第50話 超級鍛冶師ニーナ

 ギャング〝赤狼〟の拠点前の道は、その構成員たちで埋め尽くされていた。

 クラン本部に集まっていた連中が、俺を追い駆けて来たのだろう。


 俺が〝赤狼〟のリーダーであるブライグと一緒に外に出ると、彼らはざわめいた。


「ボ、ボス!? 一体、何が……」


 目を見開いて叫んだのは幹部の一人であるモーガンだ。

 俺に破れたブライグだが、その傷は俺が治してやったのですべて癒えている。だが、その沈鬱な表情から異変を感じ取ったのだろう。

 そもそも俺と仲良く並んで現れる時点でおかしいしな。


「……〝赤狼〟は今日で解散だ」


 ブライグの宣言に、構成員たちはどよめく。


「な……ど、どういうことですか!? まさか、こんな男に屈した訳じゃ――ひっ!?」


 ブライグに睨まれ、モーガンが継ぎ句を呑み込んで悲鳴を漏らす。

 構成員たちが戸惑うのを余所に、ブライグは歩き出した。

 去り際、最後の言葉を残す。


「俺はもうここには戻らねぇ。てめぇらは好きにしろ。だが、あいつにだけは絶対に手を出すな。あれはやばい。Bランク冒険者なんて次元じゃねぇ」


 そうして去っていくボスの背中を、構成員たちは呆然と見送った。

 ボスがいなくなった後、自然、彼らの視線が俺の方へと向いた。大半は疑問や当惑の、残りは恐怖や畏怖の視線だった。

 俺は言った。


「と、言う訳だ。まぁすぐにとは言わないけど、お前らも徐々にまっとうな仕事ができるように頑張れよ」



   ◇ ◇ ◇



 ギャング〝赤狼〟のボスが貧民街から追い出されたことは、すぐに他のギャングにも伝わったようだ。

 クラン本部の二階にある俺の執務室に、連日のようにギャングの幹部連中が挨拶に訪れた。


 実質的に貧民街の全ギャングを支配していた男が敗北したのだ。

 まさに戦々恐々、ギャングとは思えない腰の低さだった。


 まぁギャングと言っても、やっていることのすべてが犯罪行為という訳ではない。また、犯罪行為だったとしても、その重さは様々だ。

 あまりに悪質なことはさすがに看過できないが、生きていくために必要な部分もあるため、現状、ある程度は見逃してやることにした。


 しかし中には、俺を倒せば自分たちが貧民街の頂点に立てると考えた連中もいた。

 明確な敵対行動を示してきたので、〝赤狼〟のときのようにこっちから拠点に乗り込んで壊滅させてやったけどな。


「ボスと呼ばせてください!」

「一生、付いていくっす!」

「雑用でも何でもやります!」


 あるとき、どう見ても堅気とは思えない連中が俺のところにやってきて頭を下げてきた。

 どうやら〝赤狼〟の構成員だった奴ららしい。


 タックス:信仰度45%

 ローラン:信仰度60%

 ガセル:信仰度55%


 いつの間にか俺の信者になっていたようだ。しかも信仰度けっこう高い……。


 拠点で働く職員が欲しいと思っていたところだったので、俺は彼らを迎え入れることにした。

 と言っても、今はまだ大した仕事はない。とりあえず雑用でも任せておくか。孤児院を手伝わせるのも――いや、この顔だと子供たちが怖がるだろうしダメだな。


 しかし彼らを皮切りに、その後も続々と〝赤狼〟の元構成員たちが俺の下へとやってきた。

 俺の強さに惹かれたという者もいれば、元々ギャングの活動を好きでやっていたわけではなく、まっとうな仕事ができるチャンスだと思ってやってきた者なんかもいた。


 俺はまず、彼らの持つスキルや才能を〈神眼〉で見極めることにした。

 戦闘の才能がある者には、冒険者になってはどうかとアドバイスをした。そもそもクランは冒険者のパーティの集まりだしな。職員だけ多くいても意味がない。


 才能次第では別の道を勧めたりもした。眼つきの悪いギャングでも、意外と一流の料理人になれるような才能があったりするのだ。






「ご主人さま! 鍛冶コンテストで優勝したのです!」

「おお、マジか」


 そんなことをしていると、いつの間にかニーナの鍛冶コンテストが終わっていた。見に行くつもりだったんだが忘れていた。……ニーナ、すまん。


 しかし鍛冶を初めてまだ二週間ちょっとだぞ?


