第31話 他力本願で楽々スキルアップ!

 成長速度が分かるようになったことで、新たなスキルの獲得を効率よく行えるようになった。


「空中ジャンプ?」


 ファンが首を傾げ、俺の言葉を復唱した。


「ああ。足に纏った闘気を踏み台に、空中で跳躍するんだ」

「面白そう。やってみる」


 俺たちは今、街の外にやってきている。草原が広がっていて、訓練などにはもってこいの場所だ。


 ファンは全身に闘気を纏うと、それを足へと集中させていった。

 闘気というのは生命のエネルギーを収束させ、戦うための力へと変換させたものだ。そのため使うと生命値が減っていく。


 闘気を生み出すだけなら誰にでも可能だが、それを拳に集めて攻撃力を上げたり、特定の部位の防御力を上げたりするには、それなりの技術が必要だ。

 そのため〈闘気〉のスキルを持つ者は数が少ない。アマゾネスなんかも得意としているようだが、ファンもまた成長速度はA。すでに〈闘気+1〉を獲得していた。


 今から覚えようとしているのは、その闘気を使った応用スキル――〈天翔〉。

 その名の通り空中を歩く技術である。


 スキルの中には、こんなふうにあるスキルを習得していることを前提に獲得できるというスキルが幾つも存在するのである。

 もちろんこういった知識は、〈神智+1〉で《神智図書館》にアクセスすることで得たものだ。


 ちなみにファンの〈天翔〉の成長速度はBだ。

〈闘気〉の成長速度だけならアンジュもファンと同じA(正確にはファンより高く、A+と言ってもいい)なのだが、彼女の〈天翔〉の成長速度はDだった。

 というか大半の人の〈天翔〉の成長速度はEかFで、恐らく一生頑張っても習得できない者がほとんどなのだろう。


「空中でさらに跳ぶなんて、聞いたことないのです」

「ルノアもないの」

『……?』

『……?』


 ニーナやルノアたちが見守る中、ファンが地面を蹴った。

 二メートル近い垂直跳びだ。そして勢いが収まり跳躍の頂点に達した瞬間、ファンは空中を蹴る!


「っ! できた……?」


 ファンの身体が落下から再び上昇へと転じる。

 成功だ――と言っても、せいぜい十センチほど浮き上がっただけだが。


 それでも初めてのチャレンジとしては十分。

 練習していけば、いずれ〈天翔〉のスキルを獲得できるだろう。


 前の世界でも、練習を繰り返していると、あるとき突然できるようになった、というような現象があった。スキルの獲得はこれに似ている。


 ちなみに誰も見ていないところで俺も試しにやってみた。俺だって〈闘気+1〉を持ってるしな。


「……うおっ!?」


 ――結果は何度やっても、空中でずっこけたような無様な挙動になるだけでした。


 まぁ成長速度Eだもんな……分かってたさ……。

 大人しくファンが得る熟練値に期待することにしよう。


「もう一つ、闘気の応用技がある」


 さらに俺は、〈飛刃〉というスキルをファンに習得してもらうことにした。

 これは闘気の刃を飛ばす技術だ。


 武器にまで闘気を纏わせるというのは、〈闘気+1〉になってできるようになった応用技だが、これをさらに応用したのが〈飛刃〉である。

 ファンはこのスキルも成長速度がBだった。


 他にも闘気の応用として、〈残撃〉という斬った場所に闘気の刃を残し続けるスキルや、〈闘波〉という●めはめ波みたいなものを放つスキルもあったのだが、ファンの成長速度がCやDだったので習得は見送った。


 え? 俺? どっちもEだよ!


「ニーナも新しい技を覚えたいのです!」


 触発されたらしく、ニーナが主張してくる。

 うーん。しかしニーナの場合、戦闘スキルで目ぼしいものはないんだよなぁ。


〈投擲〉B

〈斧技〉C

〈剣技〉D

〈槍技〉D

〈弓技〉E


 こんな感じ。


 魔法の才能も全体的に低い。


〈火魔法〉C

〈水魔法〉E

〈風魔法〉D

〈土魔法〉C

〈雷魔法〉E


 ドワーフだからか、火と土の魔法がややマシなくらいか。

 という訳で、ニーナには今まで通り〈投擲〉と〈斧技〉の熟練値アップに取り組んでもらうことに。


「……しょんぼりなのです……」


 まぁそう気を落とすなよ。

 まだ計画段階だが、いずれ彼女には信者を増やすために重要な役目を担ってもらうつもりだ。


「サンダーストームなの」


 中級雷魔法が炸裂し、一帯に雷の嵐が降った。


「ハイグラビティなの」


 中級重力魔法により、地面がクレーターのごとく陥没する。


ルノア

 スキルアップ:〈雷魔法〉→〈雷魔法+1〉

 スキルアップ:〈重力魔法〉→〈重力魔法+1〉


 ルノアには魔法の訓練をさせている。

 彼女は武技スキルの才能は低いが、魔法は突出しているからな。

 すでに習得している黒魔法、雷魔法、重力魔法以外にも、成長速度の高いものは多い。


〈火魔法〉A

〈水魔法〉B

〈風魔法〉B

〈土魔法〉B

〈氷魔法〉B

〈雷魔法〉A

〈光魔法〉D

〈闇魔法〉A

〈黒魔法〉A

〈聖魔法〉E

〈召喚魔法〉B

〈重力魔法〉A

〈時空魔法〉C

〈結界魔法〉B

〈精霊魔法〉E

〈死霊魔法〉D

〈回復魔法〉A


 聖魔法というのはサントール村で聖騎士が使っていたが、黒魔法と対を成す魔法だ。魔族やアンデッドモンスターなどに高い効果があるという。もしかしたら邪神にも……ガクブル。


 召喚魔法はその名の通り、幻獣や聖獣などを召喚するための魔法だ。地下世界に住む悪魔も召喚できるらしい。


 時空魔法というのは、時間や空間に関する魔法だ。時間を止めたり巻き戻したり、あるいは空間を転移したりできるという、浪漫溢れる魔法である。

 超高難度の魔法だけあって、ルノアでも成長速度はCであるが、便利なのでぜひとも覚えさせたいところだ。


 精霊魔法は精霊を使役するための魔法のようだ。ルノアは使えないみたいだけどな。




 こうしてしばらくの間、俺たち(俺を除く)はスキルアップに励んだ。

 そんなある日のこと。

 冒険者ギルドを訪れた俺は、いつもと違う不穏な空気を感じ取った。


 受付嬢の鏡、いつも笑顔を絶やさないセルカも珍しく深刻な表情をしているな。

 彼女は俺に気付くとすぐに声を掛けてきた。


「あ、レイジさん! ちょうどいいところに!」

「何かあったんですか?」

「実はオーク山に、危険度Aの魔物――オークキングの出現が確認されたんです!」

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