第11話 コボルト殲滅戦

 コボルトの集団から必死に逃げてきているのは、男二人、女一人のパーティだ。


バルドック 29歳

 種族:人間族(ヒューマン)

 レベル:17

 スキル:〈剣技+2〉〈指揮+1〉〈胆力〉

 称号:中級冒険者(Dランク)

 状態:疲労


ククリア 24歳

 種族:人間族(ヒューマン)

 レベル:16

 スキル:〈体術+2〉〈動体視力〉〈俊敏+1〉

 称号:中級冒険者(Dランク)

 状態:疲労 怪我(重傷)


ロッキ 22歳

 種族:人間族(ヒューマン)

 レベル:16

 スキル:〈土魔法+2〉〈高速詠唱〉

 称号:中級冒険者(Dランク)

 状態:魔力枯渇 怪我(軽傷)


 剣士、武闘家、それから魔法使い、といったところか。

 女冒険者のククリアは足に怪我をしているようで、剣士のバルドックが背負っている。だが彼の疲労もピークに達しつつあった。

 ロッキが土魔法でコボルトの足止めを図っているが、彼の魔力はすでに枯渇気味だ。


 対して、彼らを追い駆けるコボルトはここから見えるだけでも十匹以上はいる。コボルトリーダーも交じっているし、今の彼らでは追い付かれると一巻の終わりだろう。


 縄梯子を使い、第三層まで逃げるつもりだったのだろうか。しかし一人を背中に抱えている状態で上れるとは思えない。パニックになって正常な判断ができていないのかもしれないな。


 さてどうしよう。


 1.巻き込まれるのは御免だ。先に縄梯子を上って逃げる。

 2.対価を要求し、返答次第では助けてやる。

 3.無条件で助ける。


 3の無条件(表面上)で助けるだな。


「ニーナ。手を貸してくれるか?」

「もちろんなのです!」


 ご主人さまならそう言うと思っていました、という顔で返事するニーナ。順調に俺の信者として育っているようだ。


「た、助けてくれるのか!?」

「もちろんです!」

「恩に着る!」

「ニーナ、あの三人が通り過ぎたら、槍斧(ハルバード)をコボルト目がけてブン投げてくれ」

「分かったのです!」


 冒険者たちが俺たちの脇を駆け抜けた直後、ニーナが全身を使って振り回した槍斧を迫りくるコボルトの群れ目がけ放り投げた。


「ギャッ!?」

「ギエ!?」

「グァッ!」


 先頭を走っていた数匹に直撃し、悲鳴が上がる。さらに、倒れ込んだ仲間の身体に足を取られて続いた何匹かが転倒した。


「ポーションです」

「あ、ありがとう……」


 その隙に足を怪我した女性冒険者に回復薬を飲ませる。同時にヒールもかけてやった。


「ロッキさんは先に上へ!」

「は、はいっ……あれ、何で僕の名前を……?」

「(あ、やべ……)」


 ロッキという名の魔法使いには先に縄梯子を上ってもらった。魔力が枯渇した魔法使いなんていても役に立たないしな。

 次は治療を終えた女性冒険者のククリアだ。まだ痛むだろうが、動かせないほどではないだろう。元の身体能力は高いので、一人で上れるはずだ。

 それに剣士のバルドックが続く。


「ニーナも急げ!」

「ご主人は!?」

「俺は時間を稼ぐ!」


 ニーナと入れ替わるように、俺はコボルトの群れへと突撃した。

 鋼の剣を振るい、コボルトの首を刎ねる。相手も〈剣技〉スキルを持っているが、俺は〈剣技+2〉。しかも〈動体視力〉や〈俊敏+1〉というスキルのアシストがある。コボルト程度は瞬殺だ。

 厄介なのは俺と同レベル帯のコボルトリーダーだが、こいつも普通に戦っていれば負けることはない。


 だが相手の数が多い。

 知能があまり高くないため連携は取れていないが、それでも同時に繰り出される斬撃は厄介だ。捌き切れない。

 なので身体で受け止めることにした。


「ご主人さまッ!?」

「おい、大丈夫か!?」


 背後から悲鳴が聞こえてきた。

 だがまったく問題ない。俺にはグラトニースライムから獲得した〈物攻耐性+3〉と〈自己修復+3〉がある。コボルトの剣を受けても、ちょっとした切り傷が付く程度。その傷もすぐさま修復されていく。


「ウオオオオオオオン!」


 咆哮を上げているコボルトリーダーがいた。


 種族:コボルトリーダー

 レベル:19

 スキル:〈剣技+2〉〈噛み付き+2〉〈統率〉〈遠吠え〉


 Q:〈遠吠え〉って?

