第61話 VS第八階層階層主
青龍
レベル:55
スキル:〈噛み付き+5〉〈鉤爪攻撃+5〉〈突進+5〉〈天翔+6〉〈闘気+5〉〈咆哮+5〉
称号:九竜の潜窟階層主
ルノアとスラさんのお陰で空中に停止した俺達の前に現れたのは、東洋のドラゴンだった。
全長二十メートルを超える蛇のような長い体躯を躍らせ、空を駆けながらこっちに迫ってきた。たぶん、この空一帯がこいつの縄張りなのだろう。
俺はスラいちの保管庫から二本の両手剣を取り出した。
刹竜剣レッドキールと刹竜剣ヴィーブルだ。騎士団の連中を油断させるため、これまで普通の片手剣で戦っていたのだが、今ここには彼らの目はない。
「ルノア、頼むぞ」
「うん、パパ」
ルノアが俺を抱えて一気に上空へと飛び上がった。
こいつの相手はエルメスとスラさんのペアでは少々荷が重いだろう。スラさんはまだレベルが低いし、即席過ぎて連携を取れないだろうからな。なので俺は上昇しながら雷魔法を撃ち、青龍を引きつける。
思惑通り、竜鱗で電撃を弾きながら青龍が追い駆けてきた。
牙を剥き出して迫りくる青龍。めちゃくちゃ速い。しかしルノアはすんでのところで青龍の咢を躱した。すぐ足元を擦過していく竜の身体へ、俺は二本の剣を叩きつける。
「オオオッ!?」
さすがは刹竜剣。硬質な竜鱗を斬り裂き、肉を抉って血飛沫を舞わせる。青龍は声を上げ、堪らず長い蛇身を捻った。
爆風を残して通り過ぎて行った青龍が、怒りの雄叫びを上げながらUターン。今度は先ほどよりもさらに速度を上げて突っ込んできた。
ルノアが落ち着いて再度突進を避ける。だがその直後、青龍がその巨大な前脚を振るい、爪撃で俺達を肉塊に変えんと迫った。
ルノアの翼飛行だけでは回避不可能と判断し、俺は〈天翔〉で空中を蹴った。
間一髪のところで爪を避ける。
しかし安堵するのも束の間、さらに青龍の後足、それも躱すと鞭のように振るわれる尾が襲いかかってきた。
「おらっ!」
俺は空中で身体を回転させ、迫る龍尾に左手で握る刹竜剣ヴィーブルをぶつけた。激しい衝撃にどうにか耐えると、今度は右手の刹竜剣レッドキールで龍尾を斬り裂く。
「オアアアアアッ!?」
ざっくりと尾を切断され、青龍が悲鳴じみた声を轟かせた。
痛みに身悶えし、空中で出鱈目に暴れ回る青龍。その蛇身に激突しないよう、ルノアの翼と俺の〈天翔〉を駆使して宙を駆けつつ、さらに青龍に攻撃を加えていく。
「オオオオオオッ!!!」
と、そのとき青龍が俺達に向かって口を大きく開いたかと思うと、これまでで最大の咆哮を轟かせた。
ただ咆えただけではない。その音は衝撃波と化して、こちらに襲いかかってきた。
これは避けられない。
「テレポート」
俺は転移魔法を使った。そして青龍の顎下へと一瞬で移動すると、下顎に刹竜剣レッドキールを思いきり突き刺してやった。
さらに力任せに剣を薙ぐ。喉から腹に向かって数メートルもの長さでぱっくりと割れ、激しく血が噴き出した。
「ライトニングバースト」
「アアアアアッ!?」
さらにトドメとばかりに、剣先から龍の体内へと雷撃を流し込む。
青龍が落ちていく。
だがまだ死んでいない。凄い生命力だな。
その落下方向には、呆然と俺たちの戦いを見ていたエルメスがいた。
「っ……あとは僕がっ……えっと、スラさん? 頼む!」
『……?』
「ひゃうん!? ちょ、何をするんだっ?」
エルメスの意図が分からず、スラさんが触手を彼(彼女)のお尻に巻き付けた。その感触に可愛らしい悲鳴を上げるエルメス。
その隙に俺は青龍に追い付いて今度こそトドメを刺してやった。
レイジ
レベルアップ:51 → 52
スキル獲得:〈咆哮+5〉
スキルアップ:〈鉤爪攻撃+5〉→〈鉤爪攻撃+6〉 〈突進+5〉→〈突進+6〉 〈天翔+3〉→〈天翔+7〉 〈闘気+5〉→〈闘気+6〉
ルノア
レベルアップ:50 → 51
◇ ◇ ◇
青龍を倒した俺たちは、雲海を突っ切って上昇し、空に浮かんでいる小島へと着陸した。
