第15話 初めてのテイム

 ルバートを始末したセルカは、逃げようとしていたグースにも矢を射放った。生命力を散らし、大きな身体が倒れ込む。


 セルカは俺の方へと振り向いた。いつもの笑顔だ。


「笑顔の裏でこんな汚れ役をやっていたんです。幻滅しちゃいましたか?」

「そんなことないですよ」


 俺も同じですから。


「秘かに不良冒険者を始末している美人受付嬢なんて、ギャップがあってむしろ魅力的なキャラクターだと思います」


 俺の言葉に、セルカはくすくすと笑った。


「レイジさんならそう言ってくださると思ってました。何となく、私と似ているなって思っていたんですよ」

「似ている?」

「私と同じように裏の顔がありそうだな、って」

「裏の顔なんて、俺にそんな素敵なキャラ設定はないですよ」

「そうでしょうか? 少なくとも、絶対何か隠してますよね?」


 セルカが窺うような上目づかいで俺を見てくる。

 うーむ、鋭いな。さすが〈洞察力〉なんていうスキルを持っているだけのことはある。


「俺、実は神なんです」

「え?」


 呆気にとられた顔をするセルカ。


「これ、最重要機密なんで、絶対に誰にも言わないでください。俺もセルカさんのこと、誰にも言いませんので」


 俺が真剣な顔で言うと、セルカはぷっと噴き出した。


「レイジさんって、本当に面白い人ですね。ふふふ、分かりました。もちろん誰にも言いませんよ」


 ちゃんと冗談として受け取ってくれたようだ。でも実は本当に神なんです。邪神だけど。


 ・セルカ:信仰度 30% → 35%


 また上がった。彼女が信仰度を上げる基準はちょっと普通の人とは違うようだ。

 いずれにしても「秘密を知られたからには生かしてはおけない!」的な展開にはならなさそうで助かった。正直、今の俺では彼女に勝てる気がしない。



  ◇ ◇ ◇



 翌日、コボルト鉱山に向かう道すがら。

 俺は昨夜手に入れたスキルを早速使ってみることにした。


「ご主人さま、何しているのです?」


 ニーナが不思議そうに訊いてくる。

 俺は両手でスライムを抱えていた。必死に逃げようともがいているが、俺はがっしりと掴んで逃さない。


「スライムをテイムしようと思って」

「えっ、ご主人さま、魔物の調教もできるのです!?」

「初めてだけどな」


 やっぱ魔物の仲間と言ったらスライムだよな。最弱モンスターでありながら、成長すれば魔王級にもなり得る――というのがお約束だ。


 しばらく捕まえたままにしていると、やがて諦めたのか、スライムは大人しくなった。

〈念話〉を使って『危害を加えるつもりはない』という意志を伝えてみる。


『……?』

『本当だ。お前を仲間にしたい。これはお近づきのしるしだ』


 赤い薬草(薬草より稀少)を食べさせてみると、どことなく嬉しそうにぷるぷると震えた。


『……!』


 普通のスライムは草食で、中でも薬草が好みらしい。

 見た目では分からないが、実はスライムにも口があり、基本的には経口摂取だ。全身から栄養を摂取することが可能なのは、先日遭遇したグラトニースライムのような特殊な種族だけである。


「おっ、テイムできたぞ」


 種族:スライム

 レベル:1

 生命:13/13

 魔力:4/4

 筋力:6

 耐久:8

 敏捷:7

 知力:2

 スキル:〈物攻耐性〉〈自己修復〉

 状態:テイム


 あっさりと仲間になってくれた。


「す、すごいのです!」


 名前を付けてやらないとな。


「よし、お前は今日からスラぽんだ!」

『……!』


 ぷるぷるっ!


