第56話 時空魔法
第二回の入団試験には、募集期間が短かったにもかかわらず、第一回に迫る四十四名、十組ものパーティが集まった。
そして合格したのは三組十一名である。
加入パーティ数が増え、だいぶクランらしくなってきたぞ。
その日、俺はルノアと一緒に王都の外に広がる平原で魔法の特訓をしていた。ルノアと仲のいいスラいちも一緒だ。
「……テレポートなの!」
ルノアの姿が消えたかと思うと、数百メートル先に出現する。
「すこしずれちゃったの……」
「いや、だけどかなり安定してきぞ。ルノア、さすがだ」
「えへへ」
俺たちが練習しているのはもちろん、時間と空間を操る魔法――時空魔法である。
テレポートは空間転移の魔法であり、前々からルノアに特訓させていたのだが、難易度が桁外れに高く、さすがの彼女も習得まで時間がかかってしまった。
「次は遠くへの転移を試してみようか」
「うん」
目視できる範囲への転移はそれなりに上手くやれるようになってきた。
ならば次は、遠方への転移である。
これは転移先のことを頭にイメージしなければならないため、一度訪れたことのある場所にしか飛ぶことができない。しかし使えるようになれば、かなり便利だ。ダンジョンの再攻略の際にわざわざ各階層を踏破していく必要がなくなり、攻略中の場所から再スタートすることが可能になるだろう。
ちなみに転移先のイメージが必要な以上、特徴のある場所や思い入れのある場所なんかがベストだ。
「ファースの街に行ってみよう。あそこのギルド前の広場がいいな。思い出せるか?」
「やってみるの」
目を閉じ、転移先をイメージしながら真剣な表情で魔力を練るルノア。
転移先との距離があればあるほど、消費魔力量が多くなり、また発動までに時間がかかる。集中力も必要だ。
なお、近距離のテレポートは初級、遠距離はロングテレポートという魔法で中級に相当する。
「とぶの」
「よし」
「ロングテレポート」
次の瞬間、周囲の景色が歪んだかと思うと、気づけば俺たちはファースの冒険者ギルド前――ではなく、俺達が世話になっていた宿屋の前に立っていた。
……ま、まぁ、概ね成功かな?
「初めてにしては上手くいったと思うよ。偉いぞ、ルノア」
「えへへ」
しかしかなり魔力を消費したようで、結構疲れているようだった。
「帰りは俺がテレポート使うよ」
「できるの?」
「もちろん」
「さすがパパなの」
ルノア
スキルアップ:〈時空魔法+2〉→〈時空魔法+3〉
レイジ
スキルアップ:〈時空魔法+2〉→〈時空魔法+3〉
ルノアのお陰で俺もスキルアップしたしな。
ちょっと練習すれば使えるようになるだろう。
それにしても、まだ一か月くらいしか経っていないが、何だか随分と久しぶりな気がするな。
俺達は歩いてギルドへと向かった。
せっかく来たので、ギルド長に挨拶しておくことにしよう。
「れ、レイジさん!? お久しぶりです! 戻って来られてたんですね!」
中に入ると、すぐに俺に気づいて、受付嬢のセルカが驚いた顔で声をかけてくる。
「ええ、今さっき」
ほんの数分くらい前に。
「あっ、昇格おめでとうございます! 私の知る限り、最速でのBランク昇格ですよ!」
セルカは俺の昇格を祝い、それから周りに聞こえないよう小さな声で「……あっという間に追い付かれてしまいましたね」と付け加えた。
彼女は受付嬢でありながら、Bランクの冒険者なのである。
セルカ 46歳
種族:ハーフエルフ
レベル:34
武技スキル:〈剣技+2〉〈弓技+4〉
魔法スキル:〈風魔法+3〉
移動スキル:〈隠密+2〉
身体能力スキル:〈望遠+3〉
技術スキル:〈洞察力〉〈会話+1〉〈笑顔+1〉〈事務作業〉
称号:ギルドの受付嬢 第一級冒険者(Bランク)
状態:信仰度80%
