第26話 ハーフデーモン

 俺たちは馬車で街道を進んでいた。

 今回の任務のため、冒険者ギルドから貸してもらったのだ。


「な、何であんたがあたしの隣なのよ!? せ、せめて、もうちょっと離れて座りなさいよ!」

「いや、もう限界だって。狭いんだから仕方ないだろ?」

「だ、だって……」


 助っ人のアンジュリーネ(娘)も一緒である。


「(あ、あんたの傍にいると、胸がどきどきしちゃうんだから……)」

「え? 何か言ったか?」

「なな、何も言ってないわよ!」


 まぁ、ばっちり聞こえたけどな!


 目的地の村までは約三日かかるという。

 しかし本当に悪魔が出たというのであれば、俺たちが到着した頃にはもう村は全滅しているんじゃないだろうか。


「その可能性は高いわね。でも、被害を拡大させないためにも冒険者の派遣は必要よ。……ほ、本当はあたし一人でも十分なんだけど! あんたたちなんて、むしろ足手まといだし!」


 彼女はソロの冒険者だ。そして元々は彼女一人でこの依頼を受けるつもりだったらしいが、それはさすがに危険だということで、セルカさんから臨時的に他の冒険者とパーティを組んではどうかと諭されたそうだ。

 つまり厳密に言うと、俺たちの方が助っ人という訳だな。


「けど、他のパーティは嫌だけど、俺たちとならパーティを組んでやっても良いって言ったのはアンジュリーネだって、セルカさんが言ってたけどな?」

「ななな、何言ってんのよ!? あたしがそんなこと言う訳ないでしょ!?」

「ニーナも聞いたのです」

「右に同じ」

「あああ、あたしがそんなこと言うわけないじゃない!」


 眦を吊り上げて怒鳴るアンジュリーネ。それから「(セルカ~~~っ、何で言うのよ~~~っ!)」と小さく呟いた。

 うん、さっきから全部聞こえてるんだけどな?


「ところで名前長いし、ギルド長と被るからアンジュって呼んでもいいか?」

「なっ……だ、ダメに決まってるでしょ!? 何であんたなんかに、そんなに馴れ馴れしく呼ばれなくちゃなんないのよ!」

「しばらくパーティを組むんだし、いいじゃないか、アンジュ」

「~~~~~~~っ!!!!!」


 俺が気軽にあだ名で呼ぶと、アンジュリーネ――アンジュの顔が蛸のように真っ赤になった。


「う、うぅ……嫌なのにっ……嫌なのにぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」


 ・アンジュリーネ:信仰度 75% → 80%


 内心では喜んでいることが俺にはバレバレです。



  ◇ ◇ ◇



 目的地に到着した。

 サントールという名前の小さな村で、人口は二百人ほど。魔物の襲来に備えるためか、村全体を堀と土塁で囲っている。


「見たところ平和そうだけどな」


 土塁も家も破壊された形跡はない。


「悪魔と言っても様々。人を喰らう者もいれば、人を支配して贅沢な暮らしをする者もいる」


 ファンが言う通り、人間並みか、むしろそれ以上の高い知能と個性を持つという悪魔の行動パターンは様々だ。原始的な破壊欲と食欲に任せた行動を取りやすい下級悪魔の方が、被害が大きくなる場合も多い。


「……嫌な予感がするわ。アマゾネスの勘は当たるのよ。あんたたち警戒なさい」


 俺たちは堀にかかっている橋へと向かう。見たところ、あそこしか村の中に入る方法はなさそうだ。


 村の入り口には櫓門があり、門番らしき村人の姿があった。ザ・門番という感じのおっさんだ。


 上級悪魔の中には人間を洗脳させる特殊な魔法も使う者もいるというし、村人が悪魔の手先になっている可能性もある。俺たちは十分に注意しながら門番へと近付いて行った。


モンク 32歳

 種族:人間族(ヒューマン)

 レベル:14

 スキル:〈剣技+2〉〈槍技+1〉〈忍耐〉

 称号:サントール村の門番


 まぁ〈神眼〉で見たところ、不自然なところはないみたいだけどな。悪魔に洗脳されているなら、状態異常に「洗脳」と出るはずだ。


 アンジェがギルド証を提示しつつ、門番に声をかける。


「あたしたちはファースから来た冒険者よ。この村の近くに悪魔が現れたって聞いたわ」

「そりゃあご苦労だったな。けど、悪魔ならすでに聖騎士様方が捕まえて下さったぜ」

「は?」


 予想外の言葉が返ってきて、アンジュが口をぽかんと開けた。

 門番が嘘を言っている様子はない。〈神眼+1〉に内包された〈慧眼〉のお陰で、俺は嘘を見抜くことができるのだ。


「……ちょうど今、広場の方で悪魔の公開処刑が行われているところだ」


 門番はどこか歯切れの悪い口調で教えてくれた。


「行ってみましょ!」

「ああ!」


 俺たちは急いで広場へと向かう。

 小さな村だ。すぐに辿りついた。


 村人の大半が集まっているらしく、広場にはかなりの人だかりができている。

 中心だけはぽっかりと空間ができていて、それを村人たちが輪の形に取り囲んでいた。


 恐らく磔刑だろう。

 広場の真ん中には柱があって、そこに何かが縛り付けられている。


「……なっ」


 俺たちは思わず息を呑んでしまった。

 柱に縛り付けられていたのは、七、八歳くらいの幼い少女だったのだ。


「殺せ!」

「悪魔を殺せ!」

「悪魔は生かしておくな!」


 村人たちが口々に罵声を轟かせ、あろうことかその幼い少女に向かって石を投げ付けていた。

 小さな身体に次々と石が当たる。


 中には幼い子供を処刑することを痛ましく思い顔を背けている者もいるが、それはごくごく少数派だ。


「まさか、あんな子が悪魔だって言うの……っ!?」

「酷いのです……」


 俺は〈神眼〉であの少女を見た。


ルノア 7歳

 種族:ハーフデーモン


 Q:ハーフデーモンって?

 A:悪魔と他種族の間に生まれた半悪魔。


 ハーフデーモンか……。

 肉眼でも確認することができるが、確かに頭に羊のような角が生え、背中には小さな黒い翼があった。鮮血のように赤い髪も悪魔の特徴の一つかもしれない。


 さらに俺はステータスの続きを確認する。


 レベル:48

 スキル:〈黒魔法〉〈翼飛行〉〈雷魔法〉〈重力魔法〉〈念話+1〉〈自然治癒力+2〉〈魔力吸収+1〉

 称号:悪魔公爵の娘

 状態:疲労(軽度)


 って、レベル48!?

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