第27話 聖騎士
ルノア 7歳
種族:ハーフデーモン
レベル:48
スキル:〈黒魔法〉〈翼飛行〉〈雷魔法〉〈重力魔法〉〈念話+1〉〈自然治癒力+2〉〈魔力吸収+1〉
称号:悪魔公爵の娘
状態:疲労(軽度)
磔にされている女の子のステータスを見た俺は、思わず息を呑んでいた。
レベル48って、今まで見た中で最高のレベルじゃないか。
実際、細かいステータス値を確認してみても、そのすべてにおいて圧倒的な数値だった。
7歳でこれなのか……ハーフデーモンとは言え、さすがは魔族の中でも最強種と言われる悪魔だ。
いや、彼女の場合、それだけではない。
悪魔公爵の娘。
この称号、どう考えてもヤバいやつだよな。
幼い少女は磔にされているだけでなく、強力な結界にも捕らわれていた。ただし内から外へ出ることを拒むものらしく、村人たちが投げる石は普通に少女に当たっている。
「あれは我々ディーン聖騎士団に伝わる魔族殺しの結界です」
と、立ち竦んでいた俺たちにいきなり話しかけてきたのは、白銀の鎧を纏う青年だった。一見すると人の良さそうな好青年である。
「見たところ冒険者のようですが、もしかして悪魔を討伐しにいらっしゃったのですか?」
「ああ」
「それはご苦労様でした。しかし、あの通りすでに悪魔は我々ディーン聖騎士団が捕獲いたしました」
どうやらこいつが門番が言っていた聖騎士らしい。他にも同じ鎧を着た者が何人かいる。結界を維持しているようだ。
リック
種族:人間族
レベル:27
スキル:〈剣技+3〉〈盾技+3〉〈聖魔法+1〉〈結界魔法+2〉〈忠誠+1〉〈対魔戦闘+1〉
称号:ディーン聖騎士団聖騎士 魔族殺し
〈神眼〉で鑑定してみた。
こいつ、〈対魔戦闘〉なんてスキルを持ってるぞ。
Q:ディーン聖騎士団って?
A:ディーン教徒たちで構成された騎士団。
Q:ディーン教って?
A:人間族の母とされる女神ディーンを最高神と崇める教団。人間族こそ最も優れた種族と見なし、亜人は劣等種、魔族は滅ぼすべき存在と考える。
〈神智〉で少し調べてみたが、どうやらかなり面倒な宗教のようだ。
この世界は多神教だ。実際に複数の神が存在しているしな。
ファースの街を含むシルステル王国でも、色んな神が信仰されている。と言ってもその信仰はかなり緩く、複数の神を信仰することが普通だった。そしてどの神にも優劣はないというのが一般的な考え方である。
だがディーン教はそうではない。女神ディーンこそが唯一絶対の最高神であり、他の神々はその配下だと教えているのである。
シルステル王国にも信徒が多少なりともいるようだが、東部で王国と領土を接している聖ディーナルス教国では国教とされている。
そう言えば、このサントールという街はディーナルスに近い。住民にディーン教徒が多いのだろう。
「結界内の魔族の動きを封じるとともに、聖なる力でその生命力を奪い続けているのです」
聖騎士は誇らしげに語ってくれる。
どうやらあの結界、結界魔法と聖魔法を複合させて生み出したもので、封じ込んだ悪魔の生命力を削っていくことができるらしい。
彼らにとって悪魔を殺すのは絶対の正義なのだ。
たとえそれが幼い子供であろうと。
「本当にあんな子が悪魔なの……?」
「間違いありません。あの角と翼は悪魔の最大の特徴です」
眉をひそめるアンジュに、聖騎士が断言する。
「でも、あんな幼い子供なのです……」
「……残酷」
「見た目に惑わされてはなりません! 悪魔はそうやって人の弱い心に付け込んでくるのです!」
突然、聖騎士がカッと目を見開いて声を荒らげた。
「しかもあれは悪魔と人の間に生まれた最も忌むべき存在! 一刻も早く浄化すべきなのです!」
その変貌ぶりに俺たちは唖然とする。
するとさすがに我に返ったのか、
「……確かに、ディーン教徒ではないあなた方には少々理解しがたいことかもしれませんね」
まるでこっちがおかしいみたいに言うの、やめてくれませんかね?
