第24話 アマゾネスの恋
見学していた冒険者たちから歓声が上がった。
「すげぇ!? まさか、あのアンジュちゃんを倒しちまうなんて!」
「もうBランク昇格でもいいんじゃないか!?」
「さすがなのですご主人さま!」
「う……」
気絶していたアンジュリーネはすぐに目を覚ました。
ちょっと口の端から涎が……見なかったことにしよう。
しばし何が起こったのか分からないといった顔で周囲を見渡していたが、やがて気を失う前のことを思い出したのだろう。悔しげに唇を噛み、身体を震わせて俯いてしまった。
「俺の勝ちだな」
声をかけると、アンジュリーネは顔を上げた。目には涙が溜まり、親の仇でも見るような目で俺を睨んできた。
だが次の瞬間、なぜかアンジュリーネの顔が真っ赤になった。
慌てたように俺から目を逸らす。
ちょっと〈神智〉で調べてみた。
Q:アマゾネスの繁殖について。
A:他種族の男と子をもうけるが、生まれてくるのは必ずアマゾネスの女である。自分より強い男に惚れ、発情する性質を持つ。たとえ嫌いな相手でも、戦って敗北すると強烈に惹かれてしまう。
・アンジュリーネ:信仰度70%
めっちゃくちゃ上がってる……。
「ごめんな」
「な、なんで謝るのよっ!」
「いや、勝つためとはいえ、女の子にいきなり抱き付いてしまったからさ」
「~~~~~~~~~っっっ!」
彼女はさらに顔を赤くし、あわあわあわと面白いくらいに慌て出した。
「べべべ、別に、そんなのぜんっぜんっ、気にしてないわよ……っ!」
「そうか。良かった」
「そそそ、そんなことよりっ! 次はぜったい負けないから! 覚悟してなさいよ!」
そう捨て台詞を残し、アンジュリーネは逃げるように訓練場を出て行った。
アマゾネス、戦闘民族なのになかなか可愛い種族じゃないか。
◇ ◇ ◇
ファースの冒険者ギルドでは史上最速でCランク冒険者になった俺は、ちょっとした有名人になっていた。
「あ、あの、レンジさん! さ、サインください!」
「俺のサイン?」
「は、はい!」
俺にサインをねだってきたのは、現在、俺たちがお世話になっている宿屋の娘のララちゃん(8歳)だ。
・ララ:信仰度45%
いつの間にか彼女は俺の熱心なファン(信者)になっている。
「はい、どうぞ。慣れてないから、あんまり上手くないけどな」
「あ、ありがとうございます!」
そうして宿屋のロビーには俺のサインが飾られるようになった。
他にも有名人のサインが飾られている。王都で有名な役者さんのだったり、歌手だったり。
そう言えば、前世でもこうした文化があったな。
「みんな。レイジさんが来てくださったわよ」
「わー、レイジお兄ちゃんだ!」
「遊ぼ遊ぼーっ!」
わらわらと子供たちがやってきて、あっという間に俺の周囲を取り囲んでいく。
「ファン姉ちゃんも遊ぼう!」
「了解」
「ニーナも遊ぼうぜ!」
「ニーナもお姉ちゃんと呼んでほしいのです! こう見えて、もう大人なのです!」
「嘘だ~」
「どう見たって子供じゃん!」
「もう十五歳なのです~~~っ!」
ファンとニーナも懐かれているようだ。
ここは街外れにある孤児院だった。
ボロボロの家に院長先生と十五人の子供たちが生活している。
アルナ 56歳
種族:人間族
レベル28
スキル:〈鞭技+3〉〈剣技〉〈水魔法+2〉〈動体視力+2〉〈慈愛+1〉〈子育て+2〉〈料理+1〉
称号:孤児院院長 ソリア教徒
かつてはCランクの冒険者だったらしく、56歳のアルナ院長は今でもそこらの冒険者にも劣らないステータスを持っていた。
ちなみにソリア教というのは、女神ソリアを信仰する宗教だ。この孤児院にも礼拝室があり、そこには女神ソリアを祭るための祭壇が設けられていた。
しかし現在、ソリアという女神は存在していない。
だって俺が殺しちゃったもんね。
〈神智〉で調べてみると、俺がこの世界に来たちょうどその日に一柱の女神がこの世界から消滅していたのである。
「レイジさんのお陰で、どうにか孤児院を続けていくことができそうです」
「いえいえ、お役に立ててなによりです。……これ、お納めください」
「ああ、本当にレイジさんは女神様が遣わしてくださった我々の救世主です……」
ある意味、間違っちゃいない。
救世主じゃなくて邪神だけどな。
実はこの孤児院、少し前まで深刻な資金不足に陥ってしまっていた。主にソリア教徒からの寄付金から成り立っていたのだが、突然、その額が急減したらしい。
それってたぶん、俺が女神を殺っちゃったからじゃね……?
