第35話 1465人

『やっほー、元気にしてたかなー? みんな大好き、世紀のアイドル、超絶美少女天使のハルエルちゃん再登場でーす☆!』

「チェンジ」

『おーっと、レイジ選手、いきなり無慈悲なチェンジ宣言だぁー。でもざんね~ん! ハルエルちゃんはチェンジできない仕様になっておりまーすキャピ』


 とりあえずウザい。


「お前、今まで何してたんだよ? あれからもう一か月以上経つぞ。何のチュートリアルもなしに放置しやがって」

『天使界も色々と忙しいんだヨー? 合コンとかー、街コンとか、あと婚パとかさー』

「どんだけ異性求めてんだよ」


 そんな天使は嫌だ。


「で、一体何の用だ?」

『用がないと来ちゃダメなの?カナシー』

「嫌いな奴から言われると一番イラつく台詞だよな、それ」

『ひっどー』


 ハルエルは言葉とは裏腹に気にしている様子はない。だからこそイラつくんだが。


『それよりさー、ハルエルちゃん、びっくりだよ? まさかこの短期間で、こんなに信者を増やすなんて!オドロキ 普通、新参の神様は何十年もかけて、ほんとに地道に信仰を広げていくものなのにねー』

「いや、これくらい当然だろ?」

『言うねー』



「だって俺、地上に肉体があるから自分の手で信者増やしていけるし」



『ふふふふふー。さっすがだねー。そのことに気づくなんて』

「いや普通に分かるだろ。《神智図書館》で調べたら、天界にいる神たちは基本的にこの地上に降りてくることはできないらしいし」


 天界に存在する他の神たちが地上に干渉するには様々な制約がある。


 例えば、彼らは相手が信者でなければ声をかけることもできない。

 ならば他の信者を通じて意志を伝えるしかないのだが、信仰度が低いうちは信者と言えど神の意志が伝わりにくい。じゃあ最初の一人をどうやって信者にするかと言うと、それは神の導きに自力で気づいてもらうしかなく、時には勘違いで別の神への信仰度が上がったりすることもあるらしい。


 他にも巫女や神官に神降ろしをしてもらうことで初めて地上に顕現することができたりと、考えただけで面倒くさそうだな。


 一方、俺は直接人々と接し、交流することで信仰度を上げていくことができる。

 なぜなら地上に肉体があるから。

 俺と他の神たちの一番の違いは、俺が人間であるということなのだ。


 まぁそりゃそうだよな。

 普通は人間の身に神の力を宿さないもんな。


 てなわけで、俺は凄まじい勢いで信者を増やしているのである。


「くくく、どいつもこいつもチョロイもんよ。ちょっとピンチを救ってやったり、善人を演じてやったりするだけで簡単に信者になるんだもんな」

『うっわー、すっごい悪い顔してるぅーコワイー』



 ちなみに以下が現在の信者状況である。


 総信者数:1465人(人外含む。以下同)


 信仰度内訳

  90%以上:1人

  80%以上90%未満:7人

  70%以上80%未満:4人

  60%以上70%未満:11人

  50%以上60%未満:8人

  40%以上50%未満:21人

  30%以上40%未満:49人

  20%以上30%未満:115人

  10%以上20%未満:204人

  1%以上10%未満:1046人



 10%未満の信者が多いが、それでもすでに千五百人近い。

 ファースの街の人口が三千人だから、ほとんど半分だ。


「だが俺はもっと信者を増やしていくつもりだ。そのためにはまず王都に行く。この街はそもそも人口が少ないからな」


 シルステル王国の王都、シルステル。

 人口はファースのざっと十倍で、三万人を超える。


 それに、王都には冒険者の数も多い。

 そこで俺はクランを立ち上げるつもりだ。


 クラン――簡単に言えば、複数の冒険者パーティからなる相互扶助的な集団のことだ。

 勝手に寄り集まって組織を作っている場合もあるが、ギルドに正式に登録すれば様々な特権を得ることが可能になる。


 クランには代表者の名前を付けることも多い。

 なので俺は「クラン・レイジ」にする予定だ。俺の感覚としてはちょっと恥ずかしいが、仕方がない。この方が宣伝になる。


 クラン加入のパーティが活躍すれば、代表者である俺の名も知れ渡るって寸法だ。


 ただし、クランの代表者はBランク以上の冒険者でなければならない。

 現在Cランクの俺はもう昇格試験を受ける資格を得ているのだが、Bランクへの昇格試験はファースのギルドでは受けられず、王都のギルドで受験しなければならないという。いずれにしても王都に行く必要があるのだ。


『ふふふ。君の活躍、ハルエルちゃんも楽しみにしてるよー』

「あっそ」

『ちょっと信者にできない相手の扱いが酷過ぎじゃないデスカ?』


 当然だろ。


『じゃー、頑張ってねー。バイチャ~☆』


 そう言い残し、ハルエルは念話を切った。

 バイチャなんて、久しぶりに聞いたぞ……。




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一章終了です。次話から王都編をスタートします。

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