第34話 とある邪神の自作自演(マッチポンプ)

「すごい! レイジくん、本当にすごいよ!」


 周囲が勝利の歓声に沸く中、リザは人一倍興奮していた。

 ゴブリンリーダーに襲われていた自分たちを助けてくれたときから、この人はいずれ大物になるだろうとは思っていた。


 それでも、あのときの彼はまだ駆け出しの自分たちとそれほど大きな差はなかった。

 まさか、この短期間でオークキングを倒せるほどになるなんて。

 一体、どんな速度で成長しているというのだろう。


「驚いたわね……」


 リザのすぐ隣では、パーティメンバーのミルフィが感嘆の声を漏らしていた。

 いつも冷静であまり感情を表に出さない彼女だが、今ばかりはさすがに興奮を隠し切れない様子だ。


「ほら、やっぱりレイジくんはすごいでしょ!」

「そ、そんな勝ち誇った顔向けなくても。もちろん私だってそう思っていたわよ」

「うそだー。あたしとメアリがレイジくんのことを話してても、いっつもミルフィだけ我関せずって感じじゃん!」

「単にミーハーなのが嫌いなだけよ」

「ミーハーじゃないもん! あたしは……そ、その……ほ、本気だもん……」


 恥ずかしさから声が小さくなってしまうリザ。


「め、メアリだってそうだよね!?」


 救いを求めるように、もう一人のパーティメンバーであるメアリへと問いかけた。


「……あれは、神……わたしには後光が見える……」


 メアリは何やらぶつぶつと呟きながら、レイジへと熱っぽい視線を向けていた。

 リザは若干引きつつ、


「メアリ……?」

「……彼を讃えよ……彼を崇めよ……」


 どうやら自分とは決定的に方向性が異なっていたらしい。


 ・リザ:信仰度 60% → 80%

 ・ミルフィ:信仰度 20% → 45%

 ・メアリ:信仰度 55% → 85%



   ◇ ◇ ◇



「やっぱ俺の眼に狂いは無かったみてぇだな!」

「……何でそんな偉そうなのですか」


 はっはっは、と豪快に笑うバルドックに、ククリアが呆れたようにジト目を向ける。


「さすが! さすがです師匠! 僕、一生師匠に付いて行きますっ!!!!」


 その隣ではロッキが勝手にそんなことを宣言していた。

 最近、彼は勝手にレイジのことを師匠と呼んでいるのだ。

 いつの間に弟子入りしたのかとククリアが訊いてみると、「心の師匠ですよ!」という答えが返ってきたので、それ以上は深く突っ込まないことにしている。


 ・バルドック:信仰度 20% → 35%

 ・ククリア:信仰度 30% → 45%

 ・ロッキ:信仰度 60% → 80%



   ◇ ◇ ◇



 この戦い、セルカはかなり厳しいものになると覚悟していた。


 下手をすれば、いや、高確率でオークたちの侵入を許してしまい、街には尋常ではないレベルの被害が出ると思っていた。

 そして当然、オークの群れを迎え撃つ冒険者たちは、その大半が命を落とすことになるだろう、と。


 だが――


「まさか、オークキングをほとんど単独で倒してしまうとは……」


 セルカは唖然としていた。

 オークキングは危険度Aの魔物だ。進化して間もないからか、まだ成長途中という印象ではあったが、それでもソロでの討伐などというマネができるのは、せいぜいランクAの冒険者くらいだろう。


 なのに、まだCランクの冒険者が――彼女が矢で少し援護したものの――ほぼ一人でオークキングを撃破してみせたのだ。


 決してマグレなどではない。奇襲とは言えオークジェネラルを瞬殺し、中級の雷魔法でオークを次々と倒し、さらには空中を走るなどという信じられない技まで披露してみせたのだ。そう言えば、重力魔法も。


 戦いの目撃者の中に、マグレでオークキングを倒したと思う者など一人もいないだろう。


「過去の英雄たちにも劣らない……。レイジさん、どうやらあなたは本物のようですね」


 ・セルカ:信仰度 35% → 70%



  ◇ ◇ ◇



 オークの群れを殲滅したあと、街では盛大な祝勝会が行われた。

 今日の俺の活躍はあっという間に街中へと広がり、人々は俺のことを「英雄」と讃えた。


 お陰で信者がいっぱい増えました。

 その結果――


レイジ

 レベルアップ:38 → 40

 スキルアップ:〈剣技+6〉→〈剣技+7〉 〈槍技+1〉→〈槍技+3〉 〈盾技+1〉→〈盾技+2〉 〈弓技+2〉→〈弓技+4〉 〈杖技〉→〈杖技+1〉 〈体術+3〉→〈体術+4〉 〈火魔法+3〉→〈火魔法+4〉 〈水魔法+1〉→〈水魔法+2〉 〈風魔法+1〉→〈風魔法+3〉 〈土魔法+1〉→〈土魔法+2〉 〈回復魔法+1〉→〈回復魔法+3〉 〈望遠〉→〈望遠+3〉 〈高速詠唱〉→〈高速詠唱+1〉 〈隠密+1〉→〈隠密+2〉 〈頑丈+5〉→〈頑丈+6〉 〈怪力+5〉→〈怪力+6〉