 A:仲間を呼ぶスキル。


 厄介な能力だ。早く倒さないとさらに仲間を呼ばれてキリがないな。


「ファイアボール!」

「ッ!」


 火魔法をぶつけて牽制。

 他のコボルトは無視して間合いを詰め、真っ先に仕留めようとする。


「ギャッ!?」

「命中なのです!」


 コボルトリーダーの腕にナイフが突き刺さった。ニーナのナイス援護だ。このチャンスを見逃さない。俺の剣がコボルトリーダーの喉首を掻き切った。


 ニーナ

  スキルアップ:〈投擲〉→〈投擲+1〉


 おっ、ニーナの〈投擲〉が+1になったぞ。





 全部で二十匹くらいは倒しただろうか。

 ようやく全滅させることができた。

 あっ、時間稼ぎのつもりだったのに……。

 まあいいか。


 レイジ

  レベルアップ:16 → 17


 レベルが上がったぜ。


「ご主人さま、大丈夫なのです!?」

「ああ、平気だ」


 ニーナが縄梯子を下りて駆け寄ってくる。


「あれだけの数を一人で倒しやがった……」


 遅れてバルドックたちも降りてきた。怪我はほぼ完治したようで、ククリアは普通に歩いている。


「それより足は大丈夫ですか?」

「え、ええ。お陰さまで……」


 俺が気遣うと、ククリアは困惑した顔で頷いた。


「俺はバルドック。Dランクの冒険者だ」

「私はククリアです」

「ぼ、僕はロッキです!」


 バルドックは体格のしっかりした、三十がらみの青年だった。いや中年か? ちょうど微妙な年齢だな。どうやら彼がこのパーティのリーダーらしい。


 ククリアは二十代中頃の女性で、すらりとした体躯の美女だ。一見大人しそうだが、〈体術+2〉のスキルを持っていることからも分かる通り、肉弾戦を得意としているようだ。


 ロッキは少し気弱そうな印象を受ける二十歳くらいの青年で、土魔法が得意な魔法使いである。見た目も何となく土魔法使いっぽい。


「俺はレイジです。一応Dランクの冒険者ですが、まだまだ駆け出しです」

「もしかして、お前が最近話題になっている新人か!?」


 俺が名乗ると、バルドックが驚いた。どうやら俺の名はちょっと有名になっているらしい。


「最近、冒険者の間で話題になってんだぜ。ギルドのアイドル、セルカ嬢に色目を使ってる命知らずな新人ってことでな」


 いや色目なんて使ってないって。


「それは冗談としても、僅か一週間でDランクに上がった期待の超大型新人だと噂されていますよ」


 ククリアさんが補足してくる。


「そんな大層なものじゃないですよ」

「いえ、先ほどの戦い振りを見て確信できました。しかも剣技だけでなく、攻撃魔法や回復魔法まで使うなんて……」

「しっかし、マジで助かったぜ。まさかあんな大群に追い駆けられる羽目になるとは思わなかったぜ」


 バルドックは豪快に笑う。


「あなたが不用意に彼らの寝床に近づくからですよ、まったく」


 ククリアが嘆息しながら睨みつける。


「いやぁ、悪ぃ、悪ぃ」

「悪いじゃすまないですよ、リーダー! 危うく死ぬところだったじゃないですか!」


 ロッキが声を荒らげた。先ほど俺が知らないはずの名前を呼んでしまったことは気にしていないようだ。忘れてくれたら助かる。


「おいおい、冒険に危険は付き物だろ? 死にそうになったくらいで情けない顔するんじゃねぇよ」


 どうやら随分と暢気な性格のようだ。いや、自分から危険に飛び込んでいくようなことを仕事にしているんだ、冒険者なんてみんなこんなものかもしれないな。


「それはそうと、助けてもらった礼をしなくちゃならねぇな」

「いえ、必要ないですよ。俺が助けたいから助けただけですし。皆さんが無事だった。俺にとってはそれが一番の報酬ですよ」


 バルドックたちが目を丸くした。


「お前、なんて良い奴なんだっ……」

「強いだけじゃなく、こんなに優しいなんて……」

「僕、感動で涙が出てきましたっ……」


「さすがなのです、ご主人さま……っ!」


 ニーナまで俺を賞賛の眼で見てくる。


 ・バルドック:信仰度15%

 ・ククリア:信仰度25%

 ・ロッキ:信仰度45%


 こうしてバルドックたちも俺の信者になった。

 ロッキがやけに高いのが気になるけど……。

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