第43話 VS第二階層階層主

 ――ダンジョン『九竜の潜窟』第二階層・森林フロア


「おらっ」

「ッ!?」


 鞭のように振り回される枝を躱し、俺は刹竜剣を樹木の姿をした魔物――エルダートレントへと叩きつけた。幹が両断され、断末魔の声とともに倒れ込む。


「サンダーストーム」

「「「ギェアアアアッ」」」


 ルノアが発動した雷魔法が、エルダートレントの取り巻きであるトレントたちをまとめて焼き殺した。

 だが周囲にはまだまだ沢山の樹木が蠢いている。


「すごい数」

「ああもう、鬱陶しいわね!」

「どうやらトレントの群生地に入り込んでしまったらしいな」


トレント

 レベル:22

 スキル:〈鞭技+1〉〈土魔法〉〈水魔法〉


エルダートレント

 レベル:28

 スキル:〈鞭技+3〉〈土魔法〉〈水魔法〉〈統率+2〉


 ダンジョン第二階層に広がる鬱蒼とした森。

 そこで最も遭遇率が高いのが、植物系のモンスターであるトレントだ。普通の木に紛れていきなり襲いかかってくるため、探知系のスキルがないと先制攻撃を貰ってしまうだろう。


 土魔法と水魔法を使ってもくるが、メインは鞭による攻撃である。幸い、あまり威力は高くない。

 弱点は火魔法や雷魔法。ただし森林火災にならないよう気を付けないといけない。


 エルダートレントはその上位種。厄介なことに〈統率〉スキルによってトレントを従えており、時折こうした群生地が発生していた。


 クルスたちのパーティが俺のクランに加入した翌々日。

 再びダンジョンに挑んだ俺たちは、第一階層を突破し、第二階層に到達していた。


 第一階層のような壁は存在せず、一フロアぶち抜きの広大な森だ。

 ゴール地点の方角も分かっており、ならば真っ直ぐ進めば簡単じゃないかと思うかもしれないが、ギルドで購入した地図にも載っている通り、途中に通行不可能なほどの木の密集地や底なしの沼などがあって、大きな迂回を余儀なくされてしまうのだ。


 ならば空から行けばいいのではないかと考え、一応、試してみた。自前の翼で飛べるルノアにアンジュを任せ、俺とファンは〈天翔〉で飛翔する。

 だがすぐに森の上にいる鳥型の魔物に群がられた。こいつらを倒しながら進むという手もあったが、〈天翔〉での長時間飛行は不可能だ。結局、断念して大人しく森の中を進むということに相成ったのである。


 トレントの群生地を抜けた俺たちは、蜂の魔物・デスホーネットや人食い花の魔物・マンイーターなどにも遭遇しつつ、森を突き進んでいく。マンイーターを倒したら〈人食い〉というヤバいスキルを入手してしまったんだが……。


 ちなみにこの階層、冒険者にとって最も人気のフロアらしい。ここでしか採れない果実や薬草、キノコなどが豊富であることに加え、獣系の魔物は食材として、トレントは木材として高く売れるからだ。

 というか、次の第三階層、第四階層はそうした資源が少ない上に環境が過酷、第五階層以降は魔物が強すぎるという理由から、どうしても第一階層とこの階層に冒険者が集中してしまうらしい。


 それでもほとんど他の冒険者に出会うことはないのは、それだけフロアが広いせいだろう。




 やがて、不自然に開けた空間に出た。


 そこだけぽっかりと穴が開いたように、樹木が生えていない。

 いや、中央に一本だけ、立派な木が屹立している。



ドラゴントレント

 レベル:40

 スキル:〈鞭技+4〉〈土魔法+3〉〈水魔法+3〉〈噛み付き+2〉〈自己修復+2〉

 称号:九竜の潜窟階層主



 あいつがこの第二階層のボスだ。


 Q:ドラゴントレントって?

 A:トレントの上位種。ドラゴンの姿をしているが、あくまでもトレントの一種であり、刹竜剣によるダメージ補正は期待できない。火魔法や雷魔法が弱点。ただし中級水魔法――アクアシールドを使って防いでくる。


 +1から+2になり学習機能付きになった〈神智+2〉が、俺の必要とする情報を即座に的確に教えてくれる。


「ルノア、行くぞ」

「うん!」


 俺とルノアは声を揃えて叫んだ。


「「ライトニングバースト!」」


 まだ眠っているドラゴントレントへの先制攻撃だ。

 だが魔法が発動するその寸前、ドラゴントレントの身体を水の膜が覆った。

 中級の防御系水魔法、アクアシールドだ。


 電撃がドラゴントレントを襲うが、水の膜にその大半を防がれてしまう。

 さすがはボス。どうやら俺たちの存在に気づいてすでに目を覚ましていたようだ。まぁステータスを見た際、状態が「睡眠」となっていなかったため、こっちも嘘寝だろうとは思っていたが。


