第72話 信者獲得祭り
大学生だった田中哲男がこの世界へと召喚されたのは、今から半年前のこと。
その際に出会ったのは、これまで哲男が見たことのあるどんなものよりも美しい存在だった。
耀くほど艶やかな金色の長髪。
双眼は宝石(サファイア)のごとく蒼く、肌は新雪のように白い。完璧に整った美貌ながら温かみと柔らかさを含み、それが怖ろしいほどの魅力を醸し出している。
「初めまして。わたくし、女神ディーンと申しますわ」
途惑う哲男に対し、彼女は柔和に微笑みかけてきてくれた。
それは彼女いない歴二十一年の童貞である哲男を虜にさせるには、十分すぎる破壊力だった。
それから哲男が彼女から聞かされたのは、あまりにも荒唐無稽な話だった。
だが哲男は即座に信じた。目の前の女神の美貌に魅了されていた彼にとっては、彼女を疑うなどあり得ないことだった。
「あなたには勇者として、この世界におけるすべての人間たちを、人前族の母であるこのわたくしの下へと導くという使命を授けますわ」
「はい分かりました!」
「うふふ……偉い子……もしあなたがそれを見事に成し遂げたとき、何でも一つ、あなたの好きなご褒美を与えますわ」
「ほほほ、本当ですか!? 本当に何でもいいんですか!?」
「ええ。な、ん、で、も、ですわ」
「~~~~~っ!」
そして、哲男は異世界で勇者となった。
◇ ◇ ◇
この戦場には今、シルステル王国騎士団の騎士たちが二千人もいる。
その大半が冒険者である俺のことを疎んじていて、信者ではなかった。
だが、
ラオス:信仰度 0% → 5%
ジャベン:信仰度 0% → 15%
フレーンス:信仰度 0% → 20%
イダリアル:信仰度 0% → 15%
ギリス:信仰度 0% → 5%
インデーズ:信仰度 0% → 15%
ドイジュル:信仰度 0% → 25%
アルリカ:信仰度 0% → 5%
ケニル:信仰度 0% → 15%
オタンデ:信仰度 0% → 20%
スルランタ:信仰度 0% → 10%
チル:信仰度 0% → 25%
アルセンテン:信仰度 0% → 15%
ブリアル:信仰度 0% → 20%
スイザ:信仰度 0% → 35%
そんな彼らが、勇者と単身で凄まじい交戦を繰り広げている俺を見て、少しずつではあるが信仰度を上げつつあるのだ。
しかも一般市民と違い、いずれも戦闘訓練を積み、高いレベルを有する者たちである。必然、〈献物頂戴〉により入ってくる経験値と熟練値は膨大な量となる。
レイジ
レベルアップ:61 → 63
スキル獲得:〈武運〉
スキルアップ:〈献物頂戴+2〉→〈献物頂戴+3〉 〈体技+5〉→〈体技+6〉 〈風魔法+3〉→〈風魔法+4〉 〈勇敢+3〉→〈勇敢+4〉 〈俊敏+4〉→〈俊敏+5〉 〈柔軟+5〉→〈柔軟+6〉 〈回避+4〉→〈回避+5〉 〈酒豪+2〉→〈酒豪+3〉 〈性技+3〉→〈性技+4〉
まだまだ上がるぞ。
レイジ
レベルアップ:63 → 65
スキルアップ: 〈氷魔法+3〉→〈氷魔法+4〉 〈水魔法+5〉→〈水魔法+6〉 〈第六感+1〉→〈第六感+2〉 〈幸運+3〉→〈幸運+4〉
さらに上がる。
レイジ
レベルアップ:65 → 67
スキルアップ:〈盾技+4〉→〈盾技+5〉 〈火魔法+6〉→〈火魔法+7〉 〈高速詠唱+3〉→〈高速詠唱+4〉 〈動体視力+4〉→〈動体視力+5〉 〈逃げ足+2〉→〈逃げ足+3〉 〈隠密+4〉→〈隠密+5〉 〈嗅覚+4〉→〈嗅覚+5〉 〈胆力+2〉→〈胆力+3〉
もういっちょ。
レイジ
レベルアップ:67 → 68
スキル獲得:〈宴会芸〉
スキルアップ:〈怪力+7〉→〈怪力+8〉 〈持久力+4〉→〈持久力+5〉 〈聴覚+4〉→〈聴覚+5〉 〈交渉力+2〉→〈交渉力+3〉
まだ止まらん。
レイジ
レベルアップ:68 → 69
スキルアップ:〈風魔法+4〉→〈風魔法+5〉 〈氷魔法+4〉→〈氷魔法+5〉 〈光魔法+3〉→〈光魔法+4〉 〈精力増強+1〉→〈精力増強+2〉
まだまだ経験値は入り続けているが、これでかなり勇者との差が縮まったはずだ。
俺は地面を蹴った。ステータスが上昇したお陰で走力が上がっている。
「……っ!?」
先ほどより明らかに速くなった俺の動きに、勇者が瞠目した。
無論、敏捷値だけではない。筋力値も上がり、〈怪力〉もスキルアップしたことで、俺の斬撃の威力も大幅に増していた。
