第83話 VSリヴァイアサン
辺り一面の海が真っ黒に染まった。
海底から浮かび上がってきた超巨大生物のせいだ。
直後、海面が大きく盛り上がったかと思うと、凄まじい水飛沫を上げながら、まるで高層ビルのごとき巨体が海上へと姿を現した。
リヴァイアサン
レベル:99
スキル:〈水魔法+10〉〈無詠唱+10〉〈噛み付き+10〉〈水泳+10〉〈物攻耐性+10〉〈魔力探知+10〉〈人化+1〉
称号:大海の王者
何でこんなのが出てくるんですかね?
しかもレベル99って、これカンストしてるんじゃねーか?
こいつと戦えるのは、正直言ってレベル94の俺だけだろう。
アンジュたちですら足手まといになりかねない。
だからこそ彼女たちも避難させたのだ。
「何よあれ!?」
「でかい……」
「お、おおきいの……」
空飛ぶスラさんの上に乗り、どうにかダンジョンの入り口付近まで避難していたアンジュ達が、あんぐりと口を開けてその巨体を見上げている。
「あ、あれはリヴァイアサンじぇねぇか!? 深海に棲息しているはずの化け物が、何で海上に!?」
リヴァイアサンが巻き起こした大波に呑まれそうになりつつも、海竜の頭上に乗っかった女頭領が悲鳴を轟かせた。
どうにか彼女たちは無事に避難できそうだな。
さすがにリヴァイアサンの大きさでは、あのダンジョン内に入ることは不可能だろう。
……ダンジョンごと破壊されたりしなければ、だが。
まぁさすがにそれは……む、無理だよね?
「レ、レイジ殿! 貴殿も早く退避を……っ!」
一方、一人で元の場所に残っている俺に、刀華が叫んでくる。
「生憎、そうはさせてくれなさそうだ」
「オアアアアアアアアッ!!!」
リヴァイアサンは顔を俺の方へと向けてくると、牙を剥いて凄まじい咆哮を上げた。
どういう訳か、こいつは俺を獲物と見なしたらしい。
しっかし、でかいなー。
海上に出ている部分だけでも、ゆうに五十メートルはあるだろうか。
シーサーペントと同じく蛇のような形状だが、大きさは比較にもならない。シー子ちゃんが怯えるのも無理はないな。
全身を覆うのは一つ一つが大岩ほどもある巨大な鱗。エメラルドグリーンに輝いていて、売ればかなりの高値が付きそうだ。きっと伝説級の素材だろう。
そんなことを考えていると、リヴァイアサンが凄まじい速度で噛み付いてきた。
開いた口の大きさは四、五メートルある。俺などあっさりと呑み込める大きさだ。
ていうか、もう呑み込まれてました。
さすがは〈噛み付き+10〉。
その速度は俺の予想を超えていて、気づけば怪物の口の中にインしていた。
「テレポート」
即座に転移魔法を使って外へ。
「あ、あいつ、喰われちまいやがったぞ!?」
「レイジ殿ぉっ!?」
女頭領と刀華は、俺が怪物に食べられてしまったと思ったようだ。
リヴァイアサンの背中に転移した俺は、二本の刹竜剣で輝く鱗を斬り付ける。
ガギイイインッ、という凄まじい音がした。
「ちっ、めちゃくちゃ硬ぇな」
対ドラゴン武装であるはずの刹竜剣を持ってしても、鱗に亀裂を生むことができただけ。中の肉はほとんど斬ることができなかった。〈物攻耐性+10〉の効果もあるだろう。
リヴァイアサンは即座に身を転じ、再び噛み付き攻撃を繰り出してくる。
と思いきや、今度は口内から水を吐き出してきた。
まるで大滝だった。予想外の攻撃に、俺はまともに喰らって吹っ飛ばされた。
「うぷっ?」
水中に落下する。
ここは完全に奴のフィールドだ。
すぐに海上に出なければ、成す術もなく蹂躙されるだろう。
例のごとく転移魔法で移動した。
この魔法、本当に助かるわ。これがなかったらと思うと、さすがにぞっとするな。
俺はリヴァイアサンの頭上へと転移した。
〈魔力探知+10〉で察知しているのだと思うが、すぐに気付かれてしまう。
これで二度目の転移魔法だ。
最初の一回目は確実に呑み込んだはずなのに、気づけば背後へと回っていた。
二回目は海中に落ちたはずが、次の瞬間には上空へ。
きっと俺が転移魔法を使えることを、こいつは理解したに違いない。
と言うのも、その巨体からただの怪物だと思っていたが、俺をじっと見つめてくるその瞳には明らかに知性が見て取れるからだ。
何か策を練っているのかもしれない。
伊達に長生きしてはいないようだ。
「オアアアアアッ!!!」
「なっ?」
突然、リヴァイアサンの周囲の海水が一斉に吹き上がった。
天へと昇る逆さの大瀑布。
水の超級魔法――洪水神話(フラッドミス)かよ!
