第51話 海中階段

「ぼ、僕たちも貰っちゃっていいのかい?」

「こんな良い装備を……」


 手渡されたニーナ作の装備に戸惑っているのはクルスたちだけではない。


 以前、ダンジョン第二階層と第三階層を繋ぐ階段で倒れていたところを助けた二人組の冒険者、ルークとヤルナも困惑の表情を浮かべていた。


 実はつい先日、この二人も俺のクランに所属することが決まったのだ。


「もちろんだ。その代り、と言っては何だが、しっかり活躍してクランのことを宣伝してくれると助かる」

「うちも頑張るで!」


 と、独特な訛り口調で宣言するのは、第四階層で遭難していたBランク冒険者のラミアスだ。

 彼女の方からクランに加入したいと言ってきたので、しぶしぶオーケーしてあげたのだが、ちょっと色々心配だ。


「なぁ、うちもじぶんらのパーティに入れてくれへん? 今うち、一人やねん」


 と、ルークとヤルナの二人に声をかけている。つい最近パーティを解散してソロになったラミアスは現在、一緒に冒険できる冒険者を探していた。


「あ、ちょっと待って。もしかして、じぶんらできとるパターン? うわー、せやったら、やめとくわやめとくわ! 何が哀しくて冒険のときまでリア充のイチャイチャ見なならんねん!」

「い、いえ、僕らはまだそんなんじゃ……」

「は、はい……あ、あくまで、主従の関係ですので」

「かーっ、その初々しい反応だけでもう殺意覚えるわ! なぁ爆発してくれへんか? できるだけ盛大に」


 頬を染めて互いに顔を見合わせる二人に、ラミアスの目が据わる。こんなでも彼女はBランク冒険者だ。睨まれたルークたちは頬を引き攣らせて後ずさった。


 俺はラミアスの後頭部にチョップを叩き込む。


「いだっ!? ちょ、何すんねん?」

「そう言えば最近、若い冒険者パーティ捕まえて強引に加入を迫ってくるBランク冒険者の女がいるって、ギルドの職員が言ってたけど、まさかお前じゃないよな?」

「っ……そ、そんなこと、あるわけ……ないやんか? あは、あははは……」


 汗を垂らし、俺から目を逸らすラミアス。どう見てもクロだな。俺のクランでやっていくには、ちょっと教育が必要なようだ。まぁ悪い奴じゃないんだけどな。



 クルス:信仰度60%

 ハンバル:信仰度40%

 レナ:信仰度50%

 ミシャ:信仰度45%


 ルーク:信仰度30%

 ヤルナ:信仰度25%


 ラミアス:信仰度35%



   ◇ ◇ ◇



 ギャングの問題があらかた片付き、新しい武器を入手したので、再びダンジョンに挑むことにした。

 ちなみに、現在の装備はこんな感じだ。


レイジ

 装備:刹竜剣レッドキール

 装備:刹竜剣ヴィーブル

 装備:ニーナアーマー(軽)


ファン

 装備:精霊剣シルフィード

 装備:ニーナソード

 装備:ニーナアーマー(軽)


ルノア

 装備:ユニコーンナイフ

 装備:ニーナアーマー(子供用)


アンジュ

 装備:ニーナガントレット

 装備:ニーナブーツ


 刹竜剣はどちらも両手剣だが、せっかくなので二刀流で使うことにした。俺は〈二刀流+4〉スキルを持っているし、何より〈怪力+6〉スキルがあるので片手で軽く振り回せる。





 前回までにすでに踏破しているダンジョン第一階層、第二階層、そして第三階層、第四階層を丸一日で一気に通過し、第五階層の海洋フロアへと辿り着いた。

 冒険者たちの集落で一晩休み、翌朝、俺たちは船を借りた。そして一通り操縦方法を学び、いざ出発である。


 水棲のモンスターを蹴散らしつつ、およそ半日の旅。フロアのほぼ端から端まで移動しないといけず、随分と時間がかかってしまうのだ。ちなみにこのダンジョン、下層に行くほど広くなっていくらしい。


