第49話 ギャング〝赤狼〟
ギャング〝赤狼〟のリーダー、ブライグは元Bランク冒険者だった。
ドラゴンのソロ討伐を始め、その実績は王都の冒険者ギルド内でも突出したもので、Aランクへの昇格は確実と目されていたほど。
だがその素行の悪さから、Aランクへの昇格は許されず、それに憤ったブライグが当時のギルド長を半殺しにしてしまったことで、ギルドから永久追放されてしまったのだ。
その後、ブライグは貧民街へと流れ着いた。
新たなギャング〝赤狼〟を立ち上げると、瞬く間に頭角を現し、勢力を拡大。
当然、既存のギャングが黙ってはいなかったが、それをブライグはその圧倒的な力でねじ伏せ、今では〝赤狼〟は貧民街最大のギャングとなっていた。
貧民街には関与せずが基本姿勢の政府は、〝赤狼〟の存在を認知しながらも無視を決め込んでいる。裏で貴族に賄賂を贈ったり、ゆすったりして、手を出せないようにしているためだ。
一方、冒険者ギルドでも、ブライグのことはもはやアンタッチ。時折、身の程知らずな冒険者が薄っぺらい正義感を振りかざしてやって来ることはあったが。
「そのレイジって野郎もその類いだろう」
ブライグは高級なソファに身を沈めながら、くくっ、と喉を鳴らした。
両側には際どい衣装を着た二人の美女を侍らせている。彼女たちはブライグの奴隷だ。胸を鷲掴みして揉んでやると、「んあっ」と艶めかしい声を漏らした。
「だが助かったぜ。そろそろここも手狭になってきたところだったからな」
〝赤狼〟の拠点はその立ち上げ当時から利用しているものだ。かつてここにあったギャングから、ブライグがその身一つで奪い取ったのである。だが老朽化は激しく、何より構成員の数に対して建物が小さ過ぎる。
ブライグはあの新しくできた建物を〝赤狼〟の新しい拠点にするつもりだった。
だからこそ建築中は見過ごしてやったのである。
今頃は配下たちが追い出している頃だろう。
と、そのとき、部屋の外が俄かに騒がしくなった。
モーガンたちが戻って来たのだろうか。
「いや、違うな」
ブライグの優れた聴覚と嗅覚は違和を嗅ぎ取った。
戦いの音と匂いがする。
何者かが拠点に乗り込んできて、階下に残っていた構成員たちと交戦しているのだろう。
やがて騒音が徐々に近づいてきたかと思うと、不意に静かになった。
部屋の扉がゆっくりと開く。
「あんたが〝赤狼〟のリーダーか?」
部屋に入って来たのは黒髪の青年だった。
◇ ◇ ◇
「ああ。そうだ」
部屋の奥にあるいかにも高そうなソファに腰掛けていた男が、左右に美女を侍らせながら余裕の表情で頷いた。
こいつが〝赤狼〟のリーダー、ブライグか。
頭の上に獣耳が付いているし、獣人のようだな。〈神眼〉で鑑定してみるか。
ブライグ 29歳
種族:人狼族(ウェアウルフ)
レベル:42
スキル:〈狼化+4〉〈爪技+4〉〈体技+3〉〈噛み付き+2〉〈威嚇+2〉〈遠吠え+1〉〈聴覚+1〉〈嗅覚+1〉〈俊敏+1〉
称号:ギャングの首領
なるほど。元Bランク冒険者だとは聞いていたが、Aランクに匹敵するレベルだな。
「俺はBランク冒険者のレイジだ。あんたに言いたいことがあって来た」
美女の胸を揉みながら余裕ぶっているブライグへ、俺は告げる。
「今日からこの一帯は俺の縄張りだ。大人しく出て行ってくれるなら、半殺し程度で済ませてやるぞ」
俺の言葉に、ブライグは一瞬呆けたような顔をした後、大声で笑い出した。
「ヒャハハハハッ、こいつはまた随分と馬鹿な若造がいたもんだな、オイ」
くすくす、と両隣の美女たちも笑いを零す。
不意に、ブライグが笑声を止めて目を細めた。周囲の空気が急に張り詰めたような気がした。
「この部屋に辿り着けただけで、もう勝ったつもりか?」
次の瞬間、一人の男が天井から降ってきた。
確実に命を刈り取らんとする斬撃。
それを俺は軽く首を捻るだけで躱すと、襲撃者の足首を掴み、思いきり振り回して地面へと叩きつけた。
「……がっ!?」
〈神眼〉でステータスを見る。
ログ 26歳
種族:人狼族(ウェアウルフ)
レベル:33
