第54話 第一回クラン入団試験
地下遺跡の奥にあったのは、中に巨人族でも眠っているのかというほど大きな棺桶だった。
縦二十メートル、横十メートルはあるだろう。
「来るぞ、階層主だ」
「ん」
棺桶の蓋が持ち上がる。
中から姿を現したのはそれは、これまで倒してきた階層主と比べてもかなり巨大な部類に入りそうだった。もちろん前例に漏れずドラゴンである。
だが肉が腐り、所々で骨や内臓までもが露出していた。凄まじい悪臭が漂ってくる。
ドラゴンゾンビ
レベル:52
スキル:〈腐蝕攻撃+4〉〈腐蝕の息+4〉〈噛み付き+4〉〈痛覚軽減+10〉〈腐肉種生成+3〉
称号:九竜の潜窟階層主
アンデッドモンスターと化したドラゴンだ。
あの身体、剣で斬るとこっちの刃がダメになりそうだな。
それなら飛刃で攻撃だ。
ドラゴンゾンビが吐き出す毒々しい色の唾液を躱しつつ、俺とファンは闘気の刃を飛ばしていく。元から崩れかかっている肉を斬り飛ばし、骨を切断する。
「っ! これが腐肉種生成ってやつか」
だが地面に落下した肉や骨が、不気味に蠢き形を変え始めた。
手足を生やし、あるいは目や口が現れ、深海生物めいた悍ましい化け物が次々と誕生していく。そして一斉に襲い掛かってきた。百鬼夜行めいたおぞましい光景だ。
さらに、ドラゴンゾンビの腐蝕の息が俺たちを襲う。触れるだけで皮膚がボロボロと崩れていく。吸い込もうものなら、内側から侵されてしまうことになる。しかも部屋中に広がっているため回避しようがない。
「ファン、雑魚は任せた!」
「了解」
どうやら本体から肉や骨を切り離してしまうと、クリーチャーどもを次々と生み出してしまうことになるようだ。
そいつらはファンに任せて、俺は本体へ魔法で攻撃する。アンデッドモンスターのセオリー通り、こいつも火が弱点だろう。
「インフェルノ」
上級の火魔法を発動すると、地獄の底から噴き上がってきたような猛火がドラゴンゾンビの全身を包み込んだ。
痛みは感じていないだろうが、肉が焼けていく光景に危機感を覚えているのか、ドラゴンゾンビは全身を使って暴れ回った。その度に肉や骨が飛び散り、腐肉種が生み出されていく。
しかしついに本体が崩れ落ちる。
腐った肉が完全に焼け焦げるまで、そう時間はかからなかった。
レイジ
レベルアップ:49 → 50
スキル獲得:〈腐蝕攻撃+4〉〈腐蝕の息+4〉〈腐肉種生成+3〉
ファン
レベルアップ:40 → 41
スキルアップ:〈飛刃+2〉→〈飛刃+3〉
◇ ◇ ◇
次の階層へと下りる階段は、ドラゴンゾンビがいた場所からそう遠くないところにあった。
ついに最後の階層の一つ手前、第八階層である。
ここがどんなフロアなのか、ほとんど記録に残っていない。
期待に胸を膨らませながら階段を下り切った俺たちを出迎えてくれたのは、
「空?」
そこには大空が広がっていた。
「何なのよ、ここ?」
墓場フロアを突破したことで、スラいちの保管庫から出てきたアンジュも俺の横で目を丸くしている。
本当に空なのだ。
ダンジョンの中だというのに、俺たちは空の上にいるのである。
空中には幾つもの島が浮かんでいた。ちょっとしたグラウンドくらいの大きさのものもあれば、人ひとり乗ると定員オーバーになりそうな小さなものもある。
俺たちが今いるのは学校の屋上くらいの広さで、比較的大きめの島と言えるだろう。
島の端に行って下を覗き込んでみるが、地上は見えない。分厚い雲がかかっているためだ。
あの雲の下に本当に地上があるのかどうかも分からないが、落ちたら――普通に死ぬだろうな。もしかしたら雲の上に着地できるかもしれないが。
「島を渡って進んでいく?」
「恐らくそういう趣旨だろうな」
「ルノアみたいに、つばさがないとたいへんそうなの」
背中の翼をパタパタ動かし、飛んでみせるルノア。
一応、島を渡っていけばゴールに辿り着くことができるようになっているのだろう。だが彼女のように飛行能力を持たない者には厳しいステージだ。
空には鳥らしき生き物の姿も確認できるが、あれはどう見てもただの鳥ではない。モンスターだ。
キリングホーク
レベル:36
スキル:〈嘴攻撃+4〉〈翼飛行+5〉〈鉤爪攻撃+4〉
サンダーバード
レベル:38
スキル:〈雷魔法+5〉〈翼飛行+5〉
ワイバーン
レベル:40
スキル:〈炎の息+5〉〈翼飛行+5〉〈威嚇+4〉〈噛み付き+4〉〈鉤爪攻撃+3〉
通常モンスターのレベルもかなり上がってきている。
足場の不確かな島を飛び移りつつ、こうした敵と戦うのは至難の技だろう。
とりあえずここの本格的な攻略はまた後日だ。
俺たちは元来た道を引き返し、街へと帰還することにした。
第七階層を通過するとき、再びアンジュが保管庫に籠ってしまったのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
クランの拠点に戻った俺たちを待っていたのは、大勢のクラン入団希望者だった。
どうやら装備品による宣伝作戦が功を奏したらしい。
彗星のごとく現れ、鍛冶コンテストで優勝を掻っ攫っていった弱冠十五歳の天才鍛冶師。クラン・レイジに入団すれば、彼女が製作した装備品が無料で支給されるというのだから、希望者が殺到するのも当然のことだろう。
という訳で、俺は早速クランの入団試験を行うことにした。
場所はクラン本部の地下にある訓練場だ。
第一回の入団試験には、全部で五十三人、十三組ものパーティが集まってくれた。
その半数がDランク。残りの半数を、CランクとEランクがちょうど半々に分け合っている感じの構成比だった。
最高はBランクで、二人いる。その二人はどうやら同じパーティのようだ。
試験方法は、ギルドの昇格試験と同じように模擬戦だ。
ぶっちゃけ能力については〈神眼〉でステータスを見ればいいだけなのだが、一応、試験という形式を取った方が公平さが出るからな。
なお、会場には試験を受けるパーティしか入室できないようにした。
最初の受験者は男の四人組。
歳は全員二十歳前後で、ランクはみんな仲良くDだった。
訊けば、どうやらクルスたちの知り合いらしい。ステータスはまだまだ駆け出しに毛が生えた程度だが、見た感じ、人格的に問題がありそうには見えない。中にはすでに俺の信者になっている奴もいた。
俺が重視するのはステータス以上に人格的な面だ。もちろん冒険者なので多少荒っぽいくらいなら目を瞑るが、中には普通に犯罪に手を染めているような輩がいるからな。
クランの評判を下げるようなことは極力避けたい。幸い、〈神眼〉や〈洞察力〉というスキルのお陰で俺には人を見る目があった。
あと、俺の信者だと加点する。当然だ。
「彼女と戦ってもらう。もちろん全員でだ」
「えっと、四対一なんですけど……大丈夫ですかね?」
俺が試験方法を伝えると、パーティのリーダーらしい少年が恐る恐る訊いてくる。
「ああ。全力でやってもらって構わないぞ」
相手をするのはファンである。
自分たちより明らかに年下の少女一人に四人で挑むというのだから、困惑するのも当然と言えば当然か。
しかもまだCランクなので、冒険者たちの間で名前も顔も知られていない。
ただ、これまでのダンジョン攻略で彼女は格段に強くなっている。まだ試験を受けてないからCランクに留まっているだけで、実力はBランクの上位、下手をすればAランクの力があるだろう。
「では試験開始」
俺の合図で試験がスタートした。
先ほどはファンのことを侮っていた様子だったが、すぐに頭を切り替えたようだった。四対一で全力で戦っていいと言われたのだから、その通り本気でやるべきだと判断したようだ。
四人は真剣に試験に挑み――
――あっさりと全滅した。
「……う、うそだろ……?」
「強っ……」
床に転がって愕然と呻く受験者たち。
俺はすぐに回復魔法をかけてやった。
「どうだった、ファン?」
「ん。弱い」
「「「……」」」
はっきりと断じられて、彼らは悔しげに唇を噛んで俯く。
弱いのは確かだけど、もうちょっとオブラートに包んであげようよ?
「……よし、合格だ」
「「「へ?」」」
恐らく不合格を告げられると思っていたらしい彼らは、俺の言葉に目を丸くした。
簡単に合格理由を説明してやる。
「いや、別に昇格試験みたいに強さだけで決める訳じゃないからな。相手が年下だと侮らず、全力で戦おうとした姿勢を俺は評価したんだ。実力はこれから付けていけばいい」
「は、はい!」
あと、メンバーに俺の信者がいたのも大きいよ!
「とりあえず、君は剣より槍の方が――」
それからクルスたちのときと同様、彼らの適性にしたがって色々と指導してあげた。
クラン・レイジ新加入パーティ
アルベット:信仰度 0% → 5%
メルック:信仰度 25% → 45%
ライオット:信仰度 0% → 10%
ガットス:信仰度 5% → 15%
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