第46話 海洋フロアとAランク冒険者
翌日、俺たちは船に乗って海上を進んでいた。
全長は二十メートルくらいで、あまり大きな船ではない。海の魔物に遭遇することもあるそうだが、十メートルを超えるような大物はめったにいないので大丈夫だそうだ。……大丈夫なのか?
集落にいた冒険者たちに船を貸してほしいと依頼すると、あっさりと了承してくれた。そもそもこの階層の攻略に来た冒険者に船を貸し出すのも、彼らの事業の一つなのだという。無論、料金がかかるが。
船の操縦も〈操船〉スキルを持った冒険者に任せることにした。
ランガ 34歳
種族:人間族(ヒューマン)
レベル:28
スキル:〈槍技+3〉〈投網術+2〉〈漁獲術+3〉〈操船+2〉〈水泳+1〉〈船酔い耐性+1〉
称号:上級冒険者(Cランク)
他にも海の男らしいスキルを所有している。
ちなみにこの世界の船の動力は魔力らしい。魔力によってスクリューを回転させ、推進力を得ているのである。
「しっかし、自分から階層主に挑戦しようなんていう奴が来たのは久しぶりだぜ」
と、こんがりと日焼けした身体が印象的なランガが白い歯を見せて笑う。
「けどよ、ちょうど一時間くらい前に、階層主を討伐するためにAランク冒険者が出発してるんだ。すでに倒されているかもしれねぇぞ。いや、俺たちが依頼したんだけどな」
「冒険者がわざわざ階層主の討伐を依頼してるんですか?」
「おうよ。階層主がいると、どういう訳か、漁獲量が大幅に下がっちまうんだよ。それで定期的に討伐を依頼してるんだ。俺らも冒険者の端くれ、自分たちの手でなんとかしたくはあるが、Aランク冒険者くらいじゃねぇと歯が立たねぇからな」
今朝、俺たちよりずっと早い時間に船を出したらしいので、すでに討伐されてしまっているかもしれないな。
階層主は一度倒すと、階層にもよるが、だいたい半年から一年くらいは復活しないというし、できる限り急いでもらおう。
「……吐きそう」
「あ、あたしも……」
「だいじょうぶなの?」
全力で飛ばしてもらっていたら、ファンとアンジュが船酔いしてしまった。ルノアは平気そうだが。
「げえええええっ」
勝手に付いてきたラミアスは豪快に吐いている。そこそこ美人なのに、色々と残念な奴だな……。
お陰で現れたモンスターは、俺とルノアだけで対処することになった。
マーマン
レベル:30
スキル:〈水泳+4〉〈怪力+3〉
デビルシャーク
レベル:34
スキル:〈水泳+6〉〈噛み付き+3〉〈人食い+1〉
マーマンは全長二メートル弱の人魚の魔物で、デビルシャークは全長三メートルくらいのサメの魔物である。どちらもレベルはそこそこ高いが、スキルが少ないせいか、大した脅威ではなかった。船にタックルしてくるくらいしかできないし。水中で遭遇したらヤバいだろうけど。
三十分ほど船を走らせ、とある島が見えてきた。
「あそこの島の浅瀬が階層主の寝床になってるんだよ」
島は三日月の形をしており、その内側部分に階層主がいるのだという。
先行していた船がその入り口付近に停泊していた。
「おう、ランガじゃねぇか? どうした!?」
「助っ人だ!」
ランガがそんなやり取りを交しているのを余所に、俺は視線を階層主とやり合う一人の冒険者へと向けていた。
「やっぱりディアナか」
「っ、あの女っ…………うぷっ」
階層主と交戦していたのは、俺が予想していた通り、アンジュの昇格試験を担当したディアナだった。
まぁAランク冒険者なんて限られているし、ランガから若い女性だという話も聞いていたしな。
トライ・シーサーペント
レベル:47
スキル:〈水魔法+4〉〈噛み付き+4〉〈水泳+5〉〈並列思考+4〉
称号:九竜の潜窟階層主
階層主は三つ首の海竜だった。
すでにその内の一つは黒焦げになって水中に没している。
残る二つの首が襲いかかるが、風脚という技を使っているためか、浅瀬と言っても彼女の腰くらいはあるだろう深さの水に沈むことなく、ディアナは海面を蹴ってドラゴンの咢を躱していく。
