第9話 コボルト鉱山

 宿屋に戻った俺は、大きな問題に直面していた。


「部屋が空いてない?」

「はい。申し訳ありませんが、ちょうどすべて埋まっておりまして」


 困った。

 これまでは俺一人だから良かったのだが、今はニーナが一緒だ。二人で一つの部屋に泊まるわけにもいかない。何でもっと早く気が付かなかったんだ。


 他の宿に移るか。

 けど、すでに数日先の分まで宿代を前払いしてしまっているし、今さら返してくれなんて言うのもなぁ……。


「ニーナは床で寝るので大丈夫なのです」

「……いや、俺が床に寝よう」

「そ、そんな訳にはいかないのです! ニーナが床に寝るです!」

「女の子にそんなことさせるわけにはいかない」


 という訳で、一緒に寝ることにしました。

 仕方ないよな。だってベッドが一つしかないし、どっちも譲らないんだから。


 1.「男女が同じベッドで寝るんだ。覚悟はできているだろう?」エッチなことする。

 2.「ベッドは狭いし、寝ている間に落ちないようにしないとな」密着して寝る。

 3.「おやすみ。また明日、頑張ろうぜ」何もしないで普通に寝る。


 さてと……。






 チュンチュンと小鳥の囀る声が聞こえてくる。


「……朝か」


 朝チュン? いいえ、3でした。

 そりゃそうだろう。いきなりそんなことしねーよ。

 まぁいつの間にか2になってるけどな。


「……ご主人さまぁ……むにゃ、むにゃ……」


 ニーナは俺の胸に顔を埋めて、気持ちよさそうに眠っていた。

 思わず頭を撫でてやると、ふにゃっと頬が緩む。

 何だか小動物みたいで可愛らしいが、そろそろ起きる時間だ。


「おーい、朝だぞー」

「ふえ?」


 朝食を取り、冒険者ギルドに足を運ぶ。生憎、良さそうな依頼は無かった。申し訳なさそうにするセルカをしっかり労って信仰度を上げつつ、いつものように魔物討伐へと出発した。


 今日はゴブリンの森ではなく、街の北東にある鉱山に行ってみることにした。

 かつてはシルステル王国が管理する鉱山だったらしいが、現在は廃鉱になっているそうだ。そしていつの間にかコボルトという魔物が棲息するようになっており、冒険者たちの狩場の一つとして知られている。


 途中で何度かスライムや猪型のモンスターであるフレイジーボア、それから大きな蜂型のモンスターであるマッドビーに遭遇しつつ、俺たちは目的地へと辿り着いた。〈神眼〉のお陰で初めての道でも迷うことはない。