こいつはそれを空に向かって放ったのだ。
膨大な水が上空にいた俺目がけて迫りくる。
当然、俺は転移魔法で逃げた。
だが――
「こっちにも!?」
逃げた直後に、また足元から迫りくる逆大瀑布。
さらにリヴァイアサンは、信じがたいことにその空へと噴出した膨大な海水を泳いで躍り掛かってきた。
「そんなに俺を喰いたいなら、喰われてやろうじゃねーか!」
俺はあえてリヴァイアサンの口の中へと飛び込んでやった。
体内から攻撃するというのは、巨大な敵を倒すのに有効な戦法の一つだ。
俺は二本の剣を振り回し、リヴァイアサンの口の中を斬りまくってやった。
だが喉の奥から膨大な水が迫りくると、さすがにそうはいかない。
俺は慌てて転移魔法で外へと逃げた。
転移した先へ、すかさずリヴァイアサンの巨大な尾が迫る。
〈天翔〉で辛うじて避けつつ、尾を斬り付けて反撃。
リヴァイアサンは洪水神話(フラッドミス)を連射。
俺は転移魔法を駆使しつつ、硬い鱗に斬撃を見舞う。
そんな攻防が幾度も繰り返された。
周囲の海はもはや台風でも来たかのような荒れっぷりだ。
ていうか、これって決着がつかないんじゃね?
俺はふと、そんなことを思ってしまう。
リヴァイアサンの生命力値はさっきから一向に減っていない。
しかしそれは俺も同様だ。多少消耗しても、スキルのお陰ですぐに回復するのだ。
魔力の方も似たような状況だった。
超級魔法を連発しているというのに、リヴァイアサンの膨大な魔力はまだまだ余裕がある。しかもちょっとずつ回復しているし。
俺は俺で、転移魔法で消費した分は〈魔力吸収+3〉で補うことができる。
……うん、この様子だと少なくともあと一時間くらいは続きそうだ。
その不安は結局現実となり、俺はそれから延々と一時間ほど、リヴァイアサンと攻防を繰り広げ続けたのだった。
その異次元の戦いを、海賊団の頭領――アクアナは、呆然とした面立ちで観戦していた。
「……あ、あたしは、あんな化け物を相手にしようとしてたのか……?」
唇が、手が、いや、身体全体がブルブルと震えている。
アクアナは今まで、自分が怖れるものなど何一つないと思っていた。
海の魔物も。
嵐も。
ジェパール海軍も。
だがあれは無理だ。
大型の海賊船すら一飲みしてしまいそうなほどに巨大な伝説の怪物、リヴァイアサン。
そしてそんな化け物と一対一でやり合っているあの青年。
「や、やべぇよ……あれはやべぇ……」
今まで幾度となく無茶なことをしてきたアクアナではあるが、それでも彼らに戦いを挑むなどということだけは絶対に御免だと思った。
「クゥ……」
相棒の海竜までもが、アクアナの下で身体を縮こませて怯えている。背後の手下たちなど言わずもがなだ。
アクアナは相棒の頭をそっと撫でながら、小さな声で呟いたのだった。
「……どうやら海賊団〝海蛇〟は今日で解散のようだ……。しー子、今までありがとな……」
・アクアナ 信仰度: 0% → 15%
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