「女神ディーンはいつも我々を見守って下さっています。あなたにもきっとその慈悲を知る日が来ることでしょう」
たぶん永遠に来ることはないな。
邪神だし、俺。
「たとえ亜人であっても、女神ディーンに忠誠を誓うのであれば救われますよ」
ニーナやファンに向けてそんな台詞を残し、聖騎士は踵を返した。暗に劣等種扱いされ、二人とも微妙な表情をしている。
あの少女をすぐに殺そうとしないのは、見せしめのためか、それとも宗教的な意味があるのか、俺には分からない。
だが恐らく、あの結界で〝浄化〟することが悪魔の正式な殺し方なのだろう。
さて、どうするか。
1.悪魔のことは彼らに任せる。ファースの街に戻って報告しよう。
2.実際に悪魔を討伐すると報酬が上乗せされるので、横取りしてトドメを刺す。
3.あの女の子を助ける。
◇ ◇ ◇
夜。
俺たちは秘かに宿を抜け出し、広場へとやってきていた。
結界を維持し続けている聖騎士たちはもちろん、まだ村人の姿もちらほらと見受けられる。
それでも昼間の喧騒と比べれば随分と静かだった。
「本当にまだ無事なのです……?」
「あんな小さな子が、あの結界に長時間耐えられるとは思えないんだけど……」
「……心配」
『……!』
『?』
ニーナ、ファン、アンジュも一緒だ。スラぽんとスラいちも。
まぁ不安に思うのも無理はない。
だが彼女のステータスを見た俺は何の心配もしていなかった。
幼い少女は未だ磔にされたままだった。身動き一つとらないので、一見死んでいるかのように見えるが、
ルノア 7歳
生命687/694
HPは全然減ってない。
元より高い生命力に加えて、〈自然治癒力+3〉のスキルがある。聖魔法とやらで生命力を削っているらしいが、あれだと何日かかるか分からないぞ。
そもそもあれだけの強さがあれば、あんな結界くらい抜け出すのは容易いはずなのだが……。
「ここからは俺一人で行く」
〈隠密〉スキルを持つのは俺だけだ。最近〈隠密+1〉に上がったし、この夜闇に紛れればまず見つかることはないだろう。
さらに、
「スラぽん、頼んだぞ」
『……!』
小型化したスラぽんが広場の中央へと進んでいく。
〈保護色〉スキルを使ったスラぽんは闇と完全に同化していた。〈隠密〉を使っている俺以上の隠密状態だ。
やがてスラぽんが結界のところまで辿り着いたとき、
「今だ」
俺は空に向かって思いきりファイアボールを打ち上げた。
ゴウッ、と燃え盛る炎が闇を切り裂いた。
背後が突如として明るくなり、結界を維持していた二人の聖騎士が後ろを振り返った。
「なんだ!?」
「炎っ!?」
その瞬間、スラぽんが結界に身体を当て、〈吸収〉スキルを発動する。
俺はその間もファイアボールを連射している。もちろん聖騎士たちの注意を引きつけるためだ。
「あれはファイアボールか?」
「けど、誰もいないぞっ?」
聖騎士たちが困惑している間に、スラぽんの身体が結界を通り抜けた。
そして素早く女の子に近づくと、巨大化。
「……えっ!?」
スラぽんは驚く女の子を呑み込んだ。
もちろん〈亜空間〉の中に取り込んだのである。
「っ!? 悪魔がいなくなった!?」
聖騎士たちが女の子がいなくなっていることに気づいたとき、スラぽんはもう俺のところまで戻って来ていた。
「よくやったぞ、スラぽん」
『……!』
褒めてやるとスラぽんは嬉しそうにぷるぷると身体を揺らした。
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