「この作品なのです」


 ニーナが優勝した作品を見せてくれる。

 両手剣だ。鞘から抜き放つと、赤みを帯びて輝く美しい剣身が現れた。


 ・刹竜剣レッドキール:両手剣。大業物。ドラゴンをも殺すことができる剣。ドラゴンへのダメージ増大。火属性。稀少度レア


 俺が今まで使っていた刹竜剣ヴィーブルと同系統の装備だが、それを超える大業物だ。しかも火属性が付いている。


 どうやら俺が渡した火竜の牙をメイン素材に、ミスリルや竜鱗を混ぜ合わせて作ったらしい。


「ぜひご主人さまに使って欲しいのです!」

「いいのか?」

「もちろんなのです!」


 コンテストには武器をコレクションしている貴族たちも見に来ていて、ぜひ売ってほしいとせがまれたらしいが、ニーナは断固として断ったそうだ。俺のために作った武器だから、と。ええ子や。


 ちなみにコンテストで優勝するような武器は、オークションで売れば金貨百枚は下らない値段がつくらしい。

 本部を建てたりして最近かなり出費が激しかったが、ニーナがいれば今後はお金に困らなそうだな。


 ちなみに俺はボグニアの鍛冶工房を買い取ろうとしたのだが、すでにボグニアがニーナに譲っていたそうで、その必要は無かった。ボグニア、無私にもほどがあるだろ……。


 そんなわけで、心置きなく頼むことができる。


「ニーナに作ってもらいたいものがあるんだ」

「何でも言ってくださいなのです!」






 僅か四日後。

 ニーナは俺の期待に応え、あっという間にそれを用意してくれた。


「こ、こんな良い武器を僕たちに……?」


 唖然としているのはクルスたちだ。

 それもそのはず。今彼らの目の前に並んでいるのは、新進気鋭の超級鍛冶師ニーナが造った武器や防具であり、それを俺から無償で提供すると言われたのだから。


・ニーナソード:片手剣。大業物。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの剣と比べて軽いが、強度は遥かに高い。稀少度アンコモン


・ニーナナイフ:ナイフ。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさのナイフと比べて軽いが、強度は遥かに高い。稀少度アンコモン


・ニーナシールド:盾。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの盾と比べ、遥かに軽くて強度は高い。稀少度アンコモン


・ニーナアーマー(重):重鎧。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの鎧と比べ、遥かに軽くて強度は高い。稀少度アンコモン


・ニーナアーマー(軽):軽鎧。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの鎧と比べ、遥かに軽くて強度は高い。稀少度アンコモン


・ニーナガントレット:籠手。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの籠手と比べて軽いが、強度は遥かに高い。稀少度アンコモン


・ニーナブーツ:戦闘靴。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの戦闘靴と比べて軽いが、強度は遥かに高い。稀少度アンコモン


・ニーナウィップ:鞭。超級鍛冶師ニーナ作。特殊な材質により、振るったときの先端速度が並みの鞭より遥かに速い。稀少度アンコモン


・ニーナロッド:魔法の補助杖。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの杖と比べ、遥かに軽くて強度は高い。稀少度アンコモン


・ニーナスピア:槍。超級鍛冶師ニーナ作。同じ大きさの杖と比べて軽いが、強度は遥かに高い。稀少度アンコモン


・ニーナボウ:弓。超級鍛冶師ニーナ作。絶妙なしなり具合により、飛距離と命中率大幅上昇。稀少度アンコモン


 いずれもミスリルに竜鱗などの複数の素材を混ぜ合せた材質でできており、店で買える武器の中では間違いなく最上級の品々だ。


 色は基本的に赤と白で構成されていて、必ずどこかに赤い剣とそれを覆う光輪でできたシンボルが入っている。俺のクランのシンボルマークだ。ほら、光輪って、神っぽいじゃん? 邪神だけどさ、俺。


 つまりこれを装備していれば、俺のクランに所属していることが一目で分かるということである。

 つい最近、全員がCランク冒険者に上がったクルスたちがこれを身に付けて活躍してくれれば、クランの効果的な宣伝になるに違いない。


 もちろん俺のパーティメンバーたちも装備させるつもりだ。

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