第38話 クラン・レイジ始動
昇格試験に合格した俺は、晴れてBランク冒険者となった。
それによりクランを立ち上げる権利が得られたので、早速、手続きをした。
「クラン・レイジ」の誕生だ。
クランを持つと、特権の一つとしてギルド内にある一室を常時、借り受けることができる。部室みたいなものだな。
「悪くないな」
ニーナ、ファン、ルノア、それからアンジュを連れて部屋を見に来てみたのだが、思っていた以上に広かった。
パーティのリーダーを集め、会議をしたりするのに使えそうだ。
もっとも、あまりここを利用する機会はないだろうが。
冒険者やパーティがクランに加入する一番の目的は、有名な冒険者の庇護下に入ることでギルドや依頼主からの信頼を得ることだ。
だからこそ、クランの代表者は「顔」となれるだけの実力と実績が必要で、Bランク以上という条件が設けられているのである。
ここ王都において、俺はほぼ無名だ。
クランを大きくしていくためには、これから王都で実績を上げていく必要がある。
「クランですか。珍しいですね。最近の冒険者は必要以上の慣れ合いは好まない傾向がありますので、王都でもこれまで二つしかなかったはずです」
と、不意に入口の方からそんな声が聞こえてきた。
Aランク冒険者のディアナだ。
「……っ!」
アンジュが野獣のような鋭い目で睨みつける。今にも襲いかかりそうだ。
俺はそんなアンジュを制しつつ、
「そうなんですか、ディアナさん」
「ふふ、ディアナで構いませんよ。わたくしの方が年下だと思いますし」
「……そうか。じゃあ、ディアナと呼ばせてもらうよ」
ちょっと迷ったが、俺は砕けた口調で話ことにした。
しかし俺に何の用だろうか。
「実はレイジさんのファースの街での活躍ぶりを聞かせていただきまして。なんでも、オークキングを瞬殺されたとか」
瞬殺はしてないぞ。どうやら妙な尾ひれがついて伝わっているらしい。
まぁこの世界の情報伝達手段は貧弱だからな。誇張されたり逆に過小に伝わっていたりすることが多い。
「アンジュさんもレイジさんのパーティメンバーだったんですね」
「ち、違うわよ! あたしがこんな奴とパーティを組む訳ないでしょ!」
ディアナの勘違いに、全力で反論するアンジュ。
本当は組みたいくせに。素直じゃない奴だ。
「わたくしは基本的にソロで活動しているのですが、今度機会があれば、ぜひ冒険にご一緒させてください。王都での活躍にも期待しています。お二人とも、昇格おめでとうございます」
そう言い残して、ディアナは去っていった。
どうやらわざわざ昇格を祝いにきてくれたらしい。試験の時点で昇格は決まっていたが、一応、正式には受付で新しいギルド証を受け取って初めて昇格らしいからな。
律儀な奴だ。
◇ ◇ ◇
翌日、俺はニーナを連れて王都の南東にある工房地区へとやってきていた。
小さな工房が所狭しと並んでいて、あちこちから金属を叩く音が聞こえてくる。
「ドワーフがいっぱいなのです……っ!」
大勢の同族を前に、ニーナが緊張とも興奮ともつかない表情をしている。
ドワーフは鍛冶や細工が得意だからな。工房で働いている者が多いのだろう。
俺はニーナに鍛冶をやらせるつもりだった。
〈神眼〉で見た彼女の鍛冶スキルの成長速度はS。これだけの才能があるというのに、活かさないのは勿体ない。
「に、ニーナ、武器を作る工程すら知らないのです……」
「それはこれから覚えていけばいい」
俺たちがやってきたのは、数ある工房の中でも一際立派な工房――ではなく、一際みすぼらしい小さな工房だった。
「……で、弟子入りしたい……? ぼ、僕の工房に……?」
顔のほとんどが髭に覆われたドワーフのおっさんが出てくる。
彼がこの工房の親方である。と言っても、彼以外に鍛冶師はいないのだが。
ボグニア 48歳
種族:ドワーフ
レベル:8
スキル:〈鍛冶+3〉〈採掘〉〈細工+3〉〈創造力+1〉〈火魔法〉
称号:中級鍛冶師
俺の〈神眼〉にかかれば、彼の鍛冶師としての実力など一目瞭然だ。
……うん、微妙。
鍛冶師の称号は、下から下級鍛冶師、中級鍛冶師、上級鍛冶師ときて、さらにその上に特級鍛冶師や神級鍛冶師がある。
事前に調べてみたところ、工房で親方をやっているような鍛冶師はその大半が上級鍛冶師だ。
中途半端な実力しかないが独立した工房を持っている彼に、弟子がいないのは当然のことだろう。ニーナの弟子入りをお願いして驚いているのはそのせいだ。
「ほ、本当にいいのかい……? 工房は他にもたくさんあるんだよ……?」
むしろ他の工房を勧める始末である。どんだけ自分に自信がないんだよ、このおっさん。
「ええ、もちろんです。それから、彼女が鍛冶を学ぶ上で必要となる経費はすべてこちらがお出しします。あと、これらも自由にお使いください」
「せ、聖銀鉱がこんなに……っ?」
ぶっちゃけニーナに必要なのは師匠じゃない。
鍛冶をするための場所や道具だ。
最低限の知識を与えてくれる先達がいれば、後は自分で勝手に成長していってくれるだろう。成長度Sというのはそれくらいの才能だ。むしろ下手な師匠はいない方がいい。
「わ、わかりました……っ!」
俺が出来たてほやほやのランクBのギルド証を見せたこともあり、ボグニアは快く引き受けてくれた。
……おっと、そうだ。
俺が持ってる〈鍛冶〉や〈細工〉のスキル、彼女に譲渡しておこう。
レイジ
スキル喪失:〈鍛冶〉〈細工〉〈創造力〉〈審美眼〉
ニーナ
スキル獲得:〈鍛冶〉〈細工〉〈創造力〉〈審美眼〉
「じゃあ、頑張れよ、ニーナ」
「は、はいなのです!」
彼女をおっさんと二人きりにするのは少し不安だが、まぁあれだけステータスに差があるしな。たとえ襲われても瞬殺だろう。
◇ ◇ ◇
ニーナと別れた俺は、その足でとある場所へと足を運んでいた。
工房地区もごちゃごちゃとした場所だったが、ここはさらに酷い。今にも崩れそうな家も多く、どこからともなく何とも言えない悪臭が漂ってくる。
住民たちは皆、薄汚れた服に身を包んでいた。
貧民街(スラム)である。
その一角に孤児院があった。
石造の平屋建て。ファースの街の孤児院と比較しても、外観はさらにボロい。
俺は敷地内で遊んでいた子供に声をかけ、院長を呼んできてもらった。
しばらく待っていると、意外にもまだ若い女性が出てくる。
レベカ 21歳
種族:人間族
レベル:4
スキル:〈慈愛〉〈子育て+1〉〈料理〉〈空腹耐性〉
称号:孤児院院長
ファースで孤児院をやっていた元冒険者のアルナと違い、普通の人のようだな。しかし年齢の割に随分とやつれている。頬がこけていて、身体も随分と細い。
そう言えば、さっきいた子供たちも明らかに栄養不足という感じだったな。
「あの、一体どのようなご用件でしょうか……?」
いきなり現れた俺のことを少し警戒しているようだ。人相は悪くない方だと思うんだが……背中に剣を背負ってるせいだろうか?
俺は単刀直入に用件を告げた。
「この孤児院を取り壊して、ここに俺のクランの本部を建てたいと思ってます」
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