「ここか」


 俺は船を停止させた。


「着いた?」

「前回もこうしておけばよかったわね」


 船酔いに弱いファンとアンジュがスラいちの保管庫から出てくる。これだと経験値が入らないんだが、仕方ない。どのみち酔いが酷過ぎて役に立たないしな。


 そこは海の上だった。


「この下に階段があるらしい」


 次の階層へと続く階段はなんと海中にあるのだ。

 モンスターもいるし、十分気を付けていかないとな。〈賜物授与+2〉を使ったので、全員が〈水泳〉スキル持っている。泳ぐのは問題ないだろう。俺が操船を学んでいる間に浜辺で練習してもらっておいたしな。


 それから船を少し離れた場所にある無人島に停泊させると、俺たちは水着に着替えた。


「こ、こっち見ないでよっ!」


 アンジュが恥ずかしそうに腕で胸を押さえるが、豊満な胸がむにっと腕の端からはみ出し、余計にエロい。ちなみにパレオ付きの赤いビキニ。よく似合っている。


「準備できた」


 と言って現れたファンは全裸だった。


「できてないでしょ!?」

「? できた」

「何で裸なのよっ!?」

「これが一番泳ぎやすい」


 犬人族の持つ犬因子(?)のためか、ファンは裸で泳ぐのがもっとも泳ぎやすいらしい。だがアンジュが猛反発し、結局水着を着せられていた。


「パパ、ルノアも準備できたの」


 ルノアはスクール水着である。やっぱ幼女=スクール水着だよな。もちろんゼッケン付きだ。「るのあ」とひらがなで書いておいた。日本語なのでこっちの世界の住民には読めないが。


 無人島の浜辺から、目的地に向かって泳ぎ出す。〈水泳〉スキルと高いステータスのお陰で、物凄いスピードが出る。これ、オリンピックで金メダル取れるぞ。


 途中、鮫型の魔物であるデビルシャークに出くわしたが、剣で両断してやった。動きづらいが、水中でもある程度は戦えるようだ。


 階段のある場所まで到着すると、そこからは素潜りだ。

 海の底が近づいてくると、そこには綺麗な珊瑚礁が広がっていた。水深はせいぜい三十メートルくらいだろうか。


 階段らしきものを発見した。

 周囲を珊瑚に囲まれながらも、ぽっかりとそこだけ空間ができている。砂に埋もれることなく、くっきりと正方形に切り取られていた。


 息はまだまだ大丈夫だ。振り返ってメンバーたちに確認するが、オーケーのサインが返ってくる。


 と、そのときだった。

 突然、珊瑚の中から何かが伸びてきて、アンジュの右足に絡み付いた。


「っ!?」


 目を見開いたアンジュが〝それ〟に引っ張られていく。


 触手だ。その先に視線を向けると、珊瑚に隠れて巨大な影が動くのが見て取れた。


クラーケン

 レベル:35

 スキル:〈触手攻撃+4〉〈墨攻撃+3〉〈水泳+3〉〈擬態+2〉


 おおっ、海の魔物の筆頭、クラーケンさんじゃないですか!


 どうやら珊瑚に擬態していたらしい。海の中だからか、俺の〈気配察知〉でも気づけなかったようだ。


 触手が次々とアンジュの身体に絡み付いていく。


 こ、これは出るかっ……触手プレイっ!?


 と、ちょっと期待したが、さすがにそんな場合じゃないな。

 てか、アンジュが普通に触手を引き千切ったぞ。そして憤ったアンジュに、クラーケンがタコ殴りされている。イカなのに。


 あ、クラーケンが墨を吐いた。ドロッとした塊を浴び、アンジュが真っ黒になる。その隙に逃げ出そうとするクラーケン。いや、逃がすかよ。


 俺は刹竜剣ヴィーブルを思いきり投擲した。魚雷めいた勢いで水中を進み、クラーケンの頭を貫く。


レイジ

 スキルアップ:〈触手攻撃〉→〈触手攻撃+4〉

 スキル獲得:〈墨攻撃+3〉〈水泳+3〉〈擬態+2〉


 倒したようだ。


 しかし息がやばい。

 真っ黒になったアンジュも苦しそうにしている。

 俺たちは急いで階段へと向かった。


「ぷはぁっ……」


 不思議なことに、階段の途中にある境界線を抜けると、周囲が途端に海水から空気へと切り替わる。

 まるで見えないガラスで隔てられているかのように、海水がそこで綺麗に途切れているのだ。


「うぅ、気持ち悪い……生臭い……」


 イカの墨を浴びたアンジュが呻いている。

 水魔法を使って、塩水ともども洗い流してやった。


 さて、次は第六階層だ。

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