第42話 VS第一階層階層主
「いやいや、さすがに無理だろっ? 階層主なんてっ」
目を剥いて反論してきたのは、太っちょの青年ハンバルだった。
このダンジョンの各階層には階層主と呼ばれているボスがいる。
同フロアに出現するモンスターとは段違いに強く、倒さなくとも下の階へと進むことができることもあって素通りする冒険者が大半だという。
第一階層の階層主に挑むには、最低でも第五層くらいまで進める実力がなければ逃げることすらできないと言われるほどだった。
「何を勘違いしているんだ? 戦うのはもちろん俺たちだよ」
「あ」
好青年クルスがなるほど、という顔をした。
「確かに、レイジさんたちなら……」
「君らは隠れて見ているだけでいいし、危険はないはずだ。それに、俺たちが本気を出しているところ見てみたいだろ?」
「もちろんです!」
という訳で、俺たちはゴールへの最短ルートを逸れ、ボス部屋へと向かった。
両開きの大きな扉を開けると、そこは大部屋になっていた。
そして部屋のど真ん中に巨大な塊があった。
「あ、あれは?」
「岩? 何でこんなところに?」
「あいつがボスだな」
「えっ?」
一見するとただの岩だが、俺の〈神眼〉はその正体を容易く看破する。
岩竜(ロックドラゴン)
レベル:37
スキル:〈土魔法+4〉〈頑丈+4〉〈突進+3〉〈噛み付き+4〉
称号:九竜の潜窟階層主
状態:睡眠
地竜と呼ばれる翼を持たないドラゴンの種族がいるが、こいつはその上位種だ。
その名の通り、岩のように硬い鱗に全身が護られているドラゴンである。生半可な物理攻撃ではダメージがまるで通らない。
俺たちが近づいていくと、それはゆっくりと目覚めた。まるで亀のように、甲羅めいた岩からにゅっと頭部や手足が伸びてくる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
自らの覚醒を誇示するかのように、岩竜は咆哮を轟かせた。
そして地響きとともに突進してくる。
「どどど、ドラゴン!?」
「あ、あんなの、さすがに無理だろ!?」
「ちょっとヤバくないですか!?」
「……っ……っ!」
後ろでクルスたちが腰を抜かしているが、俺、ファン、ルノア、アンジュはすでに戦闘態勢へと移行していた。
「ルノア」
「はいパパ。――ハイグラビティ」
「――ッ!?」
ルノアが無詠唱で発動したのは中級の重力魔法だ。元より超重量のドラゴンにさらなる重さが加わる。
だがさすがにそれだけで動きを止めることはできず、岩竜はそのまま突き進んでくる。
「シャドウスワンプ」
そこへ俺が闇魔法で追い打ちをかける。
岩竜が自らの影の中へと沈み込み始めた。
中級の闇魔法シャドウスランプは、シャドウバインドの上位版だ。ただ足を縫い止めるだけでなく、影の中へと引き摺り込もうとする。
「はああああっ!」
動きが止まった岩竜へ、アンジュが裂帛の気合いと共に接近。足を振り上げる。
下顎を蹴られた岩竜の頭が跳ね上がった。
そこからアンジュの猛撃が始まる。
強烈な拳を目にも止まらぬ速度でガンガン叩き込み、岩竜の頭部を何度も左右に揺らす。
岩竜は噛み付き攻撃を放つ余裕すらない。
一方、ファンは〈天翔〉スキルで宙を駆け、岩竜の背中を二本の剣で斬りつけている。ただしこちらはあまり効果がないようだ。
「硬い……」
ならばと、ファンは岩竜の腹部側へと回った。こちらも岩肌で覆われているが、背部に比べると防御力は薄そうだ。
「っ! アンジュ! 魔法が来るぞ!」
「……っ!」
岩竜の体内で魔力が膨れ上がりつつあることに気づき、俺は叫んだ。
あれは中級土魔法、サンドストームか!
広範囲型の魔法だ。あの位置ではアンジュは避けることができない。
「マインドハックなの」
ルノアが重力魔法を解除し、相手の精神を操作する黒魔法を発動した。一瞬だが意識に強制介入され、ドラゴンの詠唱がストップする。
「よくやった、ルノア」
「えへへ」
だが重力の軛から解放された岩竜は、さらに俺のシャドウスワンプからも抜け出そうとしている。
「アンジュ、ファン、離れていろ!」
「了解」
「わ、分かったわ!」
二人が岩竜から距離を取った直後、俺はシャドウスワンプを解除し、続けてルノアと息を合せて雷魔法を発動した。
「「ライトニングバースト!」」
二条の雷が岩竜に直撃する。
さすがのドラゴンも、もうほとんど虫の息だ。しかも雷魔法の副次効果として「麻痺」の状態異常にかかっている。
「おおおおおっ!」
俺は〈天翔〉で飛翔し、岩竜の頭部へ刹竜剣ヴィーブルを思いきり振り下ろした。
岩で護られた頭が両断される。
巨体が完全に力を失い、轟音とともに倒伏した。
レイジ
レベルアップ:41 → 42
スキルアップ:〈土魔法+2〉→〈土魔法+5〉 〈頑丈+5〉→〈頑丈+6〉 〈突進+1〉→〈突進+3〉 〈噛み付き+2〉→〈噛み付き+5〉
アンジェリーネ
レベルアップ:33 → 34
ルノア
スキルアップ:〈黒魔法+2〉→〈黒魔法+3〉
無事に第一層の階層主を倒した。
途中少しヒヤッとした場面もあったが、まぁこんなもんだろう。
今回は従魔二体を控えさせていたし、まだまだ余力はある。ただ、深い層のボスになってくると今の戦力では厳しいかもしれない。
もっとレベルを上げていかないとな。
とりあえず俺とファン、アンジュのレベル差がかなり大きくなってきたので、〈賜物授与+2〉で分け与えておくか。
レイジ
レベルダウン:42 → 40
アンジュリーネ
レベルアップ:34 → 35
ファン
レベルアップ:32 → 34
「す、すごい……」
「マジで倒しちまったよ……」
「さっきの雷魔法だよね!? あんな威力のやつ、初めて見た……」
「ふ、二人同時に放ってたような……」
俺たちの戦いを後ろで見ていたクルスたちが唖然としている。
「今日の攻略はここまでにして、地上に戻ろうか」
◇ ◇ ◇
階層主を撃破した後、俺たちはクルスのパーティと一緒にダンジョンから帰還した。
ダンジョン内では外の時刻が分かりにくい。思っていた以上に時間が経っていたらしく、すでに陽が暮れかけていた。
クルスたちに一緒に飲みに行かないかと誘われた。
もちろん、断る理由などない。
彼らの行きつけだという酒場へ。ちなみにこの世界では酒を飲める年齢の制限などないが、だいたい十五、六くらいまでは常飲しない方がいいと言われているようだ。
「レイジさん、僕らなんかじゃ正直、足手まといだと思いますけど、また機会があればぜひ一緒に冒険させていただけませんか?」
しばし思い思いに飲んだり食ったりした後、赤ら顔のクルスからそんなお願いをされた。
「もちろんだ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
冒険者には無作法な奴も多いが、クルスは非常に好感の持てる青年だ。そう遠くない内に、Cランクには昇格できるだろう。
彼のパーティにも、何か問題を起こしそうな奴はいない。
よし、決めた。
「クルス」
「はい、何でしょうか?」
「よかったら、俺のクランに入らないか?」
「え?」
「Bランク冒険者になって立ち上げたばかりで、まだ加入パーティは俺たちだけなんだ」
最初は呆気にとられた顔をしていたクルスだったが、すぐに喜色満面の笑みへと変わっていった。
「ぼ、僕たちなんかで良ければ、ぜひ!」
他のメンバーたちからも異論はでなかった。
「これからよろしくな、クルス」
「よろしくお願いします、レイジさん!」
こうして俺は、クラン・レイジに加入してくれる初めてのパーティを獲得したのだった。
クルス:信仰度45% → 55%
ハンバル:信仰度20% → 35%
レナ:信仰度35% → 45%
ミシャ:信仰度30% → 40%
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