第10話 グラトニースライム

 ぶよぶよとした巨大な塊に遭遇し、俺たちは思わず足を止めた。


「な、何なのですあれは!?」

「スライムの稀少種らしいな」


 高さ三メートル、幅四メートルほどもある。普通のスライムと違い、〈吸収〉というスキルを持っている。あれだけの大きさになったのは、すでにこれまで色んなものを取り込んできたからかもしれないな。


 そのときグラトニースライムが身体から触手を伸ばし、攻撃してきた。慌てて躱す。

 触手と言っても女の子を凌辱するような可愛らしいもの(?)じゃない。波状鎚のような一撃に、地面がごっそりと抉り取られた。


 グラトニースライムが襲い掛かってきた。幸い、動きはそれほど素早くなく、後ろ向きに走っても十分に距離が取れる。

 こいつに接近するのは自殺行為だろう。触手が届く範囲外を保ち、遠距離攻撃で倒すしかないな。


「物理攻撃はあまり効かなさそうだな」


 試しにニーナにナイフを投げさせてみると、身体に突き刺さった後、ゆっくりと体内に沈み込んでいった。取り込まれてしまったのだ。


 生命:167/168


 ダメージも低い。それに〈自己修復+3〉のせいで、すぐに回復してしまった。

 となると魔法攻撃しかないか。


「ファイアボール」


 生命:165/168


 火魔法をぶつけてみると、さっきよりはダメージが大きかったが、これではまたすぐに回復されてしまいそうだ。


「ニーナ、マインドポーションを用意してくれ」

「はいなのです!」


 マインドポーションというのは魔力を回復させるためのポーションだ。

 俺はファイアボールを連射しまくった。的がデカいので外れる心配はない。


 生命:145/168


 グラトニースライムの生命力がどんどん減っていく。

 不味いことで有名なマインドポーションで魔力を補給しつつ、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール……もっと強力な魔法を覚えたいな。


 念のため三本も買ってきたマインドポーションをすべて飲み干してしまう。げぷ。普通のポーションより値段が張るので、痛い失費だ……。


 生命:0/168


 ようやくグラトニースライムの生命力がゼロになった。


 ・粘性生物の目玉|(でかい):稀少度アンコモン



 でかいからか、ドロップした目玉はやや稀少なアイテムだった。普通のスライムの目玉はせいぜい拳大なのに、これは人間の頭くらいある。持って帰るのが大変そうだ。余談だがスライム種は目が一つしかない。


レイジ 0歳(24歳)

 種族:人間族(ヒューマン)(邪神)

 レベル:14 → 15

 スキル:〈神眼+1〉〈神智〉〈献物頂戴〉〈賜物授与〉〈死者簒奪+1〉〈物攻耐性+3〉〈自己修復+3〉〈突進〉〈剣技+2〉〈逃げ足〉〈槍技〉〈木登り〉〈怪力〉〈毒耐性〉〈盾技〉〈勇敢〉〈動体視力〉〈俊敏+1〉〈統率〉〈火魔法+1〉〈風魔法〉〈回復魔法〉〈杖技〉〈噛み付き+2〉〈吸収+3〉〈触手攻撃+1〉

 称号:神殺しの大罪人 中級冒険者


 レベルが上がり、〈吸収〉と〈触手攻撃〉のスキルを習得した。

 これって俺にも使えるスキルなのか……?


 Q:人間族でも〈吸収〉できる?

 A:可能。ただし経口摂取のみという制限がつく。


 つまり俺は何でも食えるようになったようだ。しかも食った相手の性質を吸収できるという。

 いや、魔物とか食いたくないんだが……。

〈死者簒奪〉があるし、あまり要らないスキルかもしれない。まぁ食うものが枯渇して餓死しそうになったときなんかには使えるか。あと毒を飲んでも死ななくなったらしい。


 Q:人間族でも〈触手攻撃〉できる?

 A:可能。ただし腕のみという制限がつく。


 それって触手じゃなくね?