スキル:〈狼化+3〉〈剣技+2〉〈爪技+3〉〈蹴技+2〉〈噛み付き+2〉〈隠密+2〉〈聴覚+1〉〈嗅覚+2〉〈俊敏+2〉
称号:ギャング首領の右腕
直前まで気配を察知できなかったのは〈隠密+3〉スキルを持っていたためか。
「ぐふっ!?」
俺が腹部に蹴りを入れると、ブライグの右腕らしい男は意識を手放した。
これにはさすがにブライグも驚いたようだ。
「狼化していなかったとは言え、ログを瞬殺だと?」
美女を押し退け、ブライグがゆらりと立ち上がる。
その顔には好戦的な笑みが浮かんでいた。
「いいだろう。俺様が直々に相手をしてやるよ」
拳を構えるブライグ。
直後、その身体が後方へと吹っ飛んでいた。
「――なっ!?」
俺が〈突進+5〉スキルを全開にして距離を詰め、吹っ飛ばしてやったのである。
壁に叩き付けられたブライグは、げほっ、と咳き込みながら瓦礫から這い出してくる。
「て、てめ――」
言い終わる前に俺の蹴りが再びブライグを吹き飛ばしていた。
老朽化していた壁を突き破り、貧民街の狭い通路へと落下するブライグ。
「なんだ、その程度か。Aランク冒険者並って聞いていたから、もうちょっと期待していたんだけどな」
「舐めんじゃねぇぞクソガキがァッ!」
俺の挑発を受けて憤怒の咆哮を上げた途端、ブライグの鼻頭が前へと突き出し、全身を赤い体毛が覆っていく。口からは刃物のごとき牙が伸び、手には鋭い爪が生えた。
狼化したブライグが躍りかかってくる。ステータスが大幅に上昇し、スピードが先ほどとは段違いだ。
繰り出された爪撃を躱すも、頬を掠めていたようで僅かに血が舞った。
「ヒャハハハハッ! こうなったらもう、てめぇを噛み殺すまで俺様は止まらねぇぜぶごっ!?」
哄笑を轟かせていたブライグの下顎を俺の足のつま先が強打。海老反りになった狼が宙へと舞い上がる。
「ハイグラビティ」
「なっ、てめぇ、魔法までぐがっ」
今度は重力魔法で背中から地面に強かに叩き付けられるブライグ。
「く、くそった――っ? か、身体が……っ!?」
すぐに起き上ろうとするブライグだったが、俺の中級闇魔法、シャドウスワンプによって自分の影に捕らわれ動くことができない。
〈並列思考+4〉と〈無詠唱〉により、重力魔法と闇魔法を同時に発動しているのだ。やっぱりこのコンボは結構強力だな。
俺はブライグに近づくと、右肩に剣先を突き刺した。
「があああああっ!?」
悲鳴を上げるブライグ。
必死に重力と影の束縛から逃れようとしているが、無駄なことだ。俺は今度は左肩に剣先を突き入れる。再び大きな悲鳴が上がった。
「理解したか? どっちが格上かってことが」
「く、くそっ……ば、化け物めっ……てめぇのどこがBランクだ……っ!」
俺はブライグの右足を踏み付け、骨ごと砕いた。
「――――っ!?」
悲鳴にならない悲鳴が零れる。ブライグの狼化が解け、元の人間へと戻った。
「二度と貧民街に戻ってこないと誓え。そうすれば約束通り、半殺しで済ませてやるぞ」
「はぁ、はぁ……ふ、ふざけろ……っ! 誰が、てめぇごときに――ッ!」
今度は左足の膝を粉砕してやった。
「……て、てめぇに屈するくらいなら、死んだ方がマシだ……」
「いや、殺さないぞ? 回復魔法で治してやるよ。グレイトヒール」
ブライグの負傷が見る見るうちに修復していく。
「か、回復魔法まで使いやがるのか……っ! だがバカな奴めっ、わざわざ敵を治療す――」
「まぁ、また傷つけるんだが」
「ぎゃあああっ!?」
俺は先ほどと同じように右肩に剣を突き刺した。
さすがにブライグの顔が恐怖で歪む。このままでは死ぬことすら許されず、永遠と苦痛を受け続けることになると悟ったのだろう。
「く……わ、分かった……誓う……誓うから、もう、やめてくれ……」
「おう。破ったら次はもうちょっとハードモードでいくから、よろしくな」
呻くように誓うブライグへ、俺は邪神スマイルで爽やかに告げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます