第40話 九竜の潜窟
王都にあるダンジョン『九竜の潜窟』は全部で九つの階層に分かれているという。
ちょっと少ないように聞こえるかもしれないが、一つの階層が物凄く広いのだ。
現在俺たちが進んでいる第一層も、その面積が王都の広さに匹敵するという。
しかも「迷路フロア」と呼ばれている通り、通路が怖ろしく複雑に入り組んでいる。
ただ、すでに正確なマッピングがなされており、地図を持っていれば迷うことはない。それでもゴールに辿りつくまで四時間近くはかかるそうだが。
もちろん、モンスターも出現する。
「はぁっ!」
「ライトニングバーストなの」
アンジュの拳が甲冑を着た騎士の彫像を吹き飛ばし、ルノアの魔法が同じく騎士の彫像を爆砕した。
動く石像――ゴーレムである。
ストーンゴーレム
レベル:18
スキル:〈剣技+1〉〈盾技+1〉
通路の両側に配置されている騎士の彫像が、近くを通ると動き出して襲いかかってくるのだ。
石像ゆえにその硬さは厄介だが、これくらいのレベルなら今の俺たちの敵ではない。プログラムされた動きしかできないゴーレムだからか、レベルの割にスキルが大したことないしな。
ストーンゴーレム
レベル:18
スキル:〈拳技+1〉〈蹴技+1〉
ストーンゴーレム・キャバルリー
レベル:20
スキル:〈槍技+1〉〈騎乗+1〉
剣と盾を持っているゴーレムが基本だが、中には徒手空拳で戦ってくる奴や、馬の彫像に跨っている奴もいた。
アイアンゴーレム
レベル:22
スキル:〈剣技+1〉〈盾技+1〉
少しだけ厄介なのが、鉄製のゴーレムだ。
石製のストーンゴーレムより防御力が高い上に、普通はストーンゴーレムと見分けがつかない。俺の場合は〈神眼〉があるから見極められるが。
「硬い」
ちょうどそのアイアンゴーレムと戦っているファンも、若干やりにくそうだ。しかし硬いと言いつつも、あっさり胴体を両断してのけている。
ゴーレムたちは粉々になっても動く。そしてどういう仕組みか分からないが、放置しているとやがて元通りになるらしい。つまり基本的には永久にモンスターとして機能し続けるようだ。
ちょっと意地悪して、スラぽんとスラいちに〈吸収〉させてみた。
Q:この場合どうなる?
A:ダンジョンマスターが再配置する。
ダンジョンマスターに余計な手間をかけさせることになるようだ。
それにしても〈神智〉は久しぶりの登場だな……。
また、ゴーレムの身体の一部をダンジョンの外に持っていくと、その機能を失うらしい。つまりただの石や鉄となる。
ミスリルゴーレムという上位種もいるらしく、中にはこいつばかり狙っている冒険者もいるそうだ。
「そろそろ半分だな」
第一層のゴールまで残り半分、という地点まで来たところで、少し休憩を取ることにした。
ステータスの恩恵もあってまったく疲れてはいないが、特に急ぐ必要もないしな。
「急げ!」
「だめっ、追い付かれちゃう!」
「もう、限界っ」
「諦めるな!」
スラいちの保管庫から軽食を取り出して摘まんでいると、通路の向こうから悲鳴のようなものが聞こえてきた。
四人組の冒険者がゴーレムに追い駆けられていた。
新しい信者獲得のチャーンス! とばかりに、俺はすぐさま彼らの下へと駆けつけた。
先頭を走る少女が俺の姿に気づき、必死の形相で懇願してくる。
「っ、同業者!? お、お願いっ、助け――」
「手を貸そう!」
言い終わる前に俺は宙を舞っていた。〈天翔〉で彼らの頭上を飛び越える。
「なっ……飛んだ……?」
「なんて跳躍力なの……っ!?」
彼らを追い駆けていたのは騎兵タイプのゴーレムたちだった。しかも、アイアンゴーレム・キャバルリーを筆頭に五体。
「グラウンドウォール!」
俺は土魔法で、彼らの足元に低い土の壁を出現させた。
足を引っ掛け、雪崩を打ったようにゴーレムたちが次々と転倒する。
唯一、最後尾にいた一体が地面を転がる味方を乗り越え、そのまま突撃してきた。
アイアンゴーレム・キャバルリー
レベル:24
スキル:〈槍技+1〉〈騎乗+1〉
こいつがアイアンゴーレム・キャバルリーだ。
迫りくる馬体。しかし俺のすぐ目の前で見えない壁――結界に激突する。
初級結界魔法のバーリアだ。
パァン、と風船が割れるような音が響いてすぐに結界は破られてしまったが、突進を停止させることはできた。
まずは馬の頭を刹竜剣で刎ねると、返す刀で前脚二本を切断。どうっ、と前のめりに倒れ込んできたところで、今度は騎士の腕を手にした槍ごと断ち切ってやった。
そのときには先ほど倒れたゴーレムたちが起き上りかけていたが、そこへファンやアンジュが加勢してくる。
ゴーレム五体はあっという間に蹴散らされた。
「本当に助かりました」
ゴーレムを殲滅した後、四人組のリーダー格と思われる少年が丁寧に頭を下げてきた。
金髪の好青年だ。冒険者らしい荒っぽさはなく、顔つきから人の好さが滲み出ている。
クルス 19歳
種族:人間族(ヒューマン)
レベル:22
スキル:〈剣技+2〉〈槍技〉〈指揮+2〉〈動体視力+1〉
称号:中級冒険者(Dランク)
専門は剣なのだろうが、レベルの割にちょっと熟練値が低いな。
「いや、間に合ってよかったよ」
俺より少し年下だし、フランクに話しかける。
「……くそっ、まさか騎兵タイプがあれだけ同時に現れるなんて思わなかったぜ」
礼もそこそこに悔しげに悪態をついているのは、小太りの青年。こいつはちょっとプライドが高そうな奴だな。
ハンバル 21歳
種族:人間族(ヒューマン)
レベル:21
スキル:〈剣技+2〉〈盾技+3〉〈怪力+2〉〈胆力+1〉
称号:上級冒険者(Cランク)
パーティの盾役(タンク)といったところか。レベルはクルスより低いが、Cランクだ。スキルの熟練値の違いだろう。
「騎兵タイプのゴーレムをあんなに簡単に倒してしまうなんて、お強いんですねっ」
「も、もしかして、有名な冒険者さんかな……?」
ちょっとだけ演技っぽい尊敬の眼差しを向けてくるのは茶髪の少女。小柄だが美人で、学校ならクラスのアイドル的なポジションに居そうな感じ。
最後の一人は、いかにも人見知りの激しそうな子で、茶髪少女の後ろに隠れている。
レナ 19歳
種族:人間族(ヒューマン)
レベル:22
スキル:〈風魔法+2〉〈水魔法〉〈杖技+1〉
称号:中級冒険者(Dランク)
ミシャ 18歳
種族:猫人族
レベル:17
スキル:〈爪技〉〈嗅覚+1〉〈聴覚〉〈料理〉
称号:中級冒険者(Dランク)
レナは魔法使いで、ミシャは………何だろうな? 一応Dランクではあるが、一人だけレベルが低いし……。一番大きなリュックを背負っているし、荷物持ちだろうか。
「あ、申し遅れました。僕はクルス。Dランク冒険者のクルスです。このパーティでリーダーを務めています」
「俺はレイジ。Bランク冒険者だ。俺も一応、このパーティのリーダーをしている」
「私はファン。Cランク」
「あたしはアンジュ。Bランクよ」
「ルノアなの」
えっ、Bランク!? と四人組がざわめいた。
「道理で強いわけですね……」
「けど、Bランクが二人いるパーティって言ったら、かなり限られているはずだぜ? 聞いたことねぇぞ」
「つい先日、王都に来たばかりだからな。このダンジョンに潜るのは今日が初めてだよ」
太っちょに答える俺。
「れ、レナちゃん……こ、こんな小さな子も、冒険者なのかな……?」
人見知り猫人族がおずおずと疑問を口にし、アイドル少女が首を傾げた。
「うーん? 冒険者って年齢制限があった気が?」
「ルノアは俺の養女だ。冒険者じゃないが、ぶっちゃけBランク並みの強さはあるぞ」
ちなみに今、ルノアは新しく覚えた闇魔法で角や背中の翼を隠蔽している。光の反射を抑え、見えなくしているのだ。
帽子に擬態していたスラいちは、今はストールに擬態して彼女の首に巻き付いていた。
……さて。
せっかくだし、もう少し恩を売っておこうかな?
「ところで――」
「あのっ、レイジさんっ」
俺が言いかけたときだった。クルスが意を決したように頼み込んできた。
「お願いがあります! 僕、もっと強くなりたいんです! どうすればいいか、教えていただけないでしょうかっ?」
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