それはまぁいいとして(いいのか?)。
アルナ院長は冒険者時代の伝手を使ってどうにか金を集め、孤児院を維持しようと試みたものの、日に日に暮らしは厳しくなり、子供たちの中には栄養失調で倒れる子まで出てきてしまった。
ちょうどそんな折に偶然訪れたのが俺だ。そして孤児院に多額の寄付をしたのだ。
鉱山で大量の聖銀鉱を手に入れた直後だったし、ちょっとした気紛れだったのだが、院長にはめちゃくちゃ感謝された。
その結果、
・アルナ:信仰度50%
俺の信者になった。
お金には余裕があるので、以来、こうして時々訪れては寄付をしているのである。
「すっげーっ! お兄ちゃん、Cランクに昇格したんだって!」
「すごいすごい!」
「僕も大きくなったら冒険者になる!」
・ルーカス:信仰度45%
・エリザ:信仰度55%
・ベル:信仰度50%
その甲斐あって、ここの子供たちも軒並み高い信仰度を持っている。
いずれは俺のために経験値を稼いでくれるようになるだろう。
つまるところこれは寄付ではなく、先行投資というやつである。くっくっく……。
レイジ
レベルアップ:29 → 30
孤児院で子供たちと遊んでいる途中、レベルが上がった。
ここ数日、冒険に出ていないときでも結構な経験値が入ってくるようになったな。
信者たちが頑張ってくれているのだろうが、それにしてもちょっと多過ぎるような気がするが……。
入ってくる経験値の量は知ることができるが、それが誰からのものなのか、今のところは明確に知る方法はない。だがスキルの熟練値の入り具合を見れば、大よその見当がつく。
調べてみると、特に〈体術〉や〈怪力〉、〈動体視力〉や〈俊敏〉の熟練値の上がりが良かった。このスキル構成は……アンジュリーネか。
レイジ
スキル獲得:〈拳技〉〈蹴技〉
〈拳技〉と〈蹴技〉のスキルを獲得したことからも、アンジュリーネで間違いないだろう。
俺に負けたことが悔しかったのか、どうやら厳しい訓練に励んでいるようだ。
◇ ◇ ◇
「はぁっ!」
「ブヒィ!?」
アンジュリーネの拳がオークの顔面を打ち抜き、吹き飛ばした。
昇格試験で受験者に敗北を喫するという屈辱を味わった彼女は現在、オーク山で猛特訓に明け暮れていた。
しかしどんなに自分を追い込んでみても、胸のモヤモヤが消えることはない。
「あああああもうっ! 何なの何なの何なのよこれはぁぁぁぁぁっ!?」
脳裏に浮かぶのは、一人の男の顔。
それを彼女は必死に振り払おうとする。だがアマゾネスの性か、まるで夜空に浮かぶ月のようにどこまでも追い駆けてくるのだ。
「あんな奴、好きじゃないのに! 好きじゃないのにぃぃぃぃぃぃっ!」
アマゾネスは女だけの戦闘民族だ。それゆえ自分より強い男に惹かれ、自分の意志に反して発情してしまうのである。
過去一度も男に敗北を喫したことがなかったアンジェリーナにとって、これは初めての経験だった。
言葉とは裏腹に、あの男のことを考えると胸がときめき、全身が火照ってしまう。
この状態を解消する方法はただ一つ。
戦って、勝つ。
つまり自分の方が強くなればいいのだ。
「ぜったい! ぜぇぇぇぇっっったいっ、次はあいつを打ち負かしてやるんだからぁぁぁぁっ!」
強い決意を抱き、アンジュリーネはオークを殲滅していく。
しかし悲しいかな。
彼女は知らない。
自分が経験値を稼げば稼ぐほど、相手もまた強くなってしまうということを。
アンジュリーネ
レベルアップ:31 → 32
レイジ
レベルアップ:29 → 30
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます