第22話 必殺、スラぽんボール!

「ギャアアアアッ!?」


 一際身体の大きなオークが、断末魔の叫びを上げて倒れ込んだ。


 種族:オークリーダー(茶)

 レベル:29

 スキル:〈剣技+3〉〈怪力+3〉〈頑丈+3〉〈統率+2〉


 群れのボスだったオークリーダーである。

 俺がこいつを相手にしている間に、ニーナたちが他のオークを片付けていた。


「五体倒したのです!」

「私は十一体」

「また負けたのです……」

「でも頑張った。えらいえらい」

「子ども扱いはやめるのですぅ~!」


 ぷるぷるっ。

 ニーナとファンのやり取りを余所に、スラぽんは黙々とオークたちの死体を〈吸収〉している。


 オーク山に来て、今日で三日目だった。

 レベルが上がったこともあり、群れを形成しているオークたちをいっぺんに相手にしても十分に戦えるようになってきていた。



レイジ 0歳(24歳)

 種族:人間族(ヒューマン)(邪神)

 レベル:27

 スキル:〈神眼+1〉〈神智+1〉〈献物頂戴+1〉〈賜物授与+1〉〈死者簒奪+2〉〈物攻耐性+3〉〈自己修復+3〉〈突進+1〉〈剣技+5〉〈逃げ足〉〈槍技+1〉〈木登り〉〈怪力+4〉〈毒耐性〉〈盾技〉〈勇敢〉〈動体視力+1〉〈俊敏+1〉〈統率+3〉〈火魔法+2〉〈風魔法〉〈回復魔法〉〈杖技〉〈噛み付き+2〉〈遠吠え+2〉〈投擲〉〈翼飛行+4〉〈炎の息+3〉〈威嚇+2〉〈魔物調教+2〉〈念話〉〈隠密〉〈土魔法〉〈虎化+3〉〈爪技+3〉〈体術+2〉〈痛覚軽減〉〈頑丈+4〉〈高速詠唱〉

 称号:神殺しの大罪人 中級冒険者(Dランク)


ニーナ 15歳

 種族:ドワーフ族

 レベル:26

 スキル:〈採掘+2〉〈投擲+2〉〈忠誠+1〉〈怪力+4〉〈頑丈+3〉〈斧技〉

 称号:中級冒険者(Dランク)

 状態:信仰度87%


スラぽん 0歳

 種族:グラトニースライム

 レベル:25

 スキル:〈物攻耐性+2〉〈自己修復+2〉〈吸収+4〉〈触手攻撃+1〉〈噛み付き+3〉〈亜空間〉〈硬化+1〉〈怪力+3〉〈頑丈+3〉〈帯魔〉

 称号:暴食生物 保管生物

 状態:テイム 信仰度70%


ファン 15歳

 種族:犬人族

 レベル:27

 スキル:〈剣技+3〉〈二刀流+3〉〈俊敏+2〉〈体術+1〉〈嗅覚+2〉〈闘気〉〈怪力+3〉〈頑丈+3〉〈忠誠+1〉

 称号:駆け出し冒険者(Eランク) 英雄の卵

 状態:信仰度60%


 こうして見ると、やっぱり〈死者簒奪〉が+2になったのが大きいな。

 オークを倒すたびに〈剣技〉〈怪力〉〈頑丈〉の熟練値がどんどん入って来るので、〈賜物授与〉を使って仲間たちにも分配したのだ。本人たちの知らない間に。


「……最近、やけに調子がいい?」


 ファンが首を傾げている。

 本来はステータスを見ることなどできず、レベルやスキルといった概念も一般的ではない。なので本人たちとしては「最近の自分、成長が著しいなー」という程度の感覚なのだろう。


 俺の能力については二人にも秘密にしている。

 ニーナには以前、〈賜物授与〉のことについて少しだけ話したことはあるが、それくらいだ。〈死者簒奪〉のことも隠しているので、いつの間にか新しい魔法を習得していたりするのは「ご主人さまの成長速度半端ないのです」くらいに思っていることだろう。



