第7話 偽善神

 洞窟の奥に、ホブゴブリンほどではないが、並みのゴブリンより大柄なゴブリンを発見した。

 岩陰に隠れつつ、〈神眼〉でステータスを確認してみる。


 種族:ゴブリンリーダー

 レベル:16

 スキル:〈剣技+2〉〈盾技〉〈俊敏+1〉〈統率〉

 称号:ゴブリンの森のリーダー


 Q:ゴブリンリーダーって?

 A:ゴブリンが進化した上位種。レベル15以上で進化する可能性がある。


 ゴブリンリーダーは両側に二匹のゴブリンを侍らせていた。


 種族:ゴブリンメイジ(雌)

 レベル:11

 スキル:〈火魔法+1〉〈風魔法〉


 種族:ゴブリンヒーラー(雌)

 レベル:10

 スキル:〈回復魔法〉〈杖技〉


 雌かよ。人間なら両手に花なのだろうが、見た目は他の醜悪な雄たちと大差ないのでまったく羨ましくない。


 Q:ゴブリンメイジって?

 A:ゴブリンの上位種。攻撃魔法を習得したゴブリン。


 Q:ゴブリンヒーラーって?

 A:ゴブリンの上位種。回復魔法を習得したゴブリン。


 しかしただのハーレム要員という訳ではないようで、この二匹もかなり厄介そうだな。

 他にも四、五匹のゴブリンがいた。ゴブリンソードマンやゴブリンランサーばかりだ。

 二人で相手にするのは少々キツイかもしれない。


 だが迷っている暇はなさそうだ。

 三人の少女たちが手足を縄で縛られ、床の上に転がされていた。


 リザ

  種族:人間族(ヒューマン)

  レベル:11

  スキル:〈剣技+1〉〈度胸〉〈回避〉

  称号:駆け出し冒険者


 ミルフィ

  種族:人間族(ヒューマン)

  レベル:10

  スキル:〈水魔法+1〉〈氷魔法〉〈料理〉

  称号:駆け出し冒険者


 メアリ

  種族:人間族(ヒューマン)

  レベル:9

  スキル:〈隠密+1〉〈罠探知〉〈園芸+1〉

  称号:駆け出し冒険者


 冒険者のようだ。称号を見るに、まだ駆け出しらしい。しかしなぜ〈料理〉に〈園芸〉スキル……。


 この洞窟を発見して乗り込んだはいいが、ゴブリンたちに返り討ちにされたといったところか。ステータス的には並のゴブリン相手なら後れを取らない強さなので、油断したのだろう。身体のあちこちに傷や痣があり、HPがだいぶ減っている。


 ゴブリンの一匹がリザに覆い被さり、服を剥ぎ取っていた。


「い、いやっ……やめてっ……」

「リザ……っ!」

「っ……」


 豊満な胸が露わになると、他のゴブリンたちは下卑た笑みを浮かべながら、手を叩いて囃し立てる。


 1.危険は冒したくない。見なかったふりをして洞窟を出る。

 2.女の子がゴブリンに犯される様をじっくり観賞する。

 3.当然、助ける。


 もちろんここは2だ!