 廃鉱と同時に廃村となったようで、ボロボロの家々が放置されていた。

 ちなみにここが廃鉱になったのはもう何十年も昔のことらしく、ニーナがいた鉱山ではない。


「鉱山奴隷の仕事はきつかったですけど、嫌いではなかったのです」


 坑道内を歩きながら、ニーナが声を反響させた。ドワーフの性というものだろうか。


「いたぞ。あれがコボルトか」


 しばらく行くと、道の先に犬の頭を持つ毛むくじゃらの人型生物を発見した。

 手にはサーベルっぽい剣を持っている。

 あ、こっちに気付いた。


「来るぞ」

「はいなのです!」


 コボルトたちが襲い掛かってくる。全部で三匹。


 種族:コボルト

 レベル:10

 スキル:〈剣技+1〉〈噛み付き〉


 種族:コボルト

 レベル:9

 スキル:〈剣技〉〈噛み付き+1〉


 種族:コボルト

 レベル:11

 スキル:〈剣技+1〉〈噛み付き+1〉


「――ファイアボール」


 俺は覚えたばかりの魔法を使った。初級の火魔法だ。威力は低いが、詠唱が短いので発動までの時間が早くて助かる。


「ギャッ!?」

「ギェッ!」


 戦闘にいた一匹の頭に直撃する。もう一つ響いた悲鳴は、ニーナが投げた投擲用のナイフが別のコボルトの胸に突き刺さったからだ。

 思わず足を止めた彼らに、俺は剣でトドメを刺す。

 さらに残った一匹も素早く倒した。


レイジ

 レベルアップ:11 → 12

 スキル獲得:〈噛み付き+1〉


 レベルが上がり、〈噛み付き+1〉を覚えた。あまり使いたくないスキルだな。


「ちょっとレベル差が付いてしまったか」


 俺の今のレベルは12。一方、ニーナはまだ7だ。

 ニーナが獲得した経験値の80%が俺にも入ってくることに加え、そもそも俺の方が敵を多く倒しているので、俺の方が早くレベルが上がっていく。

 だがこのままではアンバランスなので〈賜物授与〉を使い、ニーナに俺の経験値の一部を授与することにした。


 レイジ

  レベルダウン:12 → 10


 ニーナ

  レベルアップ:7 → 10


 これでよし。


「また急に力が湧いてきたのです……?」

「俺の経験値の一部を譲渡したんだ。これでさっきくらいのコボルトが相手なら、後れを取ることはないだろう」

「ありがとうございますなのです!」

「気にするな」


 その一部はニーナから貰ったものだしな。


 ・ニーナ:信仰度82%


 しかしさすがに80%を越えてからは、信仰度もじわじわとしか上がらなくなったな。


 それからも俺たちは坑道内を歩き回り、コボルトを順調に倒していった。

 ちなみにコボルト一匹討伐すれば銀貨3枚になる。


 鉱山内は幾つかの階層に分かれているようで、下層に行くほど強力なコボルトが棲息しているという。

 この日、俺たちは二層まで進み、五十匹くらいのコボルトを倒した。何体か上位種が交じっていたが。


 種族:コボルトリーダー

 レベル:15

 スキル:〈剣技+2〉〈噛み付き+2〉〈統率〉


 Q:コボルトリーダーって?

 A:コボルトが進化した上位種。レベル15以上で進化する可能性がある。


 最終的に俺のレベルは14に、ニーナのレベルは13にまで上がった。


レイジ

 スキルアップ:〈神眼〉→〈神眼+1〉


 おっ、〈神眼〉の段階が上がったようだな。


 Q:〈神眼+1〉ってどんなスキル?

 A:神の目で対象を見ることを可能にするスキル。〈鑑定〉〈鷹の眼〉〈慧眼〉〈暗視〉などのスキルを内包。


 新しい機能が増えたぞ。

 加えて、より詳しいステータスを確認することが可能になったようだ。


レイジ 0歳(24歳)

 種族:人間族(ヒューマン)(邪神)

 レベル:14

 生命:73/73

 魔力:45/45

 筋力:46

 耐久:38

 敏捷:57

 知力:52

 スキル:〈神眼+1〉〈神智〉〈献物頂戴〉〈賜物授与〉〈死者簒奪+1〉〈物攻耐性〉〈自己修復〉〈突進〉〈剣技+2〉〈逃げ足〉〈槍技〉〈木登り〉〈怪力〉〈毒耐性〉〈盾技〉〈勇敢〉〈動体視力〉〈俊敏+1〉〈統率〉〈火魔法+1〉〈風魔法〉〈回復魔法〉〈杖技〉〈噛み付き+2〉

 称号:神殺しの大罪人 中級冒険者(Dランク)


 魔物のステータスも見ることができるようだし、これは戦闘にかなり役立ちそうだな。

 てか、地味に年齢が分かるようになってる……。


 最下層の第六層にはさらに上位のコボルトもいるらしい。

 明日は四層くらいまで行ってみたいな。






 鉱山からの帰り道のことだった。

 夕暮れの中、草原を歩いていると、俺たちは不思議な巨塊に遭遇した。


 種族:グラトニースライム

 レベル:21

 生命:168/168

 魔力:25/25

 筋力:69

 耐久:81

 敏捷:43

 知力:6

 スキル:〈物攻耐性+3〉〈自己修復+3〉〈吸収+3〉〈触手攻撃+1〉

 称号:暴食生物


 Q:グラトニースライムって?

 A:スライムの突然変異種。ありとあらゆるものを吸収し、無限成長する。


 なんかヤバそうなモンスターが出たぞ。

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