「近くに群れがいる」


 ファンが犬人族特有の〈嗅覚〉を発揮し、またオークの群れを感知した。

 俺は〈神眼〉の能力の一つ、〈鷹の眼〉で上空から周囲を確認する。

 すると南東方向に、三十体ほどのオークの集団を発見した。


 かなり多いな。しかし様子がおかしい。よく見るとオーク同士で争っている。


「茶オークと緑オークが争っているみたいだな」


 この山には二種類のオークが棲息している。

 主に東部を縄張りとする茶色いオークと、西部を縄張りにしている緑色のオークだ。


 肌の色が違うだけで能力的には大差ない。強いて言うと、茶色の方が筋力が強く、緑色の方が敏捷値が高いくらいだろうか。

 この二種類のオークたちの仲はあまり良くなく、過去には大規模な戦争が起こったこともあるという。


 現在も両者のテリトリーの境界線付近では時々小競り合いが起こっているそうだ。それに遭遇したのは今日が初めてだが。


「そう言えばここ、ちょうどその東西の中間くらいだな」

「どうするです?」

「オーク同士で戦ってくれているならちょうどいい。割り込んで一網打尽にしてやろう」

「……三つ巴戦」


 俺たちはオーク同士の争いに乱入した。

 だが仲が悪いとは言え、やはり同じオークだ。俺たちが割り込んできたことを知ると、いったん争いをやめて共闘し始めた。予想外のピンチだ。


「あ、相手が多すぎるのです!」

「さすがにキツイ」

「いったん退くぞ!」


 俺たちは退避しようとしたが、すでに周囲はオークたちに完全包囲されていた。

 こうなったらあの技を使うしかない!


「ニーナ、スラぽんボールだ!」

「は、はいなのです!」

『……!』


 説明しよう!


 スラぽんボールとは、亜空間に身体を収納してボールサイズにまで小さくなったスラぽんを、敵集団目がけて全力投擲するという必殺技だ。〈投擲+2〉を持つニーナなら初速200キロくらい出る。

 途中でスラぽんが元のサイズに戻っても速度は落ちないので、相手からすれば巨大な塊が高速で飛来するという怖ろしい技である。


 スラぽんボールがオーク五、六体をまとめて吹っ飛ばした。


「すごい……」

「ニーナとスラぽんの連携技なのです!」


 その威力に呆気にとられるファンへ、ニーナがドヤ顔を向ける。

 俺たちは包囲網に空いた穴から一塊になって突破した。


 囲まれさえしなければこっちのものだ。

 全体的に足の遅いオークたちだが、当然個人差はある。俺たちはあえて逃げるペースを落とし、追い付いてきたオークから順番に撃破していく。


 こうなるともうオークたちに勝ち目はないはずなのだが、彼らは血気盛んな性格なので退くことはしない。しかも今は茶オークと緑オークがいて、互いに競争心を剥き出しにしているからなおさらだ。


「もう一回っ……もう一回、スラぽんボール使っていいですか!?」


 どうやらかなり気に入ったらしい。

 ニーナが再びスラぽんボールを投擲する。縦一列に並んでいたこともあり、かなりの数のオークを巻き込むことができた。



    ◇ ◇ ◇



 五日間の遠征を終えた俺たちは、ファースの街へと戻ることにした。


 荷物は少ない。というのも、すべてスラぽんが亜空間に保管してくれているからだ。普通ならテントや食糧などで大荷物なのだが。やはりスラぽんは便利だ。


「せっかくだし、このスキル使ってみるか」

「ご主人さまが虎になったのです!?」

「びっくり」

『……! ……?』


 俺は虎になっていた。

 盗賊団の頭目から手に入れたスキル〈虎化+3〉を使ったのだ。


 なんか変な感じだな。身体が一回り大きくなって、体軸が大きく前傾した。一応、二本脚でも立つことができるが、四足歩行の方が楽だ。


「ご、ご主人さまの上に乗るなんて、恐れ多いのです……」


 おずおずとニーナが俺の背中に跨った。スラぽんは小型化して彼女の肩に乗っている。


「遠慮するな。しっかり抱き付いておけよ」

「は、はいなのです! ふわぁ……体毛が気持ちいいのです……」


 俺はニーナを乗せたまま走り出した。速い。そして走りやすい。

 すぐ横をファンが並走してくる。犬人族の彼女は足が速いので、俺の上に乗るより横を走った方がいいだろうとの判断だ。二人同時に乗せて走るのもしんどいしな。


 この移動方法にしたのは正解だった。

 行きは丸一日かかったというのに、帰りは半日ほどでファースに辿りつくことができた。

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