第64話 VS第九階層階層主

 ダンジョン『九竜の潜窟』第九階層・古代都市フロア――竜王の間。


 身の丈四メートルに迫る巨大な竜人が、ゆっくりと玉座から立ち上がった。


竜王

 レベル:60

 スキル:〈剣技+6〉〈噛み付き+6〉〈炎の息+6〉〈氷の息+6〉〈毒の息+6〉〈怪力+6〉〈頑丈+6〉〈物攻耐性+6〉〈魔法耐性+6〉〈炎熱耐性+6〉〈寒冷耐性+6〉〈毒耐性+6〉〈闘気+6〉〈咆哮+6〉〈自然治癒力+6〉

 称号:九竜の潜窟階層主


「オオオオオオオオオオッ!」


 挨拶代わりの咆哮。

 しかし第八階層のボス・青龍と同様、ただの咆哮ではなく、それは衝撃波と化して竜王の間の入り口に立つ俺たちに迫ってきた。


 咄嗟に初級結界魔法のバーリアを発動――――が、あっさりと破壊されてしまった。

 直後、激しい衝撃が前方から襲ってきた。俺は二本の剣を交差し、ルノアを庇いながらそれを受け止める。一メートルほど足で床を擦って後退したが、どうにか耐え抜いた。


 何人かは衝撃波に吹き飛ばされていたが、全員が高い〈物攻耐性〉スキルや〈頑丈〉スキルを持っている。これくらい大したダメージではないだろう。


「……お次は炎の息か」


 竜王は続いて口から火炎を吐き出した。しかも首を大きく振って、部屋ごと焼き払わんばかりの超広範囲ブレス。回避は不可能。

〈炎熱耐性〉スキルを持っているため、まともに喰らっても死にはしないだろうが、熱いことは熱いのでできれば防ぎたい。


「トルネード」


 俺は中級の風魔法を発動し、津波のごとく迫りくる炎の息を押し返さんとする。だが少々威力不足か。


「わたくしも! トルネード」


 俺よりも高い〈風魔法〉の熟練値を持つディアナが援護してくれる。炎を押し戻し、竜王に自らが放ったブレスを浴びせてやった。

 しかし竜王にはほとんどダメージなし。


 何事もなかったかのように、即座に氷の息を吹いてきた。

 氷塊交じりのブレスだ。風魔法では冷気を防いでも、散弾のように飛んでくる氷塊を防ぐことはできない。


「ルノア」

「はいなの、パパ」

「「ハイグラビティ」」


 俺とルノアは揃って中級の重力魔法を発動。氷の塊がフォークボールのように次々と地面に落下していった。

 燃え盛っていた炎が一瞬にして消え、代わりに地面は氷に覆い尽くされる。


「オオオアアアアッ!!」


 氷の息までも防がれた竜王は、今度は毒の息を吐き出してきた。

 ……あいつの腹の中、どうなってるんだろうな?


 猛毒の息が霧のように広がっていく。空気中に混じってしまうと、さすがに防ぎようがないな。風で散らそうにも、ここはかなり広い空間とは言え室内だ。そのうち吸い込んでしまうだろう。

 まぁ全員が〈毒耐性+5〉を持っているし、ほとんど効かないのだが。


 毒の息を吸い込んでも俺たちが平然としているので、竜王はちょっと訝しげに首を捻った。

 だがすぐに何らかの無効手段を持っているのだと判断したのか、竜王はブレス攻撃をやめ、巨大な剣を手に前に出てきた。

 全身を纏うのは膨大な闘気。元から高い攻撃力と防御力が跳ね上がる。


「こっちからも行かせてもらうぞ。テレポート」


 俺は転移魔法で竜王の背後へと飛んだ。

 二本の刹竜剣を頭部に叩き込んでやる。


「……ッ!?」

「やっぱ硬いな」


 いきなり後ろから攻撃され、瞠目する竜王。一方、俺は竜王の頑丈さに舌を巻いた。竜人本来の耐久値の高さに加え、〈頑丈+6〉〈物攻耐性+6〉〈闘気+6〉という三つのスキルのせいで、これまで遭遇したどのモンスターよりも高い防御力を有しているのだ。


