるのはどうかと思うぞ。
ていうか、パーティの人数が多くないか?
「そもそもディアナって、別に俺のパーティの一員ではないよな?」
「がーん」
ディアナがショックを受けて後ずさった。
「違うんですか!?」
「え? だって、一時的に一緒に冒険をしてただけじゃなかったっけ?」
「酷いです! わたくしのこと、遊びだったんですね!?」
「おい勘違いされそうな言い方はやめろ!」
周りがこっちに注目してるじゃねぇか。しかも俺に対して白い視線が……。
俺は溜息を吐きつつ、強引に話題を変えることにした。
「で、何でここに来たんだ?」
「もちろん、この都市に不慣れなレイジさんを案内するためですよ! わたくしは過去に何度か来たことがありますし!」
そんなことのために、わざわざ魔力消費量も多くて疲れるロングテレポートを使ったのか。
確かに迷子になりそうな街ではあるが、〈神眼〉などのスキルがある俺に案内人は必要ないんだけどな。
まぁいい。せっかくだし、彼女に目的地まで連れて行ってもらうか。
「さあ、レイジさん! どこに行きたいですか? 喫茶店ですか? それとも劇場ですか? はっ、もしかしていきなりホテルに……」
「俺はデートしに来たんじゃないからな!?」
行く場所はもちろん、この街にあるという冒険者ギルドの本部である。
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