勇者は剣一本で俺の二刀流の猛攻を凌いでいるが、さっきよりも余裕がない。
「くっ……さ、さっきまでは手を抜いていたのか……っ?」
「いいや、さっきも今も本気だぜ?」
勇者と互角に近い戦いにまで盛り返し、おおおおっ、とシルステル王国軍から大歓声が巻き起こった。
「すげぇ! 勇者と互角!?」
「まだ本気出して無かったのかよ……っ?」
「俺たちも続け!」
俺の戦いに鼓舞され、戦意を取り戻した王国軍が動き出した。
慌てたのが、頼みの綱の勇者を俺一人に抑えられてしまった教国軍の連中だ。少数で王国軍の戦列を強引に突破しようとしていたというのに、このままでは王国軍によって包囲されてしまう。
「え、エルメス王を倒すんだ……っ!」
勇者の指示を受けて、教国軍は王国軍に包囲される前にと一目散にエルメス目がけて走り出した。
「ファン、アンジュ、エルメスを護れ!」
「了解」
「分かってるわよ」
勇者を相手取っている俺は動けないため、ファンとアンジュにエルメスの護衛を任せる。無論、騎士団もエルメスを死守せんと、決死の覚悟で迫りくる敵軍の前に立ち塞がった。
「くそぉっ……僕の邪魔をするな……ァッ!」
「そう言うわけには行くかよ」
怒鳴り声を轟かせ、青筋を立てた勇者が俺を打ち倒さんと躍起になっている。
だがその間にも、俺の信者は増え続けていた。中には信仰度をさらに上昇させている者もいる。
セビッチ:信仰度 15% → 25%
ヤコル:信仰度 10% → 20%
アブラハ:信仰度 25% → 35%
ローゼ:信仰度 10% → 20%
ヤースル:信仰度 15% → 25%
メウソル:信仰度 10% → 15%
ハンバルガ:信仰度 5% → 15%
ジャコビツ:信仰度 15% → 20%
マール:信仰度 35% → 45%
ケイ:信仰度 25% → 35%
ダニエル:信仰度 15% → 20%
ハビウソン:信仰度 25% → 30%
アリス:信仰度 5% → 15%
レレロロ:信仰度 30% → 40%
ラットル:信仰度 5% → 10%
俺のレベルアップも止まらない。
レイジ
レベルアップ:69 → 70
スキルアップ:〈剣技+9〉→〈剣技+10〉 〈魔法剣+4〉→〈魔法剣+5〉 〈一撃必殺+1〉→〈一撃必殺+2〉 〈勇敢+4〉→〈勇敢+5〉
ついにレベル70だ。
そして、ここにきて俺と勇者の力関係が逆転する。
「ぐは……っ!? ……なっ……なぜだ……っ!? なぜ、この僕が苦戦している……っ?」
俺が顔面を蹴り飛ばすと、勇者は鼻血を噴き出しながら吹っ飛んでいった。
ようやく攻撃も通るようになってきたな。あの伝説級装備の鎧には傷一つ付かないけど。
「こんなっ……こんなはずはない……っ!!」
すぐさま起き上って勇者が躍りかかってくるが、転移魔法で背後を取る――と見せかけて、勇者が囮の土人形(ゴーレム)を斬り裂いた瞬間、その腕に足を絡めて関節技。
ぼきっ、という右腕の関節が折れる音が響いた。
「~~~~~~~ッ!?」
激痛に悲鳴にならない悲鳴を上げ、勇者の顔が思いきり歪む。
その隙に厄介な伝説級の剣を奪うと、スラじの保管庫の中へとぶち込む。どうせ俺だと装備できないらしいし。
地面をのたうちながら回復魔法を使おうとする勇者だが、思いきりぶん殴って魔法をキャンセルさせてやった。
「ぼ、僕はこんなところで負けられないんだ……ッ! 女神様のためにっ……」
それでも立ち向かってくる勇者。
その熱意は立派だが、どんなに足掻こうと無駄だ。
レイジ
レベルアップ:70 → 71
スキルアップ:〈体技+6〉→〈体技+7〉 〈拳技+4〉→〈拳技+5〉 〈飛刃+3〉→〈飛刃+4〉 〈闘気+7〉→〈闘気+8〉
俺のレベルはまだ上がり続けているのだ。
剣を失った勇者は魔法と体術で攻撃してくるが、俺にはほとんど効かない。逆に、二本の刹竜剣で一方的に蹂躙してやる。
ボロ雑巾のようになった勇者だが、それでもその瞳から闘志が失われることはなかった。
「……ま、負けられない……。ぼ、僕は、世界中の人間たちを信者にした、暁には……め、女神様に……童貞を、卒業させてもらうんだ……」
必死なのはそんな理由かよ!?
「とりあえず頭を冷やせ」
俺の渾身の踵落しが勇者の意識を刈り取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます