第82話 人竜一体

シーサーペント

 レベル:40

 スキル:〈水魔法+4〉〈噛み付き+4〉〈水泳+4〉


アクアナ 24歳

 種族:人間族

 レベル:46

 スキル:〈剣技+5〉〈風魔法+4〉〈動体視力+3〉〈操船+4〉〈水泳+4〉〈俊敏+3〉〈魔物調教+4〉〈統率+3〉

 称号:海賊団〝海蛇〟団長



 海賊団〝海蛇〟の拠点を制圧した俺たちの前に現れたのは、海賊団のお頭らしい女海賊と、彼女が乗っている海竜だった。

 大海賊団を率いているだけあって、その実力はAランク冒険者にも匹敵する。加えて、あの海竜を手懐けているのだとすれば、海上での戦闘力は侮れないだろう。


「おい、テメェら! これは一体どういうことだッ!?」


 天にまで届くかという大音声で、その女頭領が叫んでくる。


「すいやせん! お頭ッ! 拠点が制圧されましたッ!」


 いつの間に目を覚ましたのか、アンジュに殴られて気を失っていたはずの副団長が、大声で怒鳴り返す。


「ああんッ!? 何やってんだよ、このクソが! 留守番すらまともにできねぇのかよッ!!」

「ひぃっ、す、すいやせんでしたぁぁぁっ!」


 副団長が縄で縛られたまま土下座した。

 だが頭を上げると、俺たちを見ながら哄笑を上げた。


「ひゃははっ! お頭が戻ってきたからには、てめぇらはもう終わりだッ!」


 それまで項垂れていた他の海賊たちも、急に威勢を取り戻す。


「お頭の怖ろしさを思い知れっ!」

「お頭っ! こんな奴ら軽くやっちまってください!」


 しかし直後、彼らの顔が一斉に蒼ざめた。

 女頭領が速度を落とすことなく、猛スピードでこちらの海賊船目がけて突っ込んできたのだ。


「お、お頭ッ!?」

「テメェら全員、お仕置きだッ! 海水で頭を冷やして反省しやがれぇッ!」


 全長十メートルを超すシーサーペントが海賊船に激突する。

 その巨大な咢が船を噛み砕き、衝撃で甲板にいた海賊たちが次々と海へと落下していく。


「おいおい、無茶苦茶しやがるな」


 思わず呆れてしまった。

 海賊たちは全員、身体を縄で縛られている。当然ながら泳ぐことはできない。まぁ人間の身体は水に浮くものだし、今は波も無いのでじっとしていれば海面まで上がってこれるだろうが……。