「っ、気を付けろ、魔法がくるぞ!」
俺が叫んだ直後、海竜が魔法を発動した。
津波が発生し、ディアナを呑み込む。それどころか俺たちが乗る船のところまで押し寄せてきた。
幸いにも船が横転するようなことはなかったが、あちこち水浸しだ。船から海へと投げ出された者もいないようだな。
いや、
「ぬああああっ、た、助けてっ! うち、泳げへんねん!」
ラミアスが溺れていた。浅瀬だから足が付くはずなんだが、パニックになって気づいてないようだ。
「普通に足付くって」
「へ? あ、ほんまやな! ……って、うわあああっ、デビルシャークが来たぁぁぁっ!」
放っておこう。あれでもBランク冒険者だし、デビルシャークくらい倒せるだろう。
それよりディアナの方が心配だ。
だが俺の心配をよそに、彼女はすぐに水中から飛び出してきた。
「濡れてしまいましたね……。武器が錆びてしまうではないですか」
少しだけ怒ったように呟きながら、ディアナは消えてしまった炎を再び剣に灯すと、猛然と海竜に斬りかかった。
「ギャアアアアアッ!」
二本目の首が討たれる。
残る首が必死に彼女に応戦するが、長くは持たなかった。
ディアナの放った中級の火魔法ブレイズウェイブを幾度か浴びて、最後の首も浅瀬に倒れ伏した。
「ふぅ……どうにか倒せましたか」
安堵の息を吐きつつ、岩場に着地してポーションを口にするディアナ。
さすがのAランク冒険者も無傷とはいかなかったようだ。魔力も最大値の十分の一以下にまで減っている。かなり長い時間、戦っていたのだろう。海竜は火魔法が弱点とは言え、海水ですぐに消火できるし、少しずつダメージを蓄積させていくしかなかったはずだ。
「あなた方がいらっしゃるというのなら、少し待ってから一緒に討伐するべきでしたね」
船へと戻ってきたディアナが、俺たちに声をかけてくる。
「いや、見事だったよ」
「……う~」
俺が彼女を労う横で、アンジュは獣のように唸っていた。まだ昇格試験で負けたことを悔しがっているらしい。
海竜の身体は高く売れるらしく、ランガたちが船へと乗せている。
しかし結局、ディアナに獲物を取られてしまったな。特に〈並列思考〉の熟練値は欲しかったんだが……。
と言いつつ、実は〈死者簒奪〉が+3になったお陰で、自分で殺す必要は無くなっている。
Q:〈死者簒奪+3〉って?
A:死んだ生物が持っていたスキルを、その熟練値のまま奪うスキル。すでに取得している場合、熟練値が上乗せされる。
+2では「殺した生物」だったのが、+3だと「死んだ生物」という条件に変更されたのだ。
レイジ
スキルアップ:〈水魔法+3〉→〈水魔法+5〉 〈並列思考〉→〈並列思考+4〉
ただし経験値は入らなかったが。まぁ仕方がない。
それから俺たちは集落へと戻った。
「わたくしはこれから一度、帰還する予定です。レイジさんたちはどうされるのですか?」
「俺たちも戻るつもりだ。ここまで来るのにかなり物資を消費してしまったから、いったん返って補給しないと。それに街でやることもあるしな」
元々、今回のダンジョン攻略の期間は一週間だった。今から戻れば、ちょうど予定通りである。
目標は五階層の階層主の撃破だったし、概ね今回の攻略は成功と言えるだろう。
「では、せっかくですしご一緒しませんか?」
「そうだな。ディアナが一緒だと心強い」
帰り道にはディアナが同行することになった。
アンジュは嫌がっていたが。
しばらく集落で休憩し、この階層で獲れた魚を堪能してから、俺たちは出発した。
「あああっ、うちを置いていかんといてぇや! うちも一緒に帰るぅぅぅっ!」
浜辺で釣りをしていたラミアスが慌てて追いかけてきた。そう言えば、こいつもいたな。
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