第41話 劇的ビフォーアフター
「実は最近、Cランクへの昇格試験に何度も落ちていて……。今日だって、僕がもっと強ければこんなことには……」
クルスが悩みを明かしてくる。
「ハンバル君の方はすでにCランクに昇格しているし、やっぱり彼の方がリーダーに相応しい……」
「おい、まだそんなこと言ってやがるのかよ。別にランクは関係ねぇだろ。オレは後から加入した口だし、人を纏めるのは苦手だ。適任はお前だよ」
乱暴な口調ながら、そんなクルスを諭したのはハンバルだ。
プライド高そうとか思ってすまん。お前、意外と良い奴だったよ。
逆にクルスは確かに良い奴ではあるが、ウジウジ系だな。
俺の中で二人の評価が逆転した。
「どうすれば剣の腕が上達するでしょうか?」
「まず剣は諦めた方がいいな」
「ええっ!?」
俺が即答すると、クルスは悲鳴めいた声を上げた。
ぶっちゃけ、彼には剣の才能がない。なにせ〈剣技〉の成長速度がDなのだ。よく+2まで上げたとは思うが、今後も剣をメインにしていくのは厳しいだろう。
「だからと言って槍もダメだな。一時期、使っていたみたいだけどな」
「な、何でそれを知ってるんですか!?」
〈槍技〉のスキルを持っていたからな。ちなみにこの成長速度もDだ。
クルス
〈弓技〉E
〈体技〉D
〈鞭技〉D
〈斧技〉E
〈拳技〉D
てか、武技スキルは全体的にダメだ。
だが――
「魔法を覚えるんだ。そうだな……まずは火魔法がいいだろう」
「ま、魔法ですか? でも僕、魔法なんて使ったこと無いのですが……」
クルスは困惑している。
彼だけではなく、俺が〈神眼〉というスキルを持っていることを知らない俺以外は全員、頭に疑問符を浮かべていた。
まぁ普通はこんなピンポイントなアドバイス、不可能だもんな。
よし、サービスだ。
幸い彼の信仰度が5%あったので、俺は〈賜物授与〉で〈火魔法〉の熟練値の一部を譲渡してやった。〈賜物授与〉が+2になったことで、どのみち後で熟練値を回収できるようになったしな。
クルス
スキル獲得:〈火魔法〉
「とりあえずやってみよう。初級のファイアボールからさ」
「は、はい……」
腑に落ちない顔をしつつも、クルスは俺の言う通りに詠唱を始めた。
「――ファイアボール」
クルスの手から放たれた火の玉が、近くの壁を焼いた。
「で、できた!?」
「うそ!? クルス、魔法使えたの!?」
「使えないよ!? いや、使えなかったはずだよ!」
魔法を習得する難しさを知っている魔法使いのレナが、目を丸くして驚いている。
「あとは土魔法と雷魔法だな。水魔法とか氷魔法、あと風魔法はやめておいた方がいい」
俺は続けてアドバイスする。
ちなみに彼の魔法スキルの成長速度はこんな感じ。
クルス
〈火魔法〉B
〈水魔法〉D
〈風魔法〉D
〈土魔法〉B
〈氷魔法〉D
〈雷魔法〉C
「あんた、何でそんなことが分かるのよ?」
「いや何となく。勘で」
アンジュが問い詰めてくるが、俺は適当にはぐらかした。
「パパはすごいの!」
「勘って……」
傍から見ると百発百中の占い師みたいなものだよな。
とは言えこの世界、超人なんて珍しくはない。そういうものかと、クルスたちは納得してくれたようだ。
「これからは剣と魔法を併用する戦い方をしていくんだ。戦術の幅がぐっと広がるぞ。Cランクくらいすぐに昇格できるだろう」
「は、はい! ありがとうございます!」
「もしかしてオレも魔法が使えたりするのかっ?」
ハンバルが前のめり気味に訊いてくるが、俺は首を左右に振った。
「いや、無理だな。ハンバルは今の戦い方が合っている。強いて言えば、剣より斧の方がいいかもしれないくらいか」
「そ、そうか……」
残念ながら彼の魔法スキルの成長速度は大半がEだった。
「レナはぜひ闇魔法を覚えよう」
「闇魔法、ですか……?」
「ああ。敵の視界を奪ったり、影を操ったり、人や物を隠蔽したりと、なかなか便利で強力な魔法だ」
「地味……」
「確かに地味な魔法だけどな。けど、レナにはその魔法の才能がある」
ちなみに成長速度はB。
ルノアほどではないが、集中して練習すればすぐに上達することだろう。
「わ、分かりました」
少し気乗りしない感じだが、これまで見てきた傾向として、成長速度の高さは当人の好みと一致している場合が多い。なので、やってみたら気に入るかもしれない。
レナ
スキル獲得:〈闇魔法〉
彼女にも熟練値を譲渡する。
光を消失させて相手の視界を奪うブラックアウトはゴーレム相手には効きにくいため、影を縫い付けるシャドウバインドを練習させてみた。
クルスのように一発では成功しなかったが、
「シャドウバインド!」
「うおっ、マジで動けないぞ!?」
実験台となったハンバルが目を剥いた。
「すっご~いっ! これ、すっごく便利っ!」
歓声を上げるレナ。彼女もDランクの冒険者だ。闇魔法が戦闘でいかに役立つか、すぐに理解したようだ。
「それからミシャだが」
「ひゃ、ひゃい……」
俺が視線を向けると、ミシャはビクッとしてレナの後ろに隠れてしまった。
「君は鞭だ」
「む、鞭、ですか……?」
「ああ」
ミシャ
〈剣技〉C
〈短剣技〉B
〈鞭技〉A
〈弓技〉B
内向きな性格だが、意外にも武技スキルの才能がクルスよりよっぽど高い。中でも〈鞭技〉は天才と称しても良いくらいの適性がある。
「スラぽん」
『……!』
俺はスラぽんの保管庫から鞭を取り出した。
初期の頃、ニーナに色んな武器を試させていたのだが、そのときに彼女が使っていた鞭である。
「今、どこから鞭が……?」
「従魔のスライムから?」
「そもそもスライムの従魔なんて……」
そこらのスライムと違って、スラぽんは特別なのだよ。
「が、がんばってみますっ……」
鞭を手に、ミシャが拳を握り締める。
鞭であればロングレンジで攻撃ができるため、魔物に近づくのが苦手でも大丈夫だ。
レイジ
スキル喪失:〈鞭技+2〉→〈鞭技+1〉
ミシャ
スキル獲得:〈鞭技〉
彼女にも熟練値を譲渡しておいた。俺のスキルレベルが下がってしまったが、鞭を使うことなんてまずないので問題ない。
その後、試しに一戦交えてみようと、俺たちはゴーレムのいる場所まで移動した。
ストーンゴーレムが二体に、アイアンゴーレムが一体。ちょうどいい相手だろう。
こっちに迫ってくるが、まだ距離がある内にクルスがファイアボールを連射した。
「っ、あの左端だけ燃え方が違う! アイアンゴーレムかもしれないから気を付けよう!」
俺はあえて上位種が交じっていることを教えなかったのだが、良い見分け方だな。ちゃんと考えながら戦っているようだ。
「じゃあ私が足止めするね! シャドウバインド!」
レナがアイアンゴーレムの影を縫い止めた。これでストーンゴーレム二体が先行して襲い掛かってくる形になった。
「え、えいっ」
ミシャが鞭を振るうと、バシッ、と心地いい音が響いた。二体のストーンゴーレムの脚部を纏めて抉り、機動力を奪う。
ここまですべて、今までの彼らにはできなかった戦い方だ。
「下がっていろ」
そこでハンバルが盾を構えて前に出た。
彼がストーンゴーレム二体を一手に引き受け、横からクルスが剣で援護する。この辺は今まで通りの戦い方だろう。
ステータスで勝っている彼らは、すぐにストーンゴーレム二体を片付けた。
続いて、ちょうどシャドウバインドから抜け出したところだったアイアンゴーレムへ二人掛かりで襲いかかり、圧倒する。そしてあっさりと撃破した。
「すごい! 戦い方の幅が一気に広がったよ!」
「楽勝だったな」
「どうしちゃったのよ、ミシャ! まさかあんなに上手く鞭を使えたなんて」
「わ、わたしも、びっくりで……」
「レイジさん、ありがとうございます!」
ちょうどパーティ戦力が頭打ちしかけ、苦しんでいたときに光明を得たのだ。よほど嬉しかったのか、四人とも大はしゃぎである。
クルス:信仰度45%
ハンバル:信仰度20%
レナ:信仰度35%
ミシャ:信仰度30%
俺としても新たな信者を獲得できてまさにWin―Winだな。
それからしばらく一緒に進んだ後、俺は彼らに提案した。
「よし、せっかくだし階層主でも倒してみるか」
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