 ゆっくりと沈みゆく船の上で、俺たちは女頭領と対峙する。


「テメェらか。よくもうちの連中を酷い目に遭わせてくれやがったな」


 一番酷い目に遭わせたのはどう考えてもあんただろ。


 女頭領はまだ若い女性だった。

 背はそれほど高くない。小麦色の肌に、健康的に引き締まった四肢。豹や虎などの狂暴なネコ科の動物を思わせる鋭い目つきをしていて、頬には大きな切り傷があった。


「うちのシー子の餌にしてやらァ」


 どうやらあの海竜、シー子という名前らしい。ネーミングセンスが……いや、俺も人のことは言えないか。

 シーサーペントが大口を開けて躍り掛かってくる。


 破壊された海賊船の残骸を足場に飛び、俺たちは海竜の牙を回避。

 しかしそこへすかさず、女頭領が風魔法を放ってきた。


「喰らいやがれぇッ! トルネードッ!」

「トルネード返しなの」


 風の渦が迫りくるが、それをルノアが同じ魔法で相殺する。


「ほう、やるじゃねぇ――っ!?」


 感心したように言いかけた女頭領だったが、背後から飛びかかっていたファンに気づいて腰のサーベルを抜いた。


「ん。よく受け止めた」

「ハッ、テメェこそ。このあたしにここまで近づいてきた奴は久しぶりだ!」


 ファンの斬撃を女頭領はサーベルで防ぐ。

 だがファンは二刀流だ。

 相手のサーベルを片方の剣で抑えつつ、もう一本の剣を振るう。


「シー子っ!」

「シャアアアッ!」


 シー子こと海竜が咄嗟に頭を下げたことで、ファンの剣は女頭領の頭の上を掠めるに終わった。

 なるほど、人馬一体ならぬ、人竜一体の見事な連携だな。


「ケッ、どうやらそこらの雑魚どもとは違ぇようだな」


 女頭領は海竜とともに、いったん俺たちから距離を取った。

 すでに海賊船はほとんど沈みかかっていて、足場がなくなりつつある。まぁ、いざとなったら空を飛ぶ手段があるから大丈夫だが。


「お頭ッ!」

「やっぱすげぇよ、お頭は!」


 海賊たちは海面にぷかぷかと浮いていた。女頭領が引き連れていた海賊船が近くまで来ていて、すでに彼らの救助が始まっている。

 ていうか、逞しいというのか何なのか、こんな状態でよく応援ができるよな、こいつら。


「だが海の上ならあたしらは負けねぇぜ。シー子」

「シャアアアアッ!」


 海竜が咆える。

 直後、先ほどまで凪いでいた海面が急に荒れ始めた。

 水魔法か。


 発生したのは巨大な津波。

 逃げ遅れた海賊たちが巻き込まれ、悲鳴とともに海に沈んでいく。ほんと仲間に容赦ねぇ……。


 しかも津波に乗って、海竜が猛スピードで躍り掛かってくる。

 狙われたのは、折れたマストの上に乗っていた刀華だ。


「くっ!」

「ヒャハハっ!」


 すんでのところで海竜の牙を回避するが、海竜の上にいた女頭領の斬撃が刀華を襲う。

 さすがの身のこなしと反射神経で剣を受け止めた刀華だったが、吹き飛ばされて海へと落下した。


「スラさん、アンジュ、刀華を回収してやれ」

「分かったわ!」

『……!』


 飛行手段を持たないアンジュには戦いにくいフィールドだ。

 刀華のことは彼女とアンジュに任せ、俺、ファン、ルノアは一斉に宙を舞った。


「なっ……飛んでやがる……ッ!?」


 女頭領が目を剥いて叫ぶ。

 海竜が水魔法によって海を荒らし、こちらの動きを封じるという魂胆だったのだろうが、生憎と空に逃げれば関係ない。


「サンダーストームなの」


 ルノアが中級の雷魔法を発動する。

 女頭領と海竜を含む海上一帯に、次々と雷が降った。


「ぎやあああっ!」

「かーちゃーんっ!」


 サンダーストームは範囲攻撃魔法だ。当然ながら、海中にいた海賊たちまでもが電流を浴びてしまう。


「あ。ごめんなさいなの」


 それに気付いてルノアが謝罪する。

 刀華は大丈夫だろうか? まぁサンダーストームくらいで死ぬことはないだろうけど。


「ルノア、海賊たちを回収してあっちの船に乗せてやれ」

「はいなの」


 海に海賊たちがいる状態だと戦い辛い。俺はルノアに救助を任せる。

 てか、何で俺らがそんなことしなくちゃならねーんだ……。


〈天翔〉で宙を舞いながら、ファンが幾度も女頭領に斬り掛かる。

 ファンはかなり空中戦に手馴れてきてはいるが、それでも人竜一体で応戦する女頭領をなかなか攻め崩すことはできない。


「おらっ!」


 だがこちらには俺もいる。

 ファンに気を取られている隙に、海竜の背中に思いきり蹴りを見舞った。


「ァァァァァァッ!」

「くっ……シー子ッ! テメェっ、ウィンドカッターッ!」


 女頭領が風の刃を俺へと撃ってくるが、せいぜい中級の魔法だ。大剣を振るって粉砕してやる。


「戦力差が分からないほど馬鹿じゃないだろ? 大人しく降伏しろよ」

「テメェ……」


 忌々しげに顔を歪める女頭領だが、追い詰められていることは理解しているだろう。

 俺とファンに加え、アンジュと刀華も巨大な鳥と化したスラさんの背中に乗って戦列に戻ってきている。

 引き連れてきた海賊船も、俺たちの戦いに割って入ることは不可能だと理解しているようで、仲間たちの救助に専念していた。


 と、そのときだった。


「ッ! キュェ! キュェ!」


 急に海竜が怯えたような鳴き声を上げ始めたのだ。


「おい、どうしたシー子?」


 女頭領が宥めようとするが、海竜はまるで落ち着かない。顔を右へ左へと揺らし、鳴き続けている。


「シー子っ? どうした!?」


 女頭領の様子からも、あれが明らかに異常な事態であることが分かる。

 そこでようやく俺の探知スキルがそれに気付いた。


「っ! おい、ここから早く逃げろ! ダンジョンの中へ戻れ!」


 俺は海賊たちに向かって大声を張り上げた。


「オイ、なんだってんだよ!?」

「お前もだ! 早く離れろ! ヤバい奴が海底から上がって来ているッ!」


 困惑している女頭領にも怒鳴る。

 さらにパーティメンバーたちにも、


「アンジュ、ファン、刀華! お前たちもだ!」

「えっ、あたしらも!?」

「何があった?」

「説明は後でする! ルノアも急げ!」


 海中に投げ出されていた海賊たちの救出もどうにか完了したようだ。後は一刻も早く、ダンジョンの中に逃げ込むことだ。


 俺の〈神眼〉はすでに、猛スピードで海底から迫りくるその化け物を捕えていた。



リヴァイアサン

 レベル:99

 スキル:〈水魔法+10〉〈無詠唱+10〉〈噛み付き+10〉〈水泳+10〉〈物攻耐性+10〉〈魔力探知+10〉〈人化+1〉

称号:大海の王者



 何でこんなのが出てくるんですかね?

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