 しかし腕がちょっと柔らかくなっている気が……。怖いのでこのスキルの熟練値を上げるのはやめておこう。某海洋冒険漫画の主人公と被ってしまいそうだしな。


レイジ

 スキルアップ:〈神智〉→〈神智+1〉


 おっ、〈神智〉の方も段階が上がったぞ。

 アクセス権の制限が一部解除されるとともに、どうやら検索機能が付いたらしい。お陰で調べる速度が大幅にアップした。これなら戦闘中でも使うことが可能かもしれない。


 ファースの街に戻り、ギルドに粘性生物の目玉|(でかい)を持ち帰るとちょっとした騒ぎになった。


「こんなに大きいの見たことないですよ!」


 受付のセルカが驚いている。


 1.「俺のも大きいぜ?」爽やかな笑みとともに。

 2.「欲しかったら君にプレゼントするよ」気前よく言う。

 3.「偶然ばかでかいスライムに遭遇して、俺もびっくりしたよ」無難に説明する。


 1は何でいきなり下ネタぶっ放してんだよ。普通に引かれるだろ。

 2も意味が分からん。これは宝石じゃなくて目玉だ。


「偶然、馬鹿でかいスライムに遭遇して、俺もびっくりしたよ」

「ご無事でよかったです。ヘビィスライム……いえ、この大きさだと恐らくキングスライムだと思いますけど、Cランクの冒険者でも苦戦したりするような魔物ですから」


 Q:ヘビィスライムとは?

 A:スライムが進化した上位種。レベル10以上で進化する可能性がある。


 Q:キングスライムとは?

 A:スライムが進化した上位種。レベル15以上で進化する可能性がある。


 俺が倒したのはグラトニースライムなんだけどな。目玉だけでは区別が付かないのだろう。証明する手立てはないので仕方がない。〈神眼〉を持っていることは隠しておきたいしな。


「ちなみにグラトニースライムってどんなスライムなんだ?」


 さりげなく訊いてみる。


「グラトニースライムと言えば、成長具合次第では危険度Aに指定されることもある魔物ですね。周りの物を吸収して際限なく成長する性質があって、かつて全長数百メートルにもなる巨大なスライムが都市を丸ごと呑み込んだという話があるくらいです」


 やっぱりヤバい魔物だったようだ。

 俺が倒したのはむしろ小さい方だったらしい。

 てか、危険度Aに指定された後に討伐しておけば大金を稼げたかもしれないな。まぁその場合、他の冒険者との取り合いになりそうだが。



  ◇ ◇ ◇



 翌日もまた俺とニーナは鉱山へと足を運んだ。

 そして順調に第二層までを踏破し、昨日は行けなかった第三層へと突入する。


「えいなのです!」

「ギャッ!?」


 ニーナが振り回した槍斧がコボルトを薙ぎ払った。吹き飛び、坑道の壁に叩き付けられる。


 ・ハルバード:槍斧。量産品。


 彼女に新しく買ってあげた武器だ。

 かなり重いが、筋力値が上がった今のニーナなら十分に扱うことができる。小さな女の子が重量級の武器を振り回しているのは、ちょっと異様な光景だが。


 今までの斧では俊敏な敵に当てることが難しかったのだが、これならそんな心配は要らない。

 相手が一体でも範囲攻撃みたいになってしまうし、万一躱されてしまうと無防備を晒すことになるので、その辺は注意が必要だ。


ニーナ 15歳

 種族:ドワーフ族

 レベル:13 → 14

 スキル:〈採掘+1〉〈投擲〉〈忠誠〉〈怪力〉

 称号:駆け出し冒険者


 積極的に敵を倒せるようになり、ニーナのレベルアップが加速した。

〈怪力〉というスキルも獲得している。このスキルはホブゴブリンを倒したときに手に入れて俺も持っているが、どうやらドワーフ族なら比較的習得しやすいスキルらしい。


レイジ

 レベルアップ:15 → 16


 それから何もしていないときに勝手に俺のレベルが上がったのだが、これはたぶん、リザたちが経験値を獲得したからだろう。信者乙。


 やがて第四層へと続く縦穴へと辿り着く。

 移動手段は縄梯子だ。

 上下に警戒しつつ下へと降りる。


 無事に第四層に降り立って一息ついたまさにそのとき、地響きが聞こえてきた。


「に、逃げろぉぉぉっ!」


 冒険者のパーティがコボルトの集団に追い駆けられ、こっちに迫って来ていた。

 マジかよ。

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