第8話 昇格
1.「助けてやったんだから、相応の金を払え」金銭を要求する。
2.「俺たちのパーティに加わらないか?」彼女たちを仲間にする。
3.「怪我をしているな。見せてみろ」回復魔法をかけてあげる。
1は論外だ。
2もやめておいた方がいいだろう。まだ三人とも信仰度が低い。仲間に入れて俺の能力を明かすには、最低でも50%以上の信仰度が欲しいところだ。
それに一度に三人も加えると色々と大変そうだ。特にミルフィは警戒心が強そうだしな。
「怪我をしているな。見せてみろ。……癒しの光よ、ヒール!」
俺は覚えたての回復魔法をリザにかけてやった。最も初歩的な回復魔法ではあるが。
「す、すごい……回復魔法まで使えるなんてっ……」
「ご主人さま、回復魔法も使えたのです!?」
リザだけでなく、ニーナも目を丸くして驚いている。
ミルフィとメアリにもヒールをかけてやった。それもかなり念入りに。
「可愛い女の子に傷が残ったりしたらいけないからな」
俺の台詞に、リザとメアリが瞳を輝かせた。
「あ、あたしが、かわいい……っ!?」
「……なんという紳士か……」
・リザ:信仰度 40% → 45%
・メアリ:信仰度 25% → 30%
信仰度が上がった。くく、こいつらもチョロイな。
「ニーナは怪我してないか?」
「だ、大丈夫なのです!」
まぁ怪我がないのは分かっていたけど、こうしてちゃんと気遣ってやることに意味があるんだよな。もちろん信仰度を上げるためだ。
リザは笑顔が似合う活発な少女。明るい茶髪のショートカットがよく似合っている。やや童顔だが、胸部は大人だ。
ミルフィは真面目な優等生タイプ。黒髪のロングに黒のローブと、全体的に少し地味な印象だ。
メアリは三人の中では一番小柄だが、その分、身軽そうだ。こげ茶色の髪を頭の後ろで括っている。表情に乏しく、ぼそぼそとしたしゃべり方をするのでやや聴き取り辛い。
リザは剣士、ミルフィは魔法使い、そしてメアリは盗賊らしい。
同郷出身の彼女たちは、幼い頃から冒険者に憧れていて、三人そろって半年前にファースの街に出てきて冒険者になったのだという。三人ともまだ俺と同じEランク。年齢はリザから順に、十七、十八、十六。
「相手がゴブリンくらいなら負けるはずがないって油断していたわ。時々、ああした上位種が出現することがあるって聞いていたのにね」
ミルフィが嘆息する。
俺も油断してたけどな。〈神眼〉により事前にステータスが分かっていなければ、ちょっとヤバかったかもしれない。
「レイジたちも冒険者なの?」
「ああ。一週間前に冒険者登録したばかりだけどな」
「えっ、一週間前!? じゃあ、あたしたちより後輩なんだ……」
「そうだな、先輩」
「や、やめてよ~」
一緒に街に戻ることにした。俺の方から「心配だから」と申し出たのだ。積極的に信仰度を上げていくスタイル。どのみちもう夕方だし、そろそろ帰ろうと思っていた頃だ。
「同じ駆け出しの冒険者同士、これから仲良くしようぜ。『一隅亭』っていうボロい宿に泊まってるから、何かあったらいつでも連絡してくれ」
街に戻り、冒険者ギルドに隣接している広場で俺たちは別れる。
「う、うん! ありがとう!」
「私たちとしても、あなたたちのような強いパーティと懇意になれるのはありがたいわね」
「……知り合い少ない……」
・リザ:信仰度 45% → 50%
・ミルフィ:信仰度 10% → 15%
・メアリ:信仰度 30% → 35%
俺としても君たちが強くなって、たくさん経験値を稼いでくれるとありがたいよ。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに討伐の報告をすると、受付のお姉さんが凄く驚いてくれた。
「すごいですね! ゴブリンリーダーなんて、危険度Cに指定されることもある魔物ですよ!」
ちなみに受付は俺の知る限り全部で五人いるのだが、このお姉さん(名前はセルカ。見た目は二十歳くらい)が断トツで美人で、冒険者たちからかなり人気があるという。
冒険者登録を担当してくれたこともあって、俺は彼女に報告することが多い。
もちろん下心もある。
・セルカ:信仰度15%
そんなに高くはないが、なぜか俺への信仰度を持っているのである。
「今回の報酬は金貨2枚と銀貨45枚になります」
おお、結構稼げたな。やはりゴブリンリーダーを倒したのが大きかった。
しかし一週間で金貨50枚は遠い。やはり報酬の大きな依頼を受けないと厳しいな。
だが今の俺の冒険者ランクはEだ。難易度が高く、報酬のいい仕事は高いランクの冒険者に優先的に紹介されるため、残っている依頼はどれも小粒なものばかり。討伐依頼の出ていないゴブリンを沢山狩った方がむしろ稼ぎがよいくらいだ。
余談だが、冒険者のランクはEからAまであり、大よそ次のような感じだ。
Eランク(駆け出し・下級冒険者)
Dランク(一般・中級冒険者)
Cランク(ベテラン・上級冒険者)
Bランク(達人・第一級冒険者)
Aランク(英雄)
そんなことを考えていると、セルカが思いがけないことを言った。
「それと、おめでとうございます! 今回の討伐成功で、レイジさんはDランクに昇格されました。たった一週間なんて異例の速さですよ!」
「え? 昇格ですか?」
「はい。規定では魔物を百匹以上、あるいはDランク以上の魔物を五匹以上討伐することでDランクに昇格することが可能です。レイジさんの場合、ゴブリンを百匹以上、ゴブリンリーダー、ゴブリンソードマンなどのDランク以上の魔物を五匹以上、討伐されています」
なるほど。規定回数の依頼を成功させることが昇格の必須条件だと思っていたが、他にも昇格する方法があったんだな。
しかしもう百匹も魔物を倒したのか。それも大半がゴブリン。そろそろゴブリンスレイヤーと呼ばれ始めそうだ。
「頼もしい仲間ができたお陰ですよ」
ニーナの頭をぽんぽんと叩いてやった。ちょうどいい位置にあるから叩きやすい。
「そそ、そんなことないのです!」
ニーナが顔を真っ赤にしてぶんぶんと手を振る。
何にせよ、これで多少はマシな依頼を受けられるようになるだろう。
「いい依頼があったらぜひ教えてください」
「もちろんです。レイジさんは期待のホープですから」
期待のホープって、意味が重複してますよ。
セルカに礼を言って受付から離れる途中、数人の男たちが俺を睨んできているのが分かった。〈神眼〉を持つ俺は、こうした視線には敏感なのだ。
まぁ、ぽっと出の新人冒険者がいきなり推し受付と仲良くなり出したのだ。面白くないのは当然だろう。
そのうちお約束の絡まれイベントが発生するかもな。
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