レベル34か……。以前はめちゃくちゃ高いと思ったが、いつの間にか抜き去ってしまったもんな。先日、ファンに圧倒されたベルギル兄弟と同じくらいだ。
ちなみに俺のレベルはすでに50に到達している。
「少し話は聞いてます。Bランクに昇格された後、クランを立ち上げられたとか」
「まだまだこれからですけどね。ところで、ギルド長いますか?」
「はい。お会いになられますか?」
「可能なら」
「レイジさんならアポなしでも問題ないですよ」
微笑むセルカに案内されて、ギルド長の執務室へ。
中に居たのはアンジュそっくりの女性だった。
アンジュリーネ 43歳
種族:アマゾネス
レベル39
武技スキル:〈拳技+3〉〈蹴技+4〉〈体術+4〉
身体能力スキル:〈怪力+3〉〈柔軟+1〉〈動体視力+3〉〈俊敏+2〉
特殊スキル:〈闘気+2〉
称号:ギルド長 第一級冒険者(Bランク)
信仰度:5%
アンジュの母親で、名前も一緒。どうせならアンジュも連れてきたら良かったかな? そんなに仲がいい感じではないが。
……ん? てか、すでにアンジュの方がレベルが高くなってないか? 確か、彼女のステータスは――
アンジュリーネ 18歳
種族:アマゾネス
レベル40
武技スキル:〈拳技+4〉〈蹴技+3〉〈体技+3〉
攻撃スキル:〈闘波〉
防御スキル:〈炎熱耐性+4〉〈寒冷耐性+3〉
身体能力スキル:〈怪力+4〉〈柔軟+1〉〈動体視力+2〉〈俊敏+2〉
特殊スキル:〈闘気+3〉
技術スキル:〈水泳+6〉
称号:第一級冒険者(Bランク)
信仰度:90%
やっぱり母親より強くなってるな。ここ最近、ダンジョンに潜って強力なモンスターと戦ってきた成果だろう。
「レイジじゃねぇか。何の用だ?」
「用と言われれば特にないんですが……テレポートの練習で立ち寄ったので、一応挨拶しておこうと思ったんですよ」
「……テレポートだと? てめぇ、テレポート使えるのか?」
「えっ? テレポートって、まさか時空魔法のテレポートですか?」
いかにも面倒そうだったギルド長だが、俺の言葉に強く反応した。セルカも目を丸くして驚いている。
この反応だけで、いかに時空魔法の使い手が珍しいものかが分かるというものだな。
「テレポート」
実演してみた。ルノアではなく、俺が使った。
手を繋いだルノアと一緒に、ギルド長の背後に出現する。
「なっ……」
一瞬で背中を取られ、ギルド長が目を剥いてこちらを振り向く。
ふむ。やっぱり戦闘でも役立ちそうだ。欠点は魔力の消費量が激しいことかな。
「てめぇ、いきなり背後を取るんじゃねぇよ!」
「あ、すんません」
怒られた。
「……まぁいい。ところでよ、あのバカが今どうしているか知ってるか? 昇格試験に合格したっつー情報は入って来てるんだが……」
あのバカというのは娘のことだろう。一応、心配はしているのか。母娘揃って素直な性格じゃないな。
「今は俺のパーティにいます。一緒にダンジョン攻略をしてるんですけど、すでにギルド長より強くなってますよ」
「はっ、あいつがオレを超えるには十年早ぇよ」
いや、ほんとだって。
それから俺は、ファースのギルドでもクラン加入希望者を募りたいという話をした。ギルド長は興味ないのか「好きにしろ」としか言わなかったが、セルカの方がかなり乗り気で、
「掲示板に大きくポスターを貼っておきます! もちろん地下の訓練場を使っていただいて結構です! あ、余っている部屋を支部にしていただいても構いませんよ!」
全面的に協力してくれることになった。
そんなわけで、第三回の入団試験はファースで開催される運びとなったのである。
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