 ……嘘です。3です。助けます。


「ニーナ、サポートを頼む」

「は、はいなのですっ」


 俺は岩陰から飛び出していた。

 ゴブリンの注意は完全にリザに向いている。俺は一気に肉薄すると、その首を剣で掻っ切ってやった。

 どさり。絶命したゴブリンが倒れる。


 俺はすぐに次のゴブリンへと襲い掛かった。ゴブリンは突然のことに反応が遅れている。武器を抜こうとするが、その前に俺の剣が心臓を貫いていた。


「ギャギャッ」

「ギエェェッ!」


 怒りを露わに、ゴブリンたちが一斉に襲い掛かってくる。

 俺は先ほどのゴブリンソードマンから回収した盾も使って猛攻を凌ぎつつ、一匹ずつ確実に仕留めていく。


 そのとき、近くで魔力が膨れ上がるのを感じた。

 ゴブリンメイジが魔法を唱えようとしているのだ。


「ギュアェ!?」


 だがその頬に短剣が突き刺さる。ニーナの投擲だ。


「ナイス、ニーナ!」


 ゴブリンソードマンを蹴散らした俺は、三匹のゴブリンへと攻めかかった。

 剣を手にしたゴブリンリーダーが、雌たちを庇うように前に出てきた。ゴブリンヒーラーはゴブリンメイジに回復魔法をかけている。


〈剣技+2〉を持つゴブリンリーダーの剣さばきは凄まじかった。〈動体視力〉のスキルがなければ目で追うことすらできなかっただろう。

 俺はステータス的にも劣っているため、このままやり合うのは苦しい。


 俺は盾でゴブリンリーダーの斬撃を逸らすと、思い切ってタックルを繰り出した。意表を突かれ、ゴブリンリーダーはそれを真面に喰らう。

 スライムから獲得した〈突進〉に加え、ホブゴブリン由来の〈怪力〉もあって、ゴブリンリーダーは大きく吹っ飛んだ。


 すぐさま起き上るゴブリンリーダーだったが、そこへ回転する斧が飛んできた。ニーナが投げたそれが、ゴブリンリーダーの肩に直撃する。


「ギャァ!?」


 よろめいた隙を俺は見逃さなかった。

 彼我の距離を詰め、渾身の斬撃を見舞った。


「ギャアアアアアッ!!」





 ゴブリンリーダーを仕留めると怒ったゴブリンメイジとゴブリンヒーラーが襲いかかってきたが、あっさり返り討ちにしてやった。

 雌らしいが、ゴブリンだしもちろん遠慮はしなかった。


レイジ 0歳(24歳)

 種族:人間族(ヒューマン)(邪神)

 レベル:10 → 11

 スキル:〈神眼〉〈神智〉〈献物頂戴〉〈賜物授与〉〈死者簒奪+1〉〈物攻耐性〉〈自己修復〉〈突進〉〈剣技+2〉〈逃げ足〉〈槍技〉〈木登り〉〈怪力〉〈毒耐性〉〈盾技〉〈勇敢〉〈動体視力〉〈俊敏+1〉〈統率〉〈火魔法+1〉〈風魔法〉〈回復魔法〉〈杖技〉

 称号:神殺しの大罪人 駆け出し冒険者


 レベルが上がり、新たなスキルを手に入れた。


 おっ、〈死者簒奪〉が〈死者簒奪+1〉になってるぞ。

 しかも〈剣技+2〉と〈俊敏+1〉と〈火魔法+1〉を、高い段階のまま獲得しているようだ。

 これまでは相手がどんなに高い+が付いたスキルを持っていても、それを簒奪で引き継ぐことはできなかったのだが、恐らく〈死者簒奪〉の段階が+1に上がったお陰だろう。これは地味に大きいぞ。


 Q:〈死者簒奪+1〉って?

 A:殺した生物が持っていたスキルを、その熟練値のまま奪うスキル。すでに取得している場合、熟練値が高い方になる。


 おっと、それより早く彼女たちを助けてやらないとな。


「大丈夫か?」

「ふぇぇぇぇぇんっ、怖かったよぉぉぉぉぉっ!」


 俺が拘束を解いてやると、リザが思いきり抱き付いてきた。

 大きな胸が俺の身体に押し付けられる。しかもゴブリンに服を破られたので、生乳なんだが……。


「ちょっと、リザ! 服、服!」

「ひゃう!?」


 ミルフィに指摘され、リザが頓狂な悲鳴を上げた。


「ごご、ごめんなさい! 変なもの押し付けちゃって!」

「いや……」


 むしろ御馳走様でした。


「俺はレイジ。君は?」

「あ、あたしはリザ! さっきは助かったよ! だけどゴブリンリーダーを倒しちゃうなんて、すごいんだね!」


 仲間から借りたマントで胸を隠したリザが、尊敬の眼差しで俺を見てくる。


 ・リザ:信仰度40%


 彼女からすれば、俺は危機的な状況を救ったヒーローだ。会ったばかりだというのに、俺への信仰度が40%もあった。


「助けてくれてありがとう。もしあなたたちが来てくれなかったらと思うと、ぞっとするわ」

「……貞操危機一髪、だった……」


 ・ミルフィ:信仰度10%

 ・メアリ:信仰度25%


 リザほどではないが、他の二人からも信仰度を獲得していた。

 これで今後この三人からも経験値が入るという訳だ。


 やっぱ人助けって素晴らしいね!

 せっかくだし、もう少し信仰度を上げておくか。

 ……くっくっく(黒い笑み)。

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