 竜王の反撃を躱しつつ、俺は雷魔法を発動した。


「ライトニングバースト」


 しかしこれもダメージは薄い。〈魔法耐性+6〉を持っているせいだ。恐らく黒魔法なんかも効かないだろう。


「なんという硬さですかっ!」

「……刃が通らない」

「痛っ……こっちの腕の方がおかしくなりそうなんだけど……っ」


 ディアナ、ファン、アンジュの全力の攻撃も、竜王の高い防御力によって威力を大幅に減殺されてしまっているようだ。

 しかも〈自然治癒力+6〉のせいで、せっかく与えた傷もすぐに治ってしまう。〈自己修復〉の下位版だが、+6ともなれば回復速度はけっこう速い。


 竜王は巨大な剣を振り回し、四方から攻め立てる俺たちに反撃してくる。〈怪力+6〉と〈闘気+6〉のせいで攻撃力も高く、当たればかなりのダメージを覚悟しなければならないだろう。しかも時折放ってくる〈咆哮〉が地味にイヤらしい。

 今もまた口を開き、衝撃波を見舞ってこようとしている。


「スラじ!」

『……!』


 だがこの瞬間を狙っていた。

 メタルスライムのスラじが俺の合図に従い、竜王の大きな口の中へと飛び込んだのだ。


 スラじは優先的に〈物攻耐性〉〈頑丈〉といった防御力を上げるスキルを与えているのだが、メタルスライム固有の〈硬化〉スキルを発動させ、全身を金属のように硬くすることで、元から高い防御力がさらに高くなる。この状態なら竜王の防御力を遥かに凌駕するだろう。


 さらに、生まれたときには有していなかったが、スラじには俺の〈賜物授与+2〉によって〈吸収〉スキルを持たせていた。そしてこの〈吸収〉によりスラぽんのときと同様、アイテムボックスを喰わせて〈保管庫〉スキルを獲得させている。

 他にも色んなものを食べさせてきた結果、本家のスラぽんには遠く及ばないが、すでに竜王の口を完全に塞ぐくらいの大きさにまで巨大化していた。


 竜王の口の中に入ったスラじは、〈保管庫〉から身体をすべて出し、〈硬化〉スキルを発動した。


「~~~っ!?」


 口をいきなり硬い物体によって塞がれ、しかも竜人の高い咬合力でも噛むことができないとあっては、さすがの竜王も慌てざるを得ないようだ。

 とりあえずこれでブレスは防いだ。


「スラいち」

『……!』


 さらに俺の指示に応じて、秘かに床石に擬態していたスラいちが跳ねた。ちょうどその上に立っていた竜王はバランスを崩し、倒れかける。

 その瞬間を逃さず、スラぽんが巨大化して背後から竜王に襲いかかった。頭部だけ残す形で、竜王の身体をすっぽりとその体内へと取り込む。


 竜王は〈怪力+6〉スキルを活かして脱出を試みるが、しかしスラぽんにも〈怪力+5〉スキルがある。さらに〈硬化+1〉を使い、スラじほどではないが全身を硬質化させれば、さすがの竜王も身動きを取ることができなくなった。


「さて、動きさえ奪ってしまえばあとはこっちのもんだな」


 そして完全に拘束された竜王に、残る全員で攻撃を加えていく。滅多打ちである。


「こ、こんな方法でいいのでしょうか……? 仲間と力を合せて強大なボスを打ち倒す――わたくしが憧れていた英雄譚とは随分と違う気が……」

「ディアナ。理想は理想。現実は現実だ」


 ダンジョンの最終ボスを相手にこんな戦法はどうかと思わなくもないが、やはり安全第一である。ゲームとは違うのだ。


 そんなわけで、俺たちに一方的にリンチされることになった可哀想な竜王は、その高い防御力のせいで屈辱を長引かせつつ、やがて絶命したのだった。



レイジ

 レベルアップ:56 → 57

 スキルアップ:〈炎の息+7〉→〈炎の息+8〉 〈毒の息+6〉→〈毒の息+7〉 〈自然治癒力+2〉→〈自然治癒力+6〉 〈毒耐性+5〉→〈毒耐性+7〉 〈咆哮+5〉→〈咆哮+7〉


ファン

 レベルアップ:46 → 47


スラぽん

 レベルアップ:44 → 45


スラじ

 レベルアップ:40 → 41


エルメス=シルステル

 レベルアップ:50 → 51



 竜王を倒すと、どうやらそれがトリガーになっていたらしく、玉座の背後の壁がゆっくりと割れ、その向こうに今までなかった通路が出現した。

 宮殿内に、街のどこからでも見えた尖塔へと上るためのルートがないと思っていたが、こんなところに隠されていたようだ。


 各階層でボスを素通りできるのは、シルステル王国の建国者ジークラウス=シルステルがダンジョンマスターと交した契約によるらしいが、この最後の階層だけはボスを倒さなければダンジョンを攻略できない仕組みになっていたのだろう。


 恐らく尖塔のどこかにダンジョンの心臓、ダンジョンコアがあるはずだ。

 そしてそこにはダンジョンマスターもいるだろう。

 どんな奴なんだろうな。

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