「レイジ、さっきのは何なんだ、一体っ?」
スラさんの触手から解放されるなり、なぜかエルメスが詰め寄ってくる。
「さっきのって?」
「全部だよっ。さっきのはボスモンスターだろうっ? それをあんなに簡単に倒してしまうなんて、君は力を隠していると思っていたけど、僕が予想していたより遥かに強いじゃないかっ」
エルメスは怒っている――というより、いつになく興奮しているようだ。
「この稀少スライムと言い、手品のように現れたことと言い、その竜殺しの武器と言い……そう言えばさっき、瞬間移動したよね? 君は一体、何なんだよ、まったく……」
最後は呆れたように溜息を吐いた。
「ただのBランク冒険者だよ」
「違う。絶対違う。君には何かある。これまでもそんな気はしていたけど、たった今、僕は確信した」
おいおい、断言したよ、こいつ。
〈慧眼+2〉スキルのお陰かもしれないな。
「パパはすごいの!」
ルノアがちょっと自慢げに俺を賞賛してくる。
エルメスはふむ、と思案気に首を傾けて、
「もしかしたら君こそが伝説の〝勇者〟かもしれないね?」
違います。
ちなみにこの世界にはお馴染みの勇者という存在がいるらしい。
いや、いたらしい。
神に選ばれ、世界の秩序を取り戻すために戦う。それが勇者の役割だ。英雄の上位存在と言ってもいいだろう。
だが最後に現れたのは三百年前のことだという。
A:訂正。勇者が現れたのは半年前のことで、現在この世界に存在している。
え? ちょ、なんか〈神智〉で調べてみるととんでもない事実が発覚したんだが……?
Q:どこにいるの?
A:聖ディーナルス教国。
しかも近い。シルステルとも僅かにだが国境を接している国だ。
確か、女神ディーンを最高神と崇めている国だっけな。亜人や魔族を嫌い、悪魔であるルノアを殺そうとしたあの聖騎士たちの国だ。
「……? どうしたんだい? 急に黙り込んで」
「あ、いや、何でもない」
エルメスに顔をのぞき込まれ、俺は首を振った。
「やはり君は……」
「いや勇者じゃないからな?」
きっぱりと否定しておく。だって邪神だもん。むしろ魔王の方が近いくらいだ。
「……そうか」
エルメスは疑いの目をしつつも頷いた。
「……実はこれはまだ不確定な情報なんだけど、どうやら聖ディーナルス教国に勇者が現れたという噂があるんだ」
一応この国もその情報は掴んでいるのか。隣国のことだし、当然か。
「もしかして、最近、周辺国に侵攻していることと関係あるのか?」
「……ああ。元々、教国はそれほど大きな国ではなくて、軍事力にも優れた国ではなかったんだ。だから最近、次々と隣国に攻め込んでは征服に成功しているのは勇者のお陰だと言われているんだ」
おいおい、随分と物騒な勇者じゃないか。
「そんな状況だからこそ、国内で争っている場合じゃないんだけれどね」
エルメスは苦笑する。その通りだな。
エルメスを始末したつもりのアルフレッドたちは、どうやら先へと進んだようだ。
〈千里眼〉で確かめてみると、下層へと続く階段へと最短距離で向かっていた。
このまま最下層まで行き、一気にダンジョンを攻略してしまうつもりなのかもしれない。
「ようやく外に出られた」
「と言っても、まだダンジョンの中よ」
『……!』
『?』
スラいちの保管庫に隠れていたファン、アンジュ、スラぽん、スラじが出てくる。万全の態勢で連中の後を追い駆けよう。
「い、今、スライムの中から出てきたように見えたんだけど……?」
「企業秘密だ」
エルメス=シルステル
信仰度アップ:20% → 40%
レイジ
レベルアップ:52 → 53
スキルアップ:〈魔法剣+2〉→〈魔法剣+3〉 〈風脚+1〉→〈風脚+2〉 〈集中力+1〉→〈集中力+2〉 〈勇敢+2〉→〈勇敢+3〉 〈慧眼〉→〈慧眼+1〉
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