第23話 昇格試験
「おめでとうございます、レイジさん! 今回の成果で、レイジさんはCランクの昇格試験を受けることができるようになりました」
ファースの街に戻ってギルドにオーク討伐の報告に行くと、受付嬢のセルカからそんなことを伝えられた。そう言えば、Cランク以上に上がるためには昇格試験が必要なんだったっけ。
ちなみに現在この街のギルドを拠点としている冒険者たちは、だいたい百人ほど。
その中で、Cランク以上なのはせいぜい十人くらい。他はDランクが五十人くらいいて、残りの大部分はEランクだ。
最高は第一級冒険者とされるBランクで、俺が知る限りでは三人しかいない。
一人はギルド長のアンジュリーネで、もう一人は受付嬢のセルカ。あと一人は何度か見かけたことがある程度だが、初老の剣士だった。
ちなみに今のところ、英雄クラスとされるAランクの冒険者に出会ったことは一度もない。
「さすがご主人さまなのです!」
「あ、それからファンさんはDランクに昇格になります」
「分かった」
「……あっという間に追い付かれたのです……」
翌日、俺は早速、昇格試験を受けることにした。
試験内容は簡単なものだ。Cランクの冒険者と模擬戦を行い、Cランクに相応しい実力を示すだけだという。
俺はギルドの地下にある訓練場へと足を運んだ。
昇格試験を見学しようと、結構な数の冒険者たちが集まっていた。その中にはリザやバルドックたちの姿もあった。
「レイジくん頑張って!」
「それにしても、もうCランクへの昇格試験ですか」
「……追い付いたと思ったのに……」
リザたちはつい最近、Dランクに昇格したらしい。
「あちらの方が試験官です」
セルカに言われて視線を向けると、そこにいたのは見たことのある美女だった。
「……ギルド長?」
目付きの鋭いアマゾネスの女性だ。前に一度だけ、ルバートたちの件での報酬を貰ったときに会ったことがある。
けど、微妙に違うような気も……。
アンジュリーネ 18歳
種族:アマゾネス
レベル31
スキル:〈拳技+3〉〈蹴技+2〉〈体術+3〉〈怪力+2〉〈柔軟+1〉〈動体視力+2〉〈俊敏+2〉〈闘気+1〉
〈神眼〉で見てみると、ギルド長と同じ名前なのに年齢と称号が違う。それにレベルやスキルなんかも。
てことは、別人なのか?
「ギルド長の娘さんです。アマゾネスは娘に同じ名前を付けることも多くて、ややこしいことにギルド長と同じアンジュリーネさんなんですよ」
首を傾げているとセルカが教えてくれた。なるほど。○○二世みたいなものか。
彼女はもうすぐBランクの昇格試験を受けるらしく、Cランクの中では最上位の実力者だという。
俺はアンジュリーネと訓練場の真ん中で向かい合った。
「あんたがレイジね。安心なさい。試験だし、ちゃんと手加減してあげるわ」
戦闘民族らしく、かなり勝気な性格のようだな。
ふむ……。
1.「よろしくお願いします!」胸を借りるつもりで大きな声で挨拶する。
2.「……お、お手柔らかに……」ビクビクしながら相手を油断させる。
3.「じゃあ俺の方も手加減しないとな」あえて挑発する。
久しぶりにどのルートを選ぶべきか、少し考えてみた。
「じゃあ俺の方も手加減しないとな」
「はぁ? 何言ってんの? あんたは試験を受ける立場でしょうが」
「いや、その試験を受ける立場の俺が勝っちゃったら、君に悪いかなーと思って」
「……っ!」
選んだのは3だ。
アンジュリーネの全身から闘気が立ち昇り、長い髪の毛が逆立った。怒ってる怒ってる。
それでも彼女は冷静を装いながら(頬はぴくぴくしているが)鼻を鳴らす。
「はん。まさか、あたしに勝つつもりだなんて。ここまで順調だったから、どうやら調子に乗ってるみたいね。……いいわ。その自信、あたしの拳で粉々に粉砕してあげるわ」
「じゃあ、お互い本気ってことで」
「あとで後悔しても知らないから」
そして試験がスタートした。
と同時、俺は地面を蹴って猛スピードで突っ込んでいく。
両手剣・刹竜剣ヴィーブルを水平に振るった。
ガキキキィィィン、という凄まじい音が響く。見ると、アンジュリーネが右腕に装着した籠手で刃を受け止めていた。
刹竜剣が普通に受け止められた? 随分と硬い籠手だな。
俺は〈神眼〉で彼女の装備を見る。
・バトルガントレット:アマゾネスに伝わる籠手。ブラックタートルの甲羅製。稀少度アンコモン。
・バトルブーツ:アマゾネスに伝わる戦闘靴。ブラックタートルの甲羅製。稀少度アンコモン。
どちらも亀系の魔物の甲羅でできているようだ。
そしてスキル構成から推測される彼女の戦闘スタイルから見て、攻防いずれにも使える厄介な装備だ。
「はぁぁぁぁっ!」
アンジュリーネが上段蹴りを繰り出してくる。上体を反らした俺のすぐ鼻先を、バトルブーツの踵が高速で掠め通った。
高い強度を誇るということは、防御だけでなく攻撃においても脅威になるということ。
しかも上段蹴りを躱された彼女は、流れるような動きですぐに次の攻撃を放ってきた。俺は刹竜剣を盾にしてどうにか防ぐ。
アンジュリーネは止まらない。両手両足を使った、怒涛のごとき拳と蹴りの連撃。しかも〈怪力+2〉に加えて〈闘気+1〉による攻撃力の増加もあってか、一撃一撃が重い。
俺は防戦一方だ。
むう。攻撃に移る余裕がないな。
両手剣はどうしても予備動作が大きい。この様子だとそんな隙はなさそうだ。
「…あたしの攻撃を防ぎ続けるなんて、思っていたよりやるみたいね。けど、このままだとあたしには勝てないわよ?」
「それはどうかな」
ステータス的に言えば、彼女の方が俺より格上だ。
だがスキルが多い俺は、彼女に勝つ術など幾らでも持ち合わせている。
例えば防御を捨て、攻撃を喰らう覚悟で攻めるとかな。
俺には〈物攻耐性+3〉と〈自己修復+3〉があるし、今まで何度もこの作戦で逆境を覆してきた。けどあんまりやりたくない。だって痛いし。
あとはファンと戦ったときのように、魔法を使う戦法だ。
武技スキルと魔法スキルの両方を持つ人間は少ない。それゆえ不意打ちにもなる。普通、俺はただの剣士だと思っているだろうからな。
「グラウンドウォール!」
「なっ」
俺は土魔法で土の壁を出現させた。先日〈高速詠唱〉のスキルを覚えたお陰で、こうした接近戦中でも素早く魔法を使えるようになったのはありがたい。
「魔法も使えたなんて!?」
驚いているな。他の冒険者を通じて情報を得ている可能性もあったが、どうやら知らなかったらしい。……人付き合い悪そうだしな、こいつ。
アンジュリーネは突然目の前に露われた土の壁を拳で粉砕する。
しかしすでに壁の向こうに俺の姿は無かった。
「……どこに……っ!?」
俺は〈隠密〉スキルを全開にして彼女の死角へと移動していた。
そして音もなく近づき、タックル!
「ぐえ」
とても女の子の口から出たとは思えない声が漏れた。……彼女の名誉のためにも聞かなかったことにしよう。
〈突進+1〉を持つ俺の強烈なタックルは、オークリーダーの巨体すら吹き飛ばす。アンジュリーネの華奢な身体ならあっさりと宙を舞うだろう。
だが俺はそのまま彼女の身体に抱き付き、逃がさない。一緒に地面を転がると、〈体術+2〉スキルを生かしてすかさず絞め技に入った。
「くっ! は、離しなさいよ……っ!」
アンジュリーネは暴れるが、かえって首が絞まるだけだ。
「ギブアップするか?」
「し、死んでも……する、もんかっ……」
やっぱ負けず嫌いだな。
仕方ない。
「じゃあ、おやすみ」
「っ…………………………………」
アンジュリーネは落ちた(二つの意味で)。
・アンジュリーネ:信仰度 0% → 70%
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