第47話 クラン本部

 ディアナの加勢もあり、帰りは行きよりもずっと楽だった。階層主の寝床に寄り道することもなかったしな。


「レイジさんたちとなら、本当に最下層まで辿り着けるかもしれませんね。ぜひまたご一緒させてください」


 無事に地上に帰還すると、そう言い残してディアナは去っていく。

 確かに彼女がいればパーティの戦力が大きく上がる。本格的にダンジョンを攻略しようと思えば、これ以上ない助っ人だ。


 王国建国者が到達して以降、この三百年それに続く攻略者は出ていない。最高でも八階層までらしい。

 それも百年くらい前のことであり、近年では七階層が最高。しかも八階層へと続く階段の場所がどうしても見つからず、攻略は暗礁に乗り上げている状態だという。


 だが俺の〈神眼〉があれば、フロア全体を手に取るように見ることができるからな。迷うことはないだろう。……たぶん。


 後は戦力の問題。現状ではやや心許ないので、だからこそディアナが居てくれると非常にありがたいのだ。

 本人もああ言ってくれているし、いずれ声をかけてみるかな。





 そう言えば、帰還途中に新たな従魔が増えた。

 スラぽんがまた無性生殖で子供を産んだのである。しかも二体。



スラじ 0歳

 種族:メタルスライム

 レベル:20

 攻撃スキル:〈噛み付き〉〈突進〉

 防御スキル:〈物攻耐性〉〈自己修復〉〈硬化〉

 身体能力スキル:〈頑丈〉

 称号:硬質生物

 状態:テイム 信仰度15%


スラさん 0歳

 種族:スカイスライム

 レベル:20

 攻撃スキル:〈触手攻撃〉〈噛み付き〉

 防御スキル:〈物攻耐性〉〈自己修復〉〈炎熱耐性〉

 移動スキル:〈翼飛行〉

 身体能力スキル:〈怪力〉

 特殊スキル:〈吸収〉 

 称号:飛行生物

 状態:テイム 信仰度20%



 スラじは恐らくスラぽんから引き継いだ〈硬化〉スキルの影響で、メタルスライムとして誕生したのだろう。身体が鈍色をしていて、〈硬化〉の成長速度がA、耐久値の上がり易さはSである。某ゲームと違うのは、敏捷値の上がり易さがCと普通なところか。


 スラさんはスカイスライムという種で、身体が空色をしていることと、なんといっても翼が生えていることが大きな特徴だ。どうやらスラぽんに半ばダメ元で付与していた〈翼飛行〉スキルを、運よく引き継いでくれたらしい。メタルスライムも稀少種だが、スカイスライムはさらに稀少なのだ。オークションにでも出したら物凄く高い値がつくだろう。


『……!?』


 いや売らないから心配するなって。


 普段は翼を隠させ、普通のスライムっぽく振舞って(?)もらっている。Bランク冒険者の従魔を盗もうなんていうバカはいないだろうが、念のためだ。





 ダンジョンから帰還した俺たちは、その足で貧民街へと足を運んでみた。

 もちろん、クランの本部になる予定の建物の様子を見に行くためだ。


「あれ? もう完成してる?」


 そこには予定していた通りの四階建ての新築がすでにあった。

 作業員の姿はない。俺はすぐに建築を依頼した土木会社へと足を運んだ。


「はい。ちょうど昨日、完成しました」

「早くないですか?」


 担当者から完成したと言われ、俺は説明を求める。手抜き工事とかじゃないだろうな。

 すると担当者は少し歯切れ悪くなって、


「実は、あの辺りは治安があまり良くなくてですね……作業員の安全を考慮して、人員を増やし、短期間で一気に建造することにしまして……いえもちろん、きちんと設計通りに仕上げさせていただきましたので……」


 なるほど。

 つまり、あの辺りを仕切っている例のギャングの妨害が怖かったということか。で、とっとと完成させて俺に引き渡してしまおうと。

 事前に言ってくれれば、警備を雇うなりしたんだけどな。まぁいいや。


〈神眼〉で見ても特に問題はなさそうだったし、早く完成させてくれたのだから責めることもないだろう。

 俺は礼を言って、受領書にサインしたのだった。





「わー、きれいっ!」

「ドアがこわれてないぞ!」

「まどもわれてない!」

「天井に穴が開いてない! 雨漏りの心配がないよ!」

「べらんだ! べらんだ!」

「お風呂がひろーい! えっ、もう一つある!? 男用と女用!? トイレも!?」


 新しくなった孤児院を、子供たちが大はしゃぎで走り回っていた。なんというか、今までの不憫な生活ぶりがよく分るな……。


「すごい……本当にここに住んでもいいんですか……?」


 孤児院の院長であるレベカが、信じられない、という顔で訊いてくる。


「ええ、もちろんです。約束したでしょう?」

「ああ……こんな日が来るなんて…………あなたは神ですか……」


 邪神です。


・レベカ:信仰度 10% → 75%


 すごい信仰度の急上昇っぷりだ。


レイジ

 スキル獲得:〈空腹耐性〉

 スキルアップ:〈子育て〉→〈子育て+1〉 〈慈愛〉→〈慈愛+1〉 〈料理+2〉→〈料理+3〉


 お陰で何だかとても邪神とは思えないスキルアップをしてしまった。


「「「れいじおにーちゃん、ありがとー」」」


・ララ:信仰度45%

・ミレーユ:信仰度35%

・リオン:信仰度30%

・ロンド:信仰度25%

・マルフーラ:信仰度40%

・ラッミス:信仰度25%


 上記は一部であるが、孤児たちも順調に俺の信者になりつつあった。


「これが本部……?」

「すげぇ……」


 続いて、俺はクルスたちをクランの本部へと連れてきていた。

 王都の冒険者ギルドにも負けない一階の受付・ロビーを前に、口々に感嘆の声を漏らしている。


 俺は彼らを地下へと案内する。

 広々とした空間が俺たちを出迎えてくれた。ここは訓練場だ。


「好きに使ってもらって構わない」

「ほ、本当ですか!?」

「特殊な合金で造っているから魔法の訓練にも使えるぞ」

「クランに入って良かった!」


 ちなみに簡単に紹介すると、地下は訓練場で一階は受付やロビー、それからクランに所属しているメンバーのためにシャワー室や休憩室、会議室などを設けている。二階には内勤職員の仕事場やクランのリーダーである俺の執務室等があり、孤児院は三階だ。四階はクランの幹部用の部屋、つまりは俺たちが住む家である。


「この部屋を使っていい……?」

「ああ。ここはファンの部屋だからな」


 いきなり自分の部屋を与えられ、ファンが戸惑っている。元々奴隷だった彼女だ。こんなこと、夢にも思わなかったに違いない。


「ルノアの部屋もあるぞ」

「ルノアも?」

「アンジュの部屋もな」

「あ、あたしのも!?」


 もちろんニーナにも一部屋確保してあった。後は従魔たち用の部屋だ。


『……!』

『……!』

『……?』

『……?』


 一応、喜んでいるようだ。たぶん。


 さて、ニーナのところにも行っておかないとな。

 一先ず本部のことはファンやクルスたちに任せて、俺は工房地区へと向かった。


「おおっ、レイジさん! お久しぶりです!」


 ニーナがお世話になっている工房の親方である中級鍛冶師、ボグニアが出迎えてくれる。ニーナと同じドワーフだ。


「ニーナはいますか?」

「はい! 先生なら今、奥で武器を打っておられるところです!」


 ……先生?

 その言葉を訝しく思いつつ、俺はボグニアの案内で工房の奥へと入っていく。


 すると火床の前に、こちらに背を向けて座るニーナの姿があった。

 一心不乱にハンマーを振るうその姿は、つい最近初めて鍛冶を始めたとは思えないほどの迫力があった。

 集中しているのか、俺に気づいていないようだ。


ニーナ 15歳

 種族:ドワーフ族

 レベル:31

 武技スキル:〈斧技+1〉

 攻撃スキル:〈投擲+2〉

 身体能力スキル:〈怪力+4〉〈頑丈+3〉〈集中力+1〉

 心理スキル:〈忠誠+2〉

 技術スキル:〈採掘+2〉〈鍛冶+4〉〈細工+4〉〈創造力+3〉〈審美眼+3〉

 称号:上級冒険者(Cランク) 上級鍛冶師

 状態:信仰度90%


 ダンジョン攻略中に俺の〈鍛冶〉や〈細工〉の熟練値がガンガン上がっているとは思っていたが、すでにボグニアを超えてしまっていたらしい。


「申し訳ないです。先生は一度集中されると、完全に周りに意識が向かなくなってしまわれるのです」


 と、ボグニアが教えてくれる。


 てか、弟子にあっさり追い抜かれて、今では逆に弟子になっちゃったのか……ボグニア……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る