第62話 古代都市フロア

 次の階層へと続く階段に辿り着いた。

 すでにアルフレッドたちは最下層にまで下りてしまったようだ。後を追い駆けよう。


「ここは一体……?」

「床?」

「床なの」

「ていうか、床しかないんだけど……最下層は?」


 だが階段を下りた先にあったのは、空に浮かぶ正方形の床だった。周囲に壁はなく、転落したら真っ逆さまだ。


「っ……」

「動き出した?」


 全員が乗ると、床がゆっくりと下降し始めた。なるほど、どうやらこれ、エレベーターのようだな。

 虚空に浮かぶ床は音もなく下降していく。どんどん速度が増していき、あっという間に雲海を突き抜けた。どうやらこのまま地上(?)まで運んでくれるらしい。


 数分かけてようやく地上が近づいてくると、下降速度が少しずつ落ちていった。

 やがて音もなく床が停止する。


「……ここが最下層なのか?」


 エルメスが呟いた。


 今さらかもしれないが、そこにはやはりダンジョンの中とは思えない光景が広がっていた。


 ――巨大都市。


 高層の建物が所狭しと立ち並び、幾つもの高架が網の目を縫うようにして張り巡らされている。

 ただし建物は風化が激しくボロボロで、あちこち蔦で覆われているし、道路もひび割れが酷い。


 エレベーターの床が停止したのは、広場のど真ん中だった。

 打ち捨てられた屋台や座る者のいないベンチ。ある日突然、人々だけがこの世界から消え去ったかのような印象を受ける。


 ……まぁ、あくまでもダンジョン内のフィールドなので、そういう演出ということだが。

 古代都市フロア、とでも呼べばいいだろうか。

 ちなみに地球の大都市と違い、随所にファンタジーっぽさがある。空に浮かぶ建造物があったりするし。


 と、そこで俺はこの広場へと近付いてくる気配に気づいた。

 これは……アルフレッドたちだな。どういう訳か、引き返してきたらしい。


 俺たちは屋台の陰に身を潜めた。


「はぁ……はぁ……く、くそったれ! 冗談じゃねぇぞ!」

「た、隊長っ……まだ逸れた隊員たちがっ……」

「放っておけ! 奴らが追ってくる前に、とっとと脱出するぞ! これ以上ここにいるのは御免だ! くっ……まさか、最下層がここまで厄介とは思わなかったぜっ……」


 アルフレッドと彼が率いる騎士たちが、消耗し切った様子でエレベーターの床へと駆け込んでいく。全部で四人しかいない。だが残る三人が戻ってくるのを待たず、彼らは床へと飛び乗った。乗客を察知し、床が勝手に上昇していく。


「何があったのだろうか……?」

「……なるほど。確かにあいつらのレベルだと厳しそうだな」


 俺の〈神眼〉は遅れて広場に姿を現した者たちを捉えていた。



赤竜人(レッドドラゴニュート)ソルジャー

 レベル:40

 スキル:〈剣技+4〉〈噛み付き+4〉〈炎の息+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈炎熱耐性+4〉〈闘気+4〉


赤竜人(レッドドラゴニュート)リーダー

 レベル:43

 スキル:〈剣技+5〉〈噛み付き+4〉〈炎の息+4〉〈統率+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈炎熱耐性+4〉〈闘気+4〉



 見た目はほぼリザードマン。だがドラゴニュートと言うからには、その上位種だろう。どうやら火竜(レッドドラゴン)系の竜人らしい。隊長らしい赤竜人を筆頭に、赤い鱗を持つ竜人たちが六体から成る部隊を形成していた。


 恐らくこいつらに遭遇して戦闘となったが敵わず、アルフレッドたちは撤退したのだろう。

 リーダーが持つ〈統率〉スキルは、これまでもボーンキャプテンといったモンスターなどが持っていたが、ここまで熟練値が高いのは初めてだ。一体一体が強い上に連携してくるとなれば、物凄く厄介な敵だろう。


 ま、その統率しているモンスターを真っ先に仕留めてしまえば、その連携もあっさり崩せるんだけどな。


「テレポート」

「……っ!?」


 俺は転移魔法で兵隊長の背後に飛ぶと、刹竜剣レッドキールを頭部へと振り下ろした。

 完璧な不意打ちにもかかわらず咄嗟に反応して剣で防御しようとしたのはさすがだが、俺の剣が脳天をかち割る方が早かった。

 てか、硬っ。結構本気で斬り付け、頭部が真っ二つになるイメージだったのに、額の辺りまでめり込んだところで刃が止まっていた。この剣じゃなかったら、鱗で弾かれていたかもしれない。


 とは言えリーダーは無事に絶命し、二メートルを遥かに超える巨体がどさりと倒れ伏す。

 ソルジャーたちが困惑しつつも、リーダーの仇を討とうと剣を構えたとき、エルメス、ファン、そしてアンジュが背後から彼らに襲いかかった。


 敵味方入り乱れての激しい交戦が繰り広げられる。リーダーほどではないとは言え、やはり硬い鱗の防御力は高く、エルメスやファンの剣がなかなか通らない。王子であるエルメスはもちろん、ファンだってニーナ製の一級品を使っているんだけどな。


「マインドハックなの」

『……!』


 しかしそこへルノアが黒魔法で援護。さらには、巨大化したスラぽんが伸ばした触手が兵隊たちの身動きを封じていく。

 リーダーを失った兵隊たちはこちらの多彩な攻撃に対応できず、あっという間に数を減らしていった。

 二分ほどで完勝。



レイジ

 スキルアップ:〈炎の息+6〉→〈炎の息+7〉 〈頑丈+6〉→〈頑丈+7〉 〈物攻耐性+6〉→〈物攻耐性+7〉 〈魔法耐性+1〉→〈魔法耐性+5〉

 〈炎熱耐性+4〉→〈炎熱耐性+5〉


ファン

 レベルアップ:41 → 42


アンジュ

 レベルアップ:40 → 41







 一見すると無人と思えた古代都市だったが、確かに人間は人っ子一人見当たらなかったものの、時折竜人たちが徘徊していた。

 必ずリーダーを中心に部隊を組んでいる。鱗が赤い赤竜人の他に、鱗が青い青龍人と黄色い黄竜人がいた。信号機かよ。



青竜人(ブルードラゴニュート)ソルジャー

 レベル:40

 スキル:〈剣技+4〉〈噛み付き+4〉〈氷の息+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈寒冷耐性+4〉〈闘気+4〉


青竜人(ブルードラゴニュート)リーダー

 レベル:43

 スキル:〈剣技+5〉〈噛み付き+4〉〈氷の息+4〉〈統率+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈寒冷耐性+4〉〈闘気+4〉


黄竜人(イエロードラゴニュート)ソルジャー

 レベル:40

 スキル:〈剣技+4〉〈噛み付き+4〉〈毒の息+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈毒耐性+4〉〈闘気+4〉


黄竜人(イエロードラゴニュート)リーダー

 レベル:43

 スキル:〈剣技+5〉〈噛み付き+4〉〈毒の息+4〉〈統率+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈毒耐性+4〉〈闘気+4〉



 青竜人はどうやら氷竜系の竜人で、黄竜人は毒竜系の竜人のようだ。


 あと、空中部隊にも遭遇した。



飛竜人(スカイドラゴニュート)ソルジャー

 レベル:40

 スキル:〈剣技+4〉〈噛み付き+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈翼飛行+4〉〈闘気+4〉


飛竜人(スカイドラゴニュート)リーダー

 レベル:43

 スキル:〈剣技+5〉〈噛み付き+4〉〈統率+4〉〈怪力+4〉〈頑丈+4〉〈物攻耐性+4〉〈魔法耐性+4〉〈翼飛行+4〉〈闘気+4〉



 ちなみにこいつらの鱗の色はなぜか淡い紫だった。


 途中、アルフレッドが放置した騎士団員たちの亡骸を見つけた。

 やはり竜人たちに殺されてしまったらしい。

 保管庫に入れて死体を持ち帰るべきかとも思ったが、やめておいた。あらぬ疑いをかけられても困るし、そもそも自業自得だしな。

 なので〈死者簒奪〉でスキルだけ貰っておいた。


 この高層建築が立ち並ぶ大都市にあって、一際目立つ建物があった。

 巨大な宮殿だ。

 天を貫かんと伸びる尖塔は、恐らく街のどこに居ても見ることができるだろう。


 明らかに怪しいので、あそこがこのダンジョンのゴール地点かもしれない。

 俺たちは竜人たちを蹴散らしつつ、その巨大宮殿へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る