「オオオオオオオオオオッ!!」


 雄叫びとともに巨樹が動き出した。

 幹がこちらに向かって大きく曲がり、地響きとともに前脚が着地する。牙を剥く竜の頭部が目の前に現れた。背中で翼めいた枝葉が広がる。


 葉と樹皮に覆われてはいるが、それは確かにドラゴンの姿をしていた。ただし下半身は地中に埋まっている。


 無数の枝が伸び、一斉に襲いかかってきた。

 トレントとは比べ物にならない数だ。しかも枝が太いため、一撃一撃が重い。


 剣で斬り裂くが、切断したはずの先端からすぐにまた枝が伸びていく。〈自己修復+2〉スキルのせいだろう。


 加えて、土魔法ストーンバレットで石の礫までも飛ばしてくる。初級魔法とは言え、当たれば結構痛い。


「……鬱陶しい」

「これじゃあ、近付くこともできないわよっ?」

「黒魔法が効かないの」


 ルノアがマインドハックをかけようとしているが、耐性があるのか、ほとんど効果がないようだ。

 アクアシールドをぶち抜くような威力の火魔法か雷魔法を放てば、十分なダメージを与えることが可能かもしれない。

 もっと魔力を込めれば――いや、あれを試してみるか。


「スラぽん」

『……?』


 ここのところあまり活躍していなかったスラぽんだ。俺は手のひらサイズになったスラぽんを空に向かって放り投げた。


「今だ、保管庫から身体を全部出せ!」

『……!』


 直後、スラぽんが一気に巨大化した。


 スラぽんの保管庫の大きさは、吸収したアイテムボックスと同じ10メートル×10メートル×10メートル、すなわち1000立方メートル。

 すでにほぼ満杯まで収納しており、アイテム類の大半はスラいちの方の保管庫へと移動させている状況である。


 つまり、ドラゴントレントの頭上で本来の姿を現したスラぽんは――めちゃくちゃ巨大で重い。


「ハイグラビティ」


 さらに俺は重力魔法を使い、ただでさえ重いスラぽんをさらに重くする。

 超重量のスラぽんによる、圧殺攻撃。

 名付けて、



「スラぽんプレスッ!!」



 ドラゴントレントはその場から動くことができない。ゆえに避けることは不可能だった。無論、アクアシールド程度では防ぐはできない。


「ギャアアアアアアアッ!!!!?」


 巨大質量に押し潰され、ドラゴントレントは絶命した。



レイジ

 レベルアップ:40 → 41

 スキルアップ:〈鞭技+4〉→〈鞭技+5〉 〈自己修復+4〉→〈自己修復+5〉


スラぽん

 レベルアップ:34 → 35



   ◇ ◇ ◇



 ドラゴントレントを撃破した俺たちは、その数時間後、第三階層へと続く階段へと辿り着いていた。


 すでに外は夕方になっているだろう。

 今回は元より数日かけてダンジョンに潜る予定だ。もちろん、ダンジョン内で寝泊まりすることになる。


 階段を上ろうとしたとき、不意にファンが呼び止めてきた。


「待って。階段の途中に誰かいる」

「待ち伏せか?」


 階段は螺旋状になっており、先が見えない。だがファンは嗅覚や聴覚が鋭いため、事前に敵を察知するのに長けている。

 いや俺も〈嗅覚〉と〈聴覚〉のスキルを持っているんだけどね。種族的な問題か、犬人族のファンほど鋭くないんだよ。まぁもう少し近づけば、〈気配察知〉や〈第六感〉で俺も察知できるんだが。


「……たぶん、違う。血の匂いがする」


 俺は〈千里眼〉スキルを使って先を見通してみた。

 すると階段の中腹辺りに、壁に背を預けて座っている二人組を発見した。


ルーク 24歳

 種族:人間族

 レベル:29

 スキル:〈槍技+4〉〈体術〉〈回避+2〉〈動体視力+3〉〈度胸〉

 称号:上級冒険者(Cランク)

 状態:怪我(重傷) 熱中症(軽度)


ヤルナ 22歳

 種族:人間族

 レベル:27

 スキル:〈弓技+3〉〈望遠+1〉〈気配察知+3〉〈罠探知〉〈冷静+1〉

 称号:上級冒険者(Cランク)

 状態:怪我(重傷) 熱中症(軽度)


 どうやら怪我をして動けなくなってしまったようだ。

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