第21話 オーク山

 ファースの街に戻った俺たちは、盗賊団を壊滅させたことをギルドに報告した。


「最近頻繁に旅の行商を襲っていた盗賊団『虎牙』で間違いないようです。ギルドでも依頼を出していたんですよ。上級冒険者向けの依頼ですけれど」


 セルカが言うには、連中はそれなりに名の知れた盗賊団だったらしい。


 牢屋に捕まっていた人たちの大半は、近隣の村からさらわれた女性や子供たちだった。泣きながら感謝された。

 後のことはギルドに丸投げしたが、これから身元を確かめ、それぞれ家族の下へと帰されるだろう。中には盗賊団に家族を殺された者もいたようだが……。


 盗賊団が溜め込んでいた金品は持ち主へと返された。ただし名乗り出る者は少なかった。たぶん持ち主がすでに死んでいるのだろう。

 持ち主が見つからない金品については、盗賊団を壊滅させた者――つまり俺の物になった。


 俺はその大部分を被害者の支援にでも使ってくれとギルドに寄付した。もちろん信仰度を稼ぐためなのは言うまでもない。


 ただし武器類に関してはしっかり貰っておいた。

 中には稀少なものもあったしな。


 ・刹竜剣ヴィーブル:両手剣。ドラゴンをも殺すことができる剣。ドラゴンへのダメージ増大。稀少度レア

 ・ユニコーンナイフ:ナイフ。一角獣(ユニコーン)の角で作られたナイフ。軽くて硬い。稀少度アンコモン

 ・不壊斧インパクト:両手斧。魔術により「壊れにくい」という属性が付与されている。稀少度アンコモン

 ・精霊剣シルフィード:片手剣。風の精霊の加護を受けた剣。敏捷値上昇。稀少度アンコモン


 武器を分配してみた。


レイジ

 装備:刹竜剣ヴィーブル

 装備:ミスリル軽鎧

 所持:ユニコーンナイフ


ニーナ

 装備:不壊斧インパクト

 装備:ミスリル軽鎧

 所持:投擲用ナイフ十本


ファン

 装備:精霊剣シルフィード

 装備:ミスリルソード

 装備:ミスリル軽鎧


 十分な資金も手に入ったので、残りはこの街で購入できる最強の装備であるミスリルシリーズで固めている。

 スラぽんに装備はないが、保管庫に予備の装備を入れてもらっている。本当に便利だよなぁ、スラぽん。


 それから人数も増えたので宿を変えることにした。

 バルドックたちと同じ宿だ。

 俺は一人部屋(ただしスラぽんと一緒)を借り、ニーナとファンは二人部屋だ。


「ご主人さまと別の部屋……」


 ニーナはちょっと悲しそうだ。


「大丈夫。私が一緒だから怖くない」

「だから子ども扱いしないで欲しいのです!」


 そして翌朝、なぜかニーナはげっそりとした様子で起きてきた。


「……大丈夫か? もしかして眠れなかったのか?」

「け、穢されたのです……」

「よく眠れた。すっきり」


 逆にファンは肌ツヤが増している。

 夜の間に一体何があったというのだろうか。


 宿の食堂で朝食を取っていると、ちょうどバルドックたちに遭遇した。


「聞いたぜ。お前ら、あの『虎牙』を壊滅させたんだってな?」

「さすがですね」

「本当にすごいですよ!」


 いえいえ、君たちが経験値と熟練値を稼いでくれているお陰です。

 俺たちに触発されたのか、最近かなり頑張っているようだしな。


 ・バルドック:信仰度20%

 ・ククリア:信仰度30%

 ・ロッキ:信仰度60%


 確認してみると、信仰度も増えている。てか、なんでロッキは俺のパーティメンバー並なんだ……? まぁ〈土魔法〉は地味に役立つし、ありがたいのだが……。


 ファンが新たな仲間に加わり、戦力アップした俺たちは、数日間の遠征に出発した。

 正式名称はトポル山だが、人々からはオーク山と呼ばれている。その名の通りオークたちが棲息しているこの山が目的地である。


 ファースの街から西へ丸一日かけて移動すると、その山は見えてきた。

 かなりなだらかな山だな。標高はそれほど高くない。似たような高さの峰が二つあるが、どっちが山頂なのだろうか。

 上の方は地面が剥き出しになっているところもあるが、基本的には鬱蒼とした木々に覆われていた。


 道中、山の方からは見えない岩陰でキャンプしている冒険者たちの姿をちらほらと見かけることができた。

 ファースの街を拠点とする上級冒険者たちにとって、この山は格好の狩り場なのだ。こうして数日間、泊まり込んでオーク狩りに精を出しているのである。


 俺たちは森の中へと分け入った。

 オークの生態はゴブリンと似たようなもので、基本的には数体から十数体単位で小さな群れを作っているという。中には一匹狼のオークもいるそうだが。


 お、早速いたぞ。


 種族:オーク(緑)

 レベル:21

 スキル:〈剣技+2〉〈怪力+2〉〈頑丈+2〉


 身長百九十センチくらいの豚頭の魔物だ。コボルトリーダーほどではないが、並みのコボルトと比べるとかなりデカい。

〈神眼〉の〈鷹の眼〉を使ってみるが、近くに他のオークの姿は見当たらないな。


「任せて」


 ファンが地を這うような姿勢で走った。〈俊敏+2〉に加え、精霊剣シルフィードの加護により凄まじい速度でオークに接近していく。


「ッ!?」


 ファンの剣がオークの首を切り裂いた。


「……硬い」


 噴き出す血を抑えながらよろめくオーク。まだ死んでいない。

 コボルトなら即死していただろうが、〈頑丈+2〉のスキルを持ち、生命力や耐久値に優れたオークは腰の剣を抜いて突然の襲撃者に応戦しようとしている。もっとも、あの様子だと真面に戦うことはできないだろうが。

 ファンがトドメを刺そうとする。


「待て」

「了解」


 俺の命令に素直に従うファン。さすがは犬人族、飼い主に忠実だ。


 オークには俺がトドメを刺した。俺が殺さなければ〈死者簒奪〉でスキルを奪うことができないからな。


レイジ

 スキルアップ:〈死者簒奪+1〉→〈死者簒奪+2〉

 スキル獲得:〈頑丈+2〉


 まさにその〈死者簒奪〉の段階が上がったようだ。


 Q:〈死者簒奪+2〉って?

 A:殺した生物が持っていたスキルを、その熟練値のまま奪うスキル。すでに取得している場合、熟練値が上乗せされる。


 ちなみに+1のときは、


 Q:〈死者簒奪+1〉って?

 A:殺した生物が持っていたスキルを、その熟練値のまま奪うスキル。すでに取得している場合、熟練値が高い方になる。


 違いが分かるだろうか?


 例えば俺が〈剣技+1〉のスキル持っていて、殺した魔物から〈剣技〉のスキルを奪ったとしよう。

 今までの〈死者簒奪+1〉の場合、俺が持っていた方が熟練値が高いため、魔物が持っていた熟練値は無駄になってしまっていたのである。


 ずっと勿体ないなぁと思っていたのだが、〈死者簒奪+2〉で熟練値が上乗せされるということは、この問題が解消されるということだ。これはかなり大きい。


 ぷるぷるっ。


 オークの死体は、討伐の証拠となる部位だけを残してスラぽんが〈吸収〉する。


スラぽん

 レベルアップ:21 → 22


 グラトニースライムであるスラぽんは、死体を取り込むだけでも経験値を稼ぐことができるのだ。

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