 ・スラぽん:信仰度10%


 どうやら魔物でもちゃんと信者になるらしいぞ。

〈賜物授与〉を使い、スラぽんに俺の経験値の一部を譲渡してやる。


レイジ

 レベルダウン:20 → 18


スラぽん

 レベルアップ:1 → 11


 スラぽんのレベルが一気に上がった。

 この調子でどんどん育てていこう。





 この日、俺たちは鉱山の第五層にまで足を伸ばした。


レイジ

 レベルアップ:18 → 20

 スキルアップ:〈剣技+2〉 → 〈剣技+3〉

 スキル獲得:〈土魔法〉〈隠密〉


ニーナ

 レベルアップ:18 → 20


スラぽん

 レベルアップ:11 → 13


 一日かけてのステータス面での成果である。

 新しいスキルを獲得していた。〈隠密〉はともかく、〈土魔法〉なんて練習すらしてないのになぜだと思ったが、どうやら信者ルートから熟練値が入って来たらしい。

 確か〈隠密〉はメアリとセルカが、〈土魔法〉はロッキが持っていたよな。


〈剣技〉はリザとバルドック、それからセルカが持っている。俺自身も剣で戦っていたため、結構な熟練値を稼げていた。


 問題は……金だ。

 奴隷商との約束の期日まであと三日。

 現在の所持金は金貨15枚ちょっと。

 目標は50枚。

 全然足りない。


 このままコボルト狩りを続けても50枚は難しいだろう。

 かと言って、Dランク冒険者では一気に大金を稼げるような目ぼしい依頼はない。

 危険度は高いが、主に上級冒険者(Cランク)たちが狩り場にしている場所に行ってみるか……。


 その日の夕方。

 ギルドの掲示板の前で思案していると、セルカに声をかけられた。


「レイジさん、ギルド長がお呼びですよ」


 こうした呼び出しに良い思い出がない(気がする)俺だが、突っ撥ねるわけにもいかないので大人しくギルド長室へ。

 ニーナとスラぽんも一緒だ。ちなみにスラぽんの身体には、「従魔の証」という魔法のタグをくっ付けてある。なので街の中に入っても問題はない。最初は餌と間違えて呑み込んでしまい、教え込むのに苦労したが。


 ギルド長室に入ると、執務机に両脚を乗せて偉そうに座っている美女がいた。

 俺が入室すると、ギロリと睨めつけてくる。隣でニーナがびくっとした。


「てめぇがレイジか」


 美女が立ち上がる。すらりとした体型ながら、出るところはしっかりと出ている。つまりダイナマイトボディ(死語)である。ボンテージファッションみたいな締め付けの強い服を着ているため、それが余計に強調されていた。


アンジュリーネ 43歳

 種族:アマゾネス

 レベル39

 スキル:〈拳技+3〉〈蹴技+4〉〈体術+4〉〈怪力+3〉〈柔軟+1〉〈動体視力+3〉〈俊敏+2〉〈闘気+2〉


〈神眼〉で見てみるが、ギルド長に相応しい強さをお持ちのようだ。

 てか、アマゾネスか。確か女だけの戦闘民族だったっけ。それにしても43歳には見えないんだが。


 Q:アマゾネスって長寿種?

 A:寿命は人間族と大差ない。ただし若い期間が長い。


 サ●ヤ人か。


 アンジュリーネは中身がずっしり詰まった袋を放り投げてきた。


「褒美だ」


 中には金貨15枚が入っていた。

 たぶんルバートたちの件だろう。口止め料も入っているのかもしれない。

 冒険者ギルドに犯罪者を裁く権利はない。なのに秘密裏に不良冒険者を処理しているのだから、外に漏れては都合が悪いのだろう。まぁそのお陰で平和が保たれているのなら、俺としては何の異論もないが。


「お金、です……?」

『……』


 事情を知らないニーナは目を白黒させている。スラぽんは何を考えているのか分からない。


「謹んで頂戴いたします」


 俺は礼を言ってギルド長室を後にした。

 これで金貨30枚。あと20枚だ。

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