 スキル獲得:〈氷魔法〉〈光魔法+1〉〈結界魔法〉〈召喚魔法〉〈一撃必殺〉〈並列思考〉〈精力増強〉〈性技〉〈鍛冶〉〈細工〉〈裁縫〉〈創造力〉〈審美眼〉〈執筆〉〈算術〉〈酒豪+1〉〈酔拳〉〈大食い〉〈交渉力〉〈孤独耐性+2〉〈第六感〉〈幸運〉


 今まで持ってなかったスキルが大量に手に入ったな。

 てか、この世界にも〈酔拳〉なんてあるのかよ。〈孤独耐性〉はいきなり+2なんだが、随分と孤独に生きている奴が多いみたいだな……。


〈一撃必殺〉というのは急所を突く確率が高くなるスキルらしい。〈第六感〉や〈幸運〉も地味に役立ちそうだな。


レイジ

 スキルアップ:〈賜物授与+1〉→〈賜物授与+2〉


 加えて〈賜物授与〉の段階が上がった。


 Q:〈賜物授与+2〉って?

 A:経験値、および熟練値を信者に譲渡することができる神固有のスキル。マイナス量を譲渡することも可能。離れていても対象を思い浮かべることで譲渡可能。


 そう言えば今まで、譲渡した分を取り返すことってできなかったんだよなぁ。

 マイナス量を譲渡することが可能ってことは、譲渡した分を取り戻すことができるし、それどころか相手から強引に奪うこともできるってことだろう。もはや授与じゃねぇ。


 まぁ状況に応じて自由に力の受け渡しができるようになったということは、戦術の幅が広がるということなのでありがたい話だ。






 祝勝会の途中。

 俺はこっそりと抜け出し、街の外へとやって来ていた。


 しばらくすると、空からびゅーんと小さな人影が降りてきて俺のすぐ目の前に着地した。


「パパ!」


 ルノアだ。

 しかし良いなぁ、〈翼飛行〉。〈天翔〉よりもずっと速く飛べるし。

 残念ながら翼のない俺には使えないスキルだが。


「お帰り、ルノア」

「うん!」


 ルノアは無邪気に俺の胸に飛び込んでくる。


「一人でよく頑張ったな」

「スラいちもいっしょだったから、へいきだったの!」

『……!』


 ルノアの帽子に擬態しているスラいちがぷるんと震えた。


「ルノアね、パパに言われたとーりにしたの! ぶたさんたちにね、ひがしにいくようにって!」


 はい。

 そうです。


 実 は マ ッ チ ポ ン プ で し た。


 ルノアに頼んで黒魔法でオークキングを洗脳してもらい、オークたちに東へ進軍するよう仕向けたのは俺でした。


 だってさ、単に討伐するだけより、もっと危機的な状況から救ってやった方が信仰が深まるじゃん?


 オークキングよりレベルの高いルノアだからこそできる芸当だ。

 もっとも、相手の意志に反することをやらせようとすると難易度が跳ね上がるが、今回の場合、「群れを引き連れて人間の街を襲う」というのは、比較的オークキングの意志に沿ったものだったからな。


「偉い偉い」

「えへへ」


 俺が頭を撫でてやると、ルノアは気持ちよさそうにほにゃっと頬を弛緩させた。


「ルノアはちゃんとパパの言うことをきいてくれるから本当に助かるよ。これからも頼むな」

「うん! ルノアがんばる!」


 この光景だけ見ると普通に仲のいい親子だよな。

 でも残念! 邪神と悪魔でしたー。


 くくく……やはりパパになってやったのは正解だったぜ。






 翌朝、俺は二日酔いに悩まされていた。

 うーむ。昨日、調子に乗ってちょっと飲み過ぎてしまったか。〈酒豪+1〉スキルが手に入ったからと言って、さすがに限度があったらしい。


 窓の外を見ると、すでに日は昇り切っている。

 昨日はかなり遅くまで飲んでたからな。一応、祝勝会の主役だし、先に帰る訳にも行かなかったのだ。


「パパ……だいしゅき……」


 ベッドの上ではまだルノアが寝ている。


 いやね? 最初はニーナたちと一緒の部屋にするつもりだったよ?

 けど、ルノアがどうしてもって聞かなくてね?

 父親に甘えちゃうのは仕方ないことだよね?

 別に俺はロリコンじゃないからね?


『やっほー、おひさー☆』


 そのとき